マツダ「ロードスター RF」発表!開発責任者が語る“個性派ルーフ”の秘密

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世界的なヒットモデルとなっているマツダロードスター(ND型)」。その人気モデルのラインナップに、電動ハードトップを備えたニューフェイス「ロードスター RF(リトラクタブル・ファストバック)」(324万円〜373万6800円)が正式に加わりました!

特徴は、なんといっても美しいシルエット。ルーフを閉じると、ルーフ前端から車体の後端までなだらかなルーフラインを描く、ファストバックスタイルを採用しています。

独自のリアルーフ形状のため、開放感に乏しいのでは? と思いがちですが、ルーフを開けると同時に開くバックウインドウによって、風が心地良くキャビンを抜け、開放感の高さは予想以上!

おまけに、リトラクタブルハードトップの開閉は、スイッチひとつの電動開閉式。約13秒でオープン←→クローズをセレクトできます。

そんな、オリジナリティあふれる“オンリーワン”のルーフシステムですが、その開発は苦難の連続だった、とか。2016年7月より、ロードスターのチーフデザイナーと開発主査を兼務する中山 雅さんのインタビューから、マツダのこだわり、開発過程におけるスタッフの苦労を、今一度感じてください!

※これは、2016年9月9日、同9月11日に公開した記事を再編集したものです。

入らないならあえて残す。逆転の発想が生んだRFのルーフ

--ロードスター RFのデザインは、ソフトトップ仕様から派生したクルマにしては、完成度が高いですね。NDの開発がスタートした当初から、電動格納式ハードトップ仕様の開発プランがあったのでしょうか?

中山:当然、初めからありました。ソフトトップ仕様と並行して開発を進める前提だったんです。ところが、ある時点で棚上げになったというか、棚上げしてしまった。ハードトップ仕様を同時開発しようとすると、ソフトトップ仕様の開発が進まないからです。

冷静に考えたら、ハードトップをきちんと格納しようとすると、収納スペースの分だけホイールベースを伸ばしておかなければいけません。なので本来なら、先にハードトップを設計しておいて、後からソフトトップ仕様を開発するものなのです。

それなのにNDは、ソフトトップ仕様の開発を重視するあまり、ハードトップ仕様の開発を棚上げしてしまった。上司に「ハードトップの開発もやってるのか?」って問われても、「やってます、やってます(汗)」って応えながら、理想とするソフトトップ仕様の開発に没頭していました。結果、気がついたら、ハードトップが収まらないクルマに仕上がっていた…というのは冗談ですが、それくらいソフトトップ仕様で理想を追求したんです。

--それって、大変なことでは?

中山:そうですね(苦笑)。先代のNC型は、電動ハードトップモデルの「ロードスター RHT」の方が、ソフトトップ仕様よりも販売台数が多かったくらいですからね。本当なら、ハードトップ仕様を生み出せない骨格を持つNDなんて、作ってはいけなかったはずなんです。

でも、当時の開発主査だった山本修弘をはじめ、誰も何もいわなかった。ソフトトップ仕様のデザインや図面を見れば、ハードトップを収めるスペースがないことは、一目瞭然だったはずです。ある意味、気づいていたけど気づかないフリをしていた。それくらい、我々は理想的な(ソフトトップ仕様の)NDを作りたかったんですね。

なので、ハードトップ仕様の開発は、ある段階まで棚上げし、時間稼ぎをしていた、というのが実情です。とはいえ、もちろん考えてはいましたよ。「カシャカシャと畳めるプラスチックみたいなルーフはないかな?」とか「新技術、新素材はないかな?」なんて、皆でいろいろと話はしていたんです。

今の世の中、それって決して夢物語ではないじゃないですか。絶対にありえないとはいい切れない。だから、ありえないようなことも含めて、いろいろと検討していました。例えば、ルーフを十数分割すれば収まるんじゃないか、とかまで。

そして、さすがにそろそろ、ハードトップ仕様のデザインも真剣に考えなきゃいけない、という段階になった。ソフトトップ仕様のデザインが最終的に固まったんです。そのデザインデータをエンジニアに渡したんですが、実はハードトップ仕様のデザインに取りかかったのは、その後。すでにソフトトップのデザインはガチガチに固まっていますから、もう変えられない。妥協なき開発を行ったソフトトップ仕様のNDには、普通のハードトップを収めることなど不可能だったんです。

ーーそんな危機を、どうやって打開されたのですか?

