川口 雅裕 / 組織人事研究者

写真拡大

専業主婦世帯の割合は、30年ほど前には6割超だったが、現在は4割弱にまで減ってきた。統計上、配偶者控除を受けられる範囲内で妻が働いている世帯は「専業主婦世帯」とカウントされているので、昔のような、妻がまったく働いていない専業主婦世帯の割合はもっと少ないはずだ。

30年前というと男女雇用機会均等法が出来た頃で、少なくとも都会では共働きは珍しかったし、「妻がパートに出ている」というのはお父ちゃんの面目がつぶれるような響きがあった。「男は仕事、女は家庭」という価値観が支配的で、男子厨房に入らずは当然のこと、家事などしようものなら「嫁さんに逃げられたか」と冷やかされた時代。だいだい、週休二日も定着していなかったし、労働時間も年間で今より300時間以上は長かったので、家事に携わるのも難しかったという面もあるだろう。

そのころ40〜50才位の働き盛りだった、今の男性高齢者は現在どうなっているか。下表は、家族と一緒に暮らしている高齢者の中で、「家事を担っている」と回答した人の割合だが、日本の男性高齢者のほとんどが家事を妻に頼りきっており、他国と比べてもその度合いは顕著であることが分る。

(「高齢者の生活と意識に関する国際比較」平成27年・厚労省)

以前、私たち「老いの工学研究所」が発行する情報誌“よっこらしょ”のインタビューで、歌手の加藤登紀子さんに話を聞いた際、「男性は、家庭生活を女性に依存しすぎよ」とおっしゃっていたが、その通りの数字だ。もちろん、他に家庭内で重要な役割を担っていたり、外で何かの役割を持っていたりするのならよいのだが、現状、男性高齢者のひきこもり傾向が問題になっているくらいだし、この調査でもそのような部分は見当たらない。つまり、「男は仕事、女は家庭」の“仕事”がなくなって、「男は○○、女は家庭」となっただけの、自分の役割が見出せない状態と想像できる。

ここから分るのは、仕事を引退して生活が変わっても、それまでの価値観は容易に変えられないということだろう。プライドが邪魔をして、地域に馴染めなかったり、活動に参加できなかったりするのはその典型だ。また、引退してから何か新しいことに取り組んだとしても、家事を含めてすぐに出来るようになるほど簡単ではないから、面白くもないし継続が難しい。

早めに引退後の計画と準備をするのが重要だと言われるが、そういう個人の心がけを説くレベルでは、この状況はなかなか変わらないだろう。男女の役割に関する前時代的な価値観を変え、仕事以外の役割・活動を持つ男性を増やすには、ワークライフバランスや男女共同参画の推進・浸透が効果的だ。これらは、男性が抵抗しがちなテーマではあるが、実は、自分たち男性が年をとったときに活き活きと暮らすために、自分たちの引退後の生活の充実にとって重要なのである。