『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 (C)2015 PARAMOUNT PICTURES.  ALL RIGHTS RESERVED.

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陸軍のエリートから退いて流れ者生活を送る男が、スパイ容疑をかけられた後任の大佐の無実を証明すべく、事件の渦中に身を投じる『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』。2012年の『アウトロー』の続編で、トム・クルーズが2002年に『ラストサムライ』で組んだエドワード・ズウィック監督と再び組み、一匹狼が陰謀に立ち向かう姿をリアルなアクションとドラマで描く。

スターに徹したトム・クルーズの潔さが光るハードボイルドアクション

すでに『ミッション・インポッシブル』というヒット・シリーズがありながら、同様のアクション・サスペンスでもう1つシリーズを手がけるクルーズの貪欲さには驚くばかり。両シリーズのプロデューサーでもある彼は、その差別化にもしっかり気を配っている。『ミッション〜』のイーサン・ハントはスパイ組織のエージェントで、世界を股にかけて活躍をする。超高層ビルからダイブしたり、ジェット機にしがみついたり、イーサン・ハントが超人的なアクションに見せ場がある派手なキャラクターだとすると、ジャック・リーチャーは元軍人で、敵とは拳で戦う接近戦。リアリズムを重視し、より人間らしいキャラクターだ。

とはいえ同じ主人公でも、監督が変わると作品のカラーもまた違ってくるから面白い。来日記者会見でズウィック監督は自身について、オリジナルにこだわるタイプであり、シリーズものを手がけることに興味はなかったと話していた。今回はプロデューサーとして参加した前作の監督、クリストファー・マッカリーもクルーズも「『アウトロー』でジャック・リーチャーというキャラクターを世間に紹介したから、今度は好きなように作ってほしい」とズウィックに申し出たという。前作では、実写にこだわった大迫力のカー・チェイスにマッカリーの個性が光ったが、ズウィックは孤高の男に潜在している父性をモチーフに、ドラマを充実させていく。

リーチャーは国家反逆罪で投獄された元同僚のスーザン・ターナー少佐を独房から救い出し、2人で真相を追う。その過程でリーチャーの前に自分の娘かもしれない16歳の少女サマンサが現れ、足手まといになるとわかっていても彼女を連れて行かざるをえなくなる。

ターナー少佐役のコビー・スマルダーズも、サマンサ役のダニカ・ヤロシュも、誰もが知るスターではないが、リーチャーと旅するこの2人の女性をただの添え物にせず、しっかりとしたキャラクターを持つ相棒として描いている。腕っぷしも強く頭脳明晰で正義感の強いターナーは頼れる右腕、貧しく恵まれない環境でたくましく生きるサマンサは危なっかしいところもあるが、気丈な10代。サマンサとターナーが姉妹のように仲良くなって、リーチャーがちょっとした爪弾き状態になったり、3人は緊迫した状況に置かれているが、シリアスやハードボイルド一辺倒ではなく、どこかで軽く外してクスッと笑えるユーモアを欠かさない。バディ・ムービー、ロードムービーの要素が増え、人間を描きたいズウィックらしさが発揮されている。

クルーズも、鍛えているとはいえ体には厚みが増し、顔つきも54歳という年齢を感じさせるくたびれが漂い、もはや万年青年とは言えない。10代の女の子に完全にオヤジ扱いされる役もまったく無理がない。それを喜々として演じるのは、彼が主演スターである以上に、プロデューサーであり、観客を喜ばせることが何より大切だと知っているからだろう。楽しませるために、あの手この手を尽くして追究する姿勢はほとんどストイック。会見で本人は「僕は1週間のうち7日働いている。休暇ももう何年も取っていない」と映画作りにかける情熱を語った。

すでに一生遊んで暮らせる金額は稼いでいる彼だからこそ、「僕にとって映画作りは仕事じゃない」という言葉に説得力がある。大好きな遊びに夢中になる子供の無心さに、ハリウッドの荒波に揉まれ続けたタフな精神と才覚を活かして、気軽に楽しめるポップコーン・ムービーを真剣に作る。そんなトム・クルーズ=ジャック・リーチャーがいる限り、何でもあり。その自由さがいろいろな可能性を期待させるシリーズ第2作となった。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は11月11日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。