中山:その段階でハードトップを収めようとするならば、残された手はもう、格納する部分を減らすしかない。必然的に、ボディの外側に残す部分を大きくしなければいけない。つまり、シートの背後に襟を立てたような膨らみができるんです。NCのRHTにもそれっぽい張り出しがありましたが、同じことをやろうとしたら、あんなもんじゃ収まらない。もう本当に、エリマキトカゲの襟みたいになってしまう。だけど、やってやれないことはないんです。なので、プランのひとつとして検討するだけしてみました。

でも、それってスマートなデザインじゃないですよね? 当然、エンジニアたちとの間でも「こんなに不格好になるけど、それでも作る?」って話になったんです。今だからいえますが、納得いくデザインじゃないのに無理にハードトップ仕様を作るとか、ND自体の完成度を落としてまでハードトップ前提の設計にするなんて、絶対にありえないとエンジニアたちも思っていました。なので私としても「本当にロードスターらしいデザインにならないのなら、ハードトップ仕様は出さなくてもいい」くらいの覚悟を持って試行錯誤を重ねました。

--そこからどうやって、RFというソリューションにたどり着いたのですか?

中山:とてもドラマチックな展開でした。ある日、ロードスターに関する社内会議が開かれ、その段階での現状を報告したんです。デザイン・ブランドスタイル担当役員の前田育男や山本、ルーフ担当のエンジニアなど、全部で十数名が集まりました。

そこで正直に、洗いざらい話をしたんです。ちょっとネガティブないい方かもしれないが、現状、ハードトップ仕様はこういったデザインにしかできない…といって、例のエリマキトカゲのデザイン案を見せました。3Dデータも用意して、モニターに映し出しました。でも、オープンカーというにはちょっと中途半端だし、ルーフを閉めてもそんなに美しくない代物になっちゃいますよ、といいながら。

--その場の空気を想像するだけで、なんだか胃がピリピリと痛くなってきます。で、そこから一気に、RFのプランを提案したというわけですね!

中山:いや、まだいえない(笑)。もちろん、腹案としてはありました。今のRFのデザインが。なので、現場にいたエクステリア担当デザイナーとは、いっそのこと、ひと思いにアイデアを提案しちゃおうか、という話はしていたんです。でも、それは我々サイドからはいえない。いや、いってはいけないんです。仮にあの時、前田や経営陣の誰かがエリマキトカゲ案にゴーサインを出していたら、渋々それに従っていたはずです。

ところが会議室が「確かに中山のいうとおりだな」という空気になったんです。そこで、満を持してこう提案したんです。「ならばいっそのこと、残しませんか? 中途半端にルーフを収めるのではなく、ルーフが残ることを前提にしたデザインにしませんか?」と。その時、フェラーリのディーノ「246GT」を例として挙げました。リアウインドウ周りを、246GTみたいな“トンネルバック”スタイルに仕上げたらどうでしょう? と。

ホント、マツダの人間はクルマ好きばかりですよね。ディーノっていっただけで皆、ピン! と来たみたいでした。すぐに「それ、いいね!」って話になり、エクステリア担当のデザイナーがササッと絵を描いて「こんな感じですかね?」って提案したら、「これだよ!」って具合に、一気に決定へと至ったんです。

--腹案があったということですが、その段階ですでに、RFの3Dデータが用意されていたのですか?

中山:さすがにその段階では、まだありませんでした(笑)。でも、絶対にこの案を通したかったし、イケるという自信もあったからか、3Dデータはその後すぐに出来上がりましたね。

--3Dデータが出来上がった次は、縮小したクレイモデル作りに取りかかられたのでしょうか?

中山:いえ。クレイモデルは作っていません。そんな時間はありませんでした。でも仮に、1/4スケールのクレイモデルを作ったとしても、2世代目のNB型に「ロードスター クーペ」という車種がありましたから、ロードスターをクーペ化したらこんなカタチになる、っていうのは、皆なんとなく分かっているわけです。今さら見せられても「うーん、やっぱりカッコいいね」で終わってしまい、驚きはない。

それじゃ全然意味がないので、3Dデータを使って簡易的なハードトップを作り、ソフトトップ仕様のロードスターに載せてみました。平行して、インテリアのデザインを検証するためのモデルにも同じようにハードトップを載せ、実際に座ってみて、どんな感じになるかを確かめられるようにしたんです。

--すごいスピード感ですね!

