4年9ヶ月ぶりに日本代表に招集された久保裕也【写真:Getty Images】

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A代表は「やっぱりレベルが高いですね」

 オマーン代表をカシマサッカースタジアムに迎える、日本代表の国際親善試合が11日午後7時20分にキックオフを迎える。15日に控えるサウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選第5戦(埼玉スタジアム)をにらんだ一戦で、攻撃の新たなオプションとしての期待を背負い、ヴァイッド・ハリルホジッチ体制下で初めて招集されたFW久保裕也(ヤングボーイズ)はストライカーの矜持と日の丸への熱い思いを胸中に秘めながら、4年越しのA代表デビューを果たす瞬間へ向けて静かに牙を研いでいる。(取材・文:藤江直人)

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 4年9ヶ月もの歳月を越えて味わうA代表の雰囲気。その間に高校生からJリーガー、そしてスイスの古豪・ヤングボーイズの主力へと駆け上がったFW久保裕也は「やっぱりレベルが高いですね」と充実感を漂わせた。

 2012年2月24日に長居スタジアムで行われた、アイスランド代表との国際親善試合。当時のアルベルト・ザッケローニ監督は日本サッカー協会に対して、国際Aマッチデー以外の代表戦開催を強く要望していた。

 理由は新戦力の発掘。ヨーロッパ組を招集できないことを承知のうえで、Jクラブに所属する25人の選手がリストに書き加えられた。そのなかに、京都サンガユースからトップチームに昇格したばかりの久保が名前を連ねていた。

「4年前は国内組だけでしたし、今回は海外組も含めて、ということなのでまた違うと思っています。選出を知らされたとき? 素直に嬉しかったですし、チームで結果を出せたから呼ばれたのかなと思っていますけど」

 当時の日本サッカー界には、久保が残した衝撃の余韻が残っていた。J2のサンガが快進撃を続けた天皇杯。横浜F・マリノスとの準決勝でまばゆいスポットライトを浴びたのが、サンガに第2種登録されていた18歳の久保だった。

 延長戦の前半終了間際から投入されると、PK戦突入の気配が漂い始めた同後半11分に勝ち越しゴールを一閃。アディショナルタイムには力強いドリブル突破から、MF駒井善成(現浦和レッズ)のダメ押し弾をアシストした。

 FC東京に敗れはしたものの、快晴の国立競技場で行われた元日決戦でも一矢を報いるヘディング弾をゲット。当時の大木武監督(現FC今治メソッド事業部アドバイザー)は、久保に秘められた潜在能力をこう評していた。

「ゴールの匂いを嗅ぎ取れるフォワード。いままで見てきた日本人選手で、一番シュートが上手い」

所属クラブではリーグ戦3試合連続ゴール中

 ストライカーという言葉に対して抱く矜持は、ヨーロッパ組の一員となったいまも変わらない。リーグ戦では10回を数える先発を含めて、全14試合に出場して5ゴールをあげている。

 UEFAチャンピオンズリーグ予選と、同プレーオフ敗退に伴って回っているUEFAヨーロッパリーグでも、全8試合に出場して2ゴールをあげている。ヨーロッパ組のなかでも申し分ない実績を残しても、久保は苦笑いしながら謙遜する。

「チームにもフィットしていますけど、得点はけっこうラッキーというか、簡単なゴールが多いので。チームメイトにゴールさせてもらっているような感じなので、チームと上手くやれているな、という感じですね」

 もっとも、帰国直前の6日のFCルツェルン戦で決めたゴールは、とてもじゃないが簡単とは呼べない。むしろストライカーに必要なすべての能力が凝縮された、スーパーゴールだったといっていい。

 1‐1のスコアで迎えた後半20分から投入された久保が、眩いスポットライトを浴びたのは終了間際の同41分だった。右サイドからMFヨリック・ラヴェがアーリークロスをあげた瞬間に、久保の本能が呼び起こされる。

 相手守備陣のマークは、ファーサイドに詰めていた元フランス代表で、192センチ、80キロのサイズをもつFWギョーム・オアロに引きつけられている。状況を察知した久保はニアサイドをターゲットに、一気に抜け出した。

 そして、クロスの落ち際に足ではなく首を伸ばす。お世辞にも華麗とはいえない。泥臭い、あるいは無骨と形容されてもいいダイビングヘッドでコースを変えられたボールは、ゴール左隅へと吸い込まれていった。

 これでリーグ戦では3試合連続ゴール。ストライカーとしての「勲章」を引っさげて日本代表へ合流した22歳は、茨城県内で行われている短期キャンプで、初めて顔を会わせるヴァイッド・ハリルホジッチ監督からさっそく呼び出されたという。

「監督にも『ああいう形でゴール前へ入っていけ』と言われたので。おそらくああいう形はあると思うので、狙っていけるかなと思っています。監督からはチームの攻撃的な部分と守備的な部分を、サッカーに関することを具体的に言われました」

久保は「“セカンドストライカー”として面白い」(ハリルホジッチ監督)

 オマーン代表との国際親善試合、そしてサウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選第5戦へ臨む代表メンバー25人が発表された4日。ハリルホジッチ監督は、初めて招集する久保にこう言及している。

