金平茂紀が語る、テレビにおけるメディアリテラシー:「疑いすぎてテレビを諦めないでほしい」

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テレビマンとして40年のキャリアを持ち、現在もTBSの『報道特集』のメインキャスターを務めるなど、テレビ報道の一線で活躍する金平茂紀に、テレビにおけるメディアリテラシーについて聞いた。

―TVで気になるのが、視聴率合戦によるコンテンツ作りです。ワイドショーはあらゆる事象を正義と悪に二極化し、悪のレッテルを貼ったものを徹底的に叩く。視聴率はとれるかもしれませんが、だからこそメディアリテラシーが必要になんだと思うんです。

僕は今、早稲田大学でも教えているんですが、若い人のテレビ離れは加速しています。40年、テレビに携わってきた人間としては寂しい限りです。今の話を受けて、作る側としても、視聴率がよければそれでいいのか、ということは考えます。本来、メディアにとって大切なのは公共性です。今は自分の好きなことにだけアクセスをして情報を取る人が多いけれど、公共的な情報=みんなが知っていたほうがいい情報があるんです。公共的な情報がなくなり、自分の好きな情報や自分に都合のいい情報だけ集めるようになると、ものすごくいびつな社会になってしまう。公共的な情報というのは、社会を成り立たせている基本ですから。テレビでセ訥偉┐取れないものはやらなくていいイ箸い状況が進めば、本来知らなくてはいけない情報が行き渡らなくなり、社会が劣化していきます。具体的な事例を挙げると、アメリカで地方紙がなくなった地域では選挙の投票率が下がり、議員の多選が続きました。要するに、政治に関心がなくなり、地域全体が荒廃していくんです。地域に公共的なメディアがなくなると、とんでもないことになるとようやくアメリカは気づき始めて、ちゃんと公共情報を発信していくようになってきている。今の日本はその逆で、公共的なものを排除していっています。代わりに、人の劣情や感覚に訴えるものばかりを集中的にやる。死ぬほどオリンピックのメダリスト・ストーリーをやるとか、死ぬほど清原(和博)のことをやるとか、死ぬほどベッキーのことをやるとか。おかしいですよ。

―ええ。

人間の関心はもっと多様であるべきだし、そこが本来メディアが担うべき機能なんです。異質な物や多様性と接し、そうしたなかで衝突や葛藤しながら自分を鍛えていくのが本来の姿だと思います。

―では、なぜ日本のテレビはそうならないのでしょうか?

観ている人の想像力を甘く見てるんでしょうね。だから(金平の仕事部屋にある2つのTVモニターを見て)ちょうど今やっているNHKのお昼のニュースのトップは『リオ五輪柔道最終日』。TBSのトップは従軍慰安婦基金関連のニュースです。本来、五輪情報は2番手でもいいんですよ。番組を作る側は、最初に考えなくてはいけないものは何か、その姿勢をエディトリアル(編集)で示すことが大事なんです。だけど、世の中はリオ五輪一色ですよね。

―そんな状況で、観る側はどうやって公共的な情報を確保すればいいのでしょうか? あるいはどうやってテレビと付き合えばいいでしょうか?

複数のメディアに接することが大事なように、テレビもいろんなチャンネルを観るのが大事です。今だと海外のニュースチャンネルも観られます。それと、メディアに接する時はサ燭イ箸いΔ里呂發舛蹐鵑△蠅泙垢、疑いすぎてテレビ自体を諦めないでほしいですね。これはリテラシーの問題にも直結するのですが、要はいい番組を観ればいい。BSにも地方局にも、いい番組はありますから。そうした番組を自分で探して、観て考えることが重要だと思いますね。

金平茂紀が勧める良質なテレビドキュメンタリー5選

『NHKスペシャル 最後の秘境 第4集「最後のイゾラド」』NHK
アマゾン源流域、ブラジルとペルーの国境地帯にいる「イゾラド(隔絶された人々)」と呼ばれる謎の先住民族に迫った。「ヤノマミ」が大きな話題となった国分 拓ディレクターの作品。(2016年8月7日放送)

『ヤクザと憲法』東海テレビ
ヤクザは、今、何を考え、どんな暮らしをしているのか。指定暴力団・二代目東組(大阪市西成区)の二次団体二代目清勇会に100日間密着し、彼らの日常を追った作品。2016年に劇場公開。(2015年3月30日放送)

『しかし・・・福祉切り捨ての時代に』フジテレビ
1990年、水俣病訴訟の国側の責任者だった環境庁官僚の自殺と、貧困と病苦のなかで自殺した女性を並行で描いた。「福祉切り捨て」の時代に押しつぶされた男女の軌跡を辿る。是枝裕和、初のテレビディレクター作品。(1991年3月放送)

『あなたは・・・』TBS
寺山修司が構成を担当。一番欲しいものは何ですか? もしあなたが総理大臣になったら何をしますか? などの質問を老若男女829人に投げかけ、その答えだけで構成したドキュメンタリー。(1966年11月20日放送)

『忘れられた皇軍』日本テレビ
戦時中、皇軍(日本軍)兵士として戦地で戦った韓国人たちの戦後の活動を追った。戦地で負傷した彼らは日本政府に対して補償を求めるが、政府は門戸を閉ざす。大島 渚の作品。(1963年8月16日放送)

ローリングストーン日本版 2016年10月号掲載
特集|現代社会を生き抜くためのメディアリテラシー

SHIGENORI KANEHIRA
金平茂紀 1953年、北海道生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、1977年にTBS入社。社会部、『ニュースコープ』副編集長、モスクワ支局長、ワシントン支局長、『筑紫哲也NEWS23』編集長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを歴任。2010年に帰国、同年10月よりTBS執行役員、『報道特集』のキャスターを務める。2016年に執行役員を退任にともない退社。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。