自動車保険業界を破壊するフィンテック企業「メトロマイル」の躍進

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フィラデルフィア在住のスーザン・ギボンズは、30年間に渡り大手保険会社「ステートファーム」の自動車保険に加入していた。彼女は何度か担当者に電話をし、保険料を下げる交渉を試みたが、毎回きっぱりと断られた。

割高な保険料を払い続けることに苛立ちを覚えた彼女は昨年、グーグル検索で「メトロマイル(Metromile)」という新興の保険会社を見つけた。現在の保険料は、以前より年間720ドルも安くなったという。

メトロマイルは、走行距離に応じた自動車保険というビジネスモデルを掲げ、市場規模2,000億ドルとも言われる自動車保険業界に参入。1億9,200万ドル(約204億円)の資金を調達し、フォーブスの「世界のフィンテック50社」にも選出された。

メトロマイルは、2011年にデビッド・フライドバーグによって設立された。現在35歳のフライドバーグは、かつて農家向けの気候予測サービスを手掛ける「Climate Corp」を立ち上げ、2013年にアグリビジネスの大手企業であるMonsantoに10億ドルで売却した経験を持つ。

カリフォルニア大学バークレー校で天体物理学を学んだフライドバーグは、地球温暖化対策の一つとして従量制自動車保険を思い付いた。走行距離が短いと保険料を節約できるのであれば、多くのドライバーが運転頻度を減らすと考えたのだ。

しかし、メトロマイルが訴求するのは、あくまで保険料の安さだ。同社によると、ドライバーの65%が年間11,000マイル(約17,700キロ)も運転してないという。

競合のガイコやプログレッシブらも類似したビジネスモデルで事業を運営している。ガイコは、車両にデバイスを装着し、ドライバーの運転習慣を測定し、危険運転を行なうドライバーは保険料が高くなる。これに対し「メトロマイルは走行距離しか測定しない点が他社との違いだ」と同社のダン・プレストンCEOは強調する。メトロマイルは車載デバイスが収集したデータをモバイル通信で自社サーバに送信している。

ウーバーのドライバー保険にも採用

プレストンはスタンフォード大学出身で、かつて決済サービス会社を設立し、2012年に1億ドルでイントゥイットに売却した。根っからのテクノロジーおたくである彼は、CTOとしてメトロマイルに参画し、2014年にCEOに就任した。

サンフランシスコにあるメトロマイルの本社でインタビューに答えたプレストンは、他の保険会社との違いについて熱く語った。「メトロマイルの強みは、ビッグデータ解析に基づく保険リスクの評価だ。他社の場合、データ解析は補助的な機能に過ぎない」と述べた。

プレストンは、2014年に大学のクラスメートで、現在はウーバーの保険部門の責任者を務めるガス・ファルドナーに連絡し、両社の提携について協議を開始した。そして昨年、メトロマイルはウーバーのドライバー向けに従量制自動車保険の提供を開始した。従来の保険では、配車サービスを行っている間は保険が適用されないことが多く、ウーバーにとっては大きな課題となっていた。

メトロマイルは、この秋に伝統的な保険会社であるMosaicを買収し、保険引受から保険金請求の処理まで、全ての業務を自前で行う体制を整えた。

メトロマイルは現在、カリフォルニア州、イリノイ州、ニュージャージー州、オレゴン州、ペンシルベニア州、バージニア州、ワシントン州でサービスを提供しているが、今後はニューヨーク州やテキサス州、フロリダ州への拡大を計画している。

メトロマイルが目指すのは、自動車保険版の「コード・カッティング」だ。コード・カッティングとは、ミレニアル世代を中心に増えている、ケーブルテレビの契約を解約してネットフリックスなどのオンライン動画ストリーミングサービスに加入する行動を意味する

しかし、ドライバーが現行の保険契約を解除するのは容易ではない。冒頭で紹介したギボンズがステートファームとの契約をキャンセルしようとしたところ、彼女が同社と契約していた住宅所有者保険の保険料が数百ドル値上がりすると告げられたという。結局、彼女は住宅所有者保険も解約し、別の保険会社に乗り換えた。

大手保険会社の中には、メトロマイルのような新興保険会社と手を組もうと考える企業が出始めている。カナダの損害保険大手インタクト・ファイナンシャルや中国太平洋保険は、メトロマイルに出資をしている。メトロマイルの株主には、他にもビリオネアのマーク・キューバンをはじめ、ベンチャーキャピタルのNew Enterprise AssociatesやIndex Ventures、First Round Capitalなどが名を連ねている。

環境保護は同社の理念としてしっかり根付いている。メトロマイルは今年のエイプリルフールに「歩行者を歩数に応じて保護する新しい保険の提供を開始する」とのプランを発表した。実際に歩数を計測するのであれば、フィットビット(Fitbit)と手を組むのが賢明かもしれない。