「彼に関しては、フットボールの世界では『セカンドストライカー』と呼ぶ。クラブではディフェンスラインの背後やニアサイドへ走っていく、衛星的な動きを見せている。我々は普段は3トップだが、久保が入ることでアイデアが増える。

 ひとつのオーガナイズが上手くいかなかったとき、もしかしたら4トップになるかもしれない。2人のアタッカーをサイドに置き、真ん中にも2人のフォワードを置く形だ。点を取りに行く場面でのソリューションのひとつで、久保はそのときの『セカンドストライカー』として面白いと思っている。それ以外(の役割は)少し難しいのではないか」

 ヤングボーイズでもオアロの周囲を絶え間なく動き回り、ゴールとチャンスに絡んできた。もっとも、それが指揮を執って2シーズン目になる、オーストリア人のアドルフ・ヒュッター監督から求められる仕事だと久保は力を込める。

「代表に来れば監督も違うし、求められることをやれればと思う。2トップのほうが合う? あまりそういうことはないですけど、いまはチームが2トップなので、多分、それが合うと思われているのかなと」

 決して多くは発しない言葉と言葉の隙間から読み取れるのは、もし求められれば1トップでも、あるいはサイドのアタッカーもできるという矜持。実際、4年前に久保を抜擢したザッケローニ監督はこんな言葉を残している。

「すべてを器用にこなせる、近代的なフォワードだ」

 目指している究極のスタイルは、前線においてオールマイティーな存在になること。だからこそ、久保は胸中に秘めている思いを抑揚のない口調で、男は黙して多くを語らずとばかりに簡潔な言葉で紡いだ。

「どういうシステムであれ、自分は攻撃的な選手なので、どこからでもゴールを狙えるような貪欲さは見せていきたいと思います」

開幕直前に辞退せざるをえなかったリオ五輪

 A代表から遠ざかっている間に、日の丸にかける思いは大きく変わった。図らずもターニングポイントとなったのは、開幕直前でU‐23日本代表を辞退せざるをえなくなった今夏のリオデジャネイロ五輪となる。

 今年1月に中東カタールで開催された、アジア最終予選を兼ねたAFC・U‐23アジア選手権。ヤングボーイズの許可のもとで参戦した久保は、チームでただ一人、全6試合に出場。最多となる3ゴールをあげた。

 準決勝で難敵・U‐23イラク代表を下して6大会連続の五輪切符を獲得。U‐23韓国代表との決勝では2点差をひっくり返して頂点にも立った。下馬評を覆す快進撃とともに、最初で最後となる五輪にかける思いはどんどん強くなった。

 だからこそ、攻撃陣に故障者が出た関係で、ヤングボーイズが五輪本大会へ久保を派遣することを拒否した状況に心を痛めた。苦楽をともに味わってきた仲間たちと、4年に一度のヒノキ舞台に立ちたい。

 一方でワールドカップをはじめとする公式戦と異なり、五輪は各国協会に選手を拘束できる権利はない。ヤングボーイズと日本協会の交渉を見守り、出された結論を「無念」の二文字とともに受け入れるしかなかった。

「まあ、どうしようもなかったので。残念でしたけど、(気持ちを)切り替えるしかなかったので」

 4シーズン目を迎えたヤングボーイズで最高といってもいいスタートを切っているのも、リオデジャネイロ五輪を辞退したことと決して無関係ではないはずだ。視線の先には、年齢制限のないA代表の戦いがすえられていたからだ。

「もうそこ(A代表)しかないので。常に考えていた、というわけではないですけど、A代表を目指してやってきたのは事実なので。逆にすぐ切り替えられました」

オマーン戦は親善試合。チャンスを得られる可能性

 リオデジャネイロの地で指揮官とエースストライカーの関係になるはずだった、U‐23日本代表の手倉森誠監督とも鹿嶋の地で再会を果たした。9月からハリルジャパンのコーチに就任した手倉森氏からは、熱い檄を飛ばされた。

「積極的にガンガンいけ!」

 五輪の話はいっさいしていない。いや、する必要もない。もう過去は振り返らない。2年後のワールドカップ・ロシア大会へと通じている道がいま、目の前に開けた。あの悔しさがあったからと、笑い飛ばせる未来にできるかどうか。すべては久保自身にかかっている。

「選手それぞれがタイプが違うと思うので。僕は僕で自分らしさを出していきたい。まずは試合に出ないと話にならないので、いまは練習でしっかりアピールすることしか考えていないですね」

 親善試合となるオマーン代表戦は、6つの交代枠が使える。所属クラブで出場機会が少ないヨーロッパ組のリハビリに当てられることが予想される一方で、ハリルホジッチ監督はこうも語っている。

「あまり代表でプレー機会のない選手にも、チャンスを与えようと思っている」

 4年前のアイスランド代表戦は、ベンチに座ったまま3‐0の快勝を告げるホイッスルを聞いた。4年越しに果たすA代表デビューから、黙々と自らの仕事に徹するサムライをほうふつとさせる久保の新たな戦いが幕を開ける。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人