何より大事なのは医師と患者との信頼関係(shutterstock.com)

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 先日、面白い論文が発表され、いくつかのメディアでもすでに話題になっているものがある。それは「偽物の薬だと患者がわかってそれを飲んでも、実際に腰痛が改善した」という報告だ。

 この研究結果は『Pain』(10月13日号)に掲載されたもの。この実験を簡単に説明すると、慢性的に腰痛を持っている97人を2つのグループにわけ、一方のグループはいつも通りの治療を続け、もう一方のグループには「プラセボ効果」に関する説明を行い、プラセボ効果を理解してもらったあとで「この薬は偽物です」とラベルの貼られている薬を処方した。

 3週間後に「痛み」を調べたところ、偽物の薬だとわかっていて飲んだグループでも、最大で30%もの疼痛レベルの改善が認められたというものだ。

 ちなみにプラセボ効果とは、「本来は薬として効かないもの、つまり偽物の薬、を処方したにもかかわらず効果が現れる」こと。

 実際にプラセボ効果は薬だけではなく、さまざまな治療において効果があることがわかっている。だが、そのメカニズムはまだ解明されていない。

 研究著者の1人である米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(ボストン)のTed Kaptchuk氏によると、プラセボ効果は「有効な薬を飲んでいる」という患者の意識的な期待によって誘発されるものとは限らないことが示されたという。

プラセボ効果は医師と患者との信頼関係か

 この研究によってプラセボ効果の新しい真実がまたひとつわかったわけだが、ここで重要なことは、この効果が「痛みに対して」ということである。

 この論文にも述べられているが、プラセボ効果により、実際の「がん」の大きさを小さくしたり、血管の閉塞を直したりすることはできない。

 しかしながら、「痛みの感じ方」は改善できる。それは「痛み」というものが主観的なものであり、人によって感じ方が違ったり、また気持ちや精神状態でも容易に変化するものだからである。

 なぜこのような効果が起こったのか? その推測として研究の代表者は「医師と患者との信頼関係があったからだろう」と述べている。医師との信頼関係が強ければ、プラセボ効果があり、弱ければ、おそらく効果は薄いだろう、と。

 医師との信頼関係によって、「この医師が処方してくれた治療法だから大丈夫」という気持ちが疼痛レベルを改善させる手助けとなったのだろう。
「必ず治るから大丈夫」という気持ちが治療効果を左右

 この実験結果から、「医師と患者の信頼関係」は治療の上からも、とても重要であることが改めてわかる。

 以前の連載記事『慢性腰痛は「医療者の言葉」が原因!? ネガティブな発言に惑わされるな(http://healthpress.jp/2015/10/post-2070.html)』でもそのことに触れているが、医師や医療従事者の言葉、というのはとても重要だ。その言葉によって、治療結果が変化することが実際に論文で報告されている。

 今回のプラセボ効果と腰痛の改善の研究によって、改めて慢性的に続く腰痛というものが、筋肉の強さや骨の形だけでは解決できないということが示唆された。
 
 もちろん、腰痛が発生している大きな原因は動きや姿勢などにあることは間違いない。しかし、それだけで腰痛の全てを語ることは難しい。より多角的に、時にはプラセボ効果も利用して、腰痛というものを考えていく必要がありそうだ。

 医師はレントゲン写真と向き合って治療するのではなく、患者自身をより診る必要があるだろうし、患者は腰痛に対して「気持ち次第でいくらか改善する」という前向きな気持ちを持つ必要があるだろう。

 腰痛に悩んでいる人はまず、「必ず治るから大丈夫」というような前向きな気持ちで腰痛と向き合っていくことから始めてみるのが良いかもしれない。


三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の医療、理学療法を学ぶ。2014年に帰国し、東京の医療機関に理学療法士として勤務。現在は札幌市の整形外科専門の医療機関に勤務。その傍ら、一般の人に対しても正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。執筆依頼は、"Contact.mikitaka@gmail.com"まで。
 
連載「国民病"腰痛の8割以上はなぜ治らないのか」バックナンバー