セレブ達が反トランプを叫ぶ中、テイラー・スウィフトが沈黙を守る真意は?

写真拡大

 ドナルド・トランプが圧勝を収めたアメリカ大統領選。しかし全米各地で反トランプデモが起こるなど、混乱状態が続いているようです。

 クリント・イーストウッドやマイク・タイソンといった例外を除いて、アメリカのセレブが総出でヒラリー・クリントンを支持していたのはご存知の通り。しかもただ彼女を応援するだけでなく、トランプを激しく罵り全否定するといったメッセージが多かったのも特徴でしょう。※トランプ当選後、レディ・ガガは「愛は憎しみに勝つ(Love Trumps Hate)」というプラカードを掲げて抗議。「#Love Trumps Hate」に反トランプツイートが続々集まっている。写真はガガとサマンサ・ロンソン

◆女性セレブのヒラリー旋風にも、沈黙していたテイラー

 そんな中、今回の選挙戦で一定の距離を保っていたスーパーセレブがいました。それがテイラー・スウィフト。彼女は“沈黙は金なり”を徹底しつづけたのです。

 彼女は選挙期間中、どちらを支持しているとも誰がダメだとも公言しませんでした。そして、当日に投票の順番を待つ姿をSNSにアップして、「選挙に行きましょう」と一言だけ残した。

 結果に納得がいかず、トランプタワーの前でプラカードを掲げたレディー・ガガや、反トランプデモに参加したマドンナなどとは対照的ですね。

◆「なぜメッセージを発しない?」と非難の声も

 こうした姿勢に、「何一つメッセージを発しなかったことを忘れない」とか「なんでヒラリー支持を表明しないの?」といった批判が多く寄せられたわけですが、そもそも支持政党や思想信条を明らかにする必要はないという自由はどこへ行ったのでしょう?

 何よりも優秀なビジネスパーソンのテイラーですから、今回ほど、どちらに肩入れしたところで何の得にもならない選挙はないと踏んだのでしょう。

 日本のマスコミですら、“嫌われ者同士の消去法”と報じた戦いなら、なおさらのこと。仮にヒラリー支持を明言して勝利したとしても、そこまで大きなリターンはないと判断するのも無理はありません。彼女は自分のブランドを守るために合理的に振る舞っただけなのです。

◆トランプ勝利で曲を使われたミック・ジャガーの反応

 そして、直接選挙には関係ないのですが、ミック・ジャガーのケースにも触れておきましょう。こちらのキーワードは、“腹芸”でしょうか。

 予備戦のとき「Start Me Up」を使っていたトランプに対し、ストーンズは楽曲の使用中止を要請しました。ところが先の勝利会見で会場から去る際に流れたのが、何と同じストーンズの「You Can’t Always Get What You Want」だったのです。(“欲しい物なんでも手に入ると思うなよ”という意味のタイトルが、ヒラリーへのあてつけだというウワサも)

 さてここからが面白いところで、ミックもさぞお怒りかと思いきや、「こりゃ大統領就任式で歌ってくれとオファーが来るかもな(笑)」とツイートしたのだから驚きです。

 となるとストーンズはトランプに楽曲を使われることに対して、最初から本当に怒っていたのでしょうか? 彼らは実際に法に訴えて、楽曲の使用禁止をトランプ側に要求することもできたのです(※)。なのに、そうした行動に打って出ませんでした。なぜなのでしょうか?
 そこでヒントになりそうなのが、イギリスのEU離脱を支持したミックの言動。トランプの訴える政策にも保護主義的な要素が見られる点を考えると、むしろ方向性は一致しているようにも思われます。

 なので“世間的にトランプといっしょだと思われるのは困るから一応抗議しておく”ぐらいのトーンだったのではないでしょうか。だから再び無断で曲が使われたのにジョークで済ませてしまったのでは。

◆セレブ総出で応援しても、もう効かない?

 そんなテイラーとミックを見ていると、ヒラリーを熱烈に支持しトランプに罵詈雑言を浴びせてきたセレブたちが、時代遅れに見えてきます。つまり、“父性的な悪”(トランプ)に立ち向かう表現者という構図自体がもう旧(ふる)いのです。

 ロックミュージシャンやハリウッドスターは、誰が何と言おうとエスタブリッシュメントの側であり、全世界の富を支配する1%のドナルド・トランプたちと同じグループに属している。その事実を棚に上げて、無邪気に彼を攻撃する茶番に飽き飽きしている人たちが、少なからず存在しているのではないでしょうか。

 テイラー・スウィフトとミック・ジャガーの振る舞いは、そんな連中よりも遥かに政治的に鋭い感性を持ち合わせていることの証明だったように思うのです。

※トランプ氏側は曲の使用権を買ったと主張しており、著作権管理団体のASCAP(日本のJASRACのようなもの)などの許諾を取っているのかもしれない。だが、ASCAPの資料に「選挙活動の場合は、アーティスト側の許諾がなければ訴えられる可能性がある」と記されている。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>