中山:社内の人々に原寸大のモデルを見せると、すぐに「いいじゃない、これ!」という評価を得られるわけです。海外のマーケティング担当者たちに見せて「どうだ?」と聞くと、皆「カッコいいね」という評価を返してくる。でもその後、お約束のように「ちょっと不安が…」となるわけです。ロードスターらしい開放感を得られるのか、不安に感じるみたいなんですよ。でもそれは、当然のことですよね。あえてルーフを残しているんですから。

なので、そんな時は「どうぞこちらへ」といって、インテリアの検証モデルに乗ってもらったんです。すると皆「開放感も問題なし。OK!」と満足する。そこから一気に、RFの開発は加速していきました。

オープンカーだから、RFのリアウインドウは開いて当然!

--RFはなんとか無事にマツダの社内会議を通過しました。その後、デザインの3Dデータから検証モデルを製作され、スタイリングのカッコ良さや開放感の高さも、社内の皆さんから納得いただきました。でもそれと、実際にルーフを収める機構を開発するのとは、全く別の話だと思います。実際にRFを拝見すると、ルーフを収めるための開口部が驚くほど小さいですよね。ここに畳んだルーフを収めるのは、すごく大変そうに思えるのですが…。

中山:当初、開口部はもっと大きかったんです。デザイナーから見たら、もう恐ろしいくらいに大きかった。最終的にRFのパーティングラインは、トランクリッドの延長線上に設けました。その分、開口部が圧倒的に小さい。トランクリッドのラインは、ソフトトップ仕様の位置とほぼ同じなんです。ハードトップ仕様の設定を一切考えず、絞りに絞って内側にギューッと寄せて引いたソフトトップ仕様のライン。

しかし、RFのルーフ開口部のパーティングラインをそこに合わせたい、と提案した当初は、エンジニアに「そんなの無理!」と断固拒否されました(苦笑)。彼らいわく「NCのように開口部のラインをもっと外側に配置し、開口部がガバッと開くようにしないとルーフが収められない」と。

--そういえば、他車でもボディのサイドまで開口部が広がっているモデルがありますね。やはり、RFの形状は、一朝一夕には作れないということですか?

中山:私は、エンジニアの技術力を信じていましたから、カタチにできると確信していました。RFのハードトップを折り畳むメカの構造は、NCのそれと基本的に同じものにしようと考えていたので、デザイナーたちはその時点で、完成形を想像できていました。だから、すぐに3Dデータを作り、それを今度はアニメーション化して、ルーフの動きをエンジニアに見せたんです。アニメとはいえ実際の映像を見てしまうと、カッコいいですからね。チームのモチベーションが上がります。「絶対に完成させるぞ」と。

--そのルーフですが、リアのガラスウインドウが開閉しますよね。ソフトトップでは開かないのに…。

中山:初代のNA型に乗っている自身の経験から、RFのリアウインドウは絶対に開くようにしたい、と考えていました。NAって、ソフトトップに付いている透明な樹脂製ウインドウだけを、ファスナーで開けられるんですよ。すると、風が気持ち良く流れていくし、後方から排気音が聞こえてくる。これだけで明らかに、オープンカーに乗っている! という気分が盛り上がるんです。

--技術的に、ハードルはなかったのでしょうか?

中山:もちろんありましたよ。ホントのことをいうと、リアウインドウは固定式の方が、設計的には随分ラクになるんです。だから「リアウインドウは固定式にしない?」という提言が多くありました。十分カッコいいんだし、あえて開閉式にする必要はないでしょう、と。でも、そこだけは絶対に譲りませんでした。

とはいえ、開閉式にこだわったことで、防水性や耐候性にも配慮しなければならなくなった。例えばNAは、勢いよくホースで幌に水をかけると、車内に水が入ってしまいます。機械式洗車機で洗えばなおさら。でも、現代のNDでそれが起きてしまっては、絶対にいけない。なのでリアウインドウを閉めた時はビチッとシールドできるよう、細部まで配慮しました。でもこれが、実は結構大変だったんです。

--ルーフ部の素材には、アルミやスチールが使われていますが、トンネルバック部分の素材には何を使用されたのですか?

中山:樹脂ですね。というのも、トンネルバックの部分を金属製にすると、あれだけ深いプレス加工ができないんです。やれないことはないけれど、重くなってしまう。でも樹脂であれば、ひとつの部品として成形できますからね。

その樹脂も、一般のプラスチックとは異なり“SMC(シールド・モールド・コンパウンド”という素材を使っています、SMCの方がコストは高くつくのですが、成形してからの縮みが少なく、熱膨張も小さいんです。一般的なプラスチックはローコストですが、熱膨張が大きいため、ほかのボディパーツとのすき間を大きめに確保しておかなければなりません。例えば、ドバイとか気温の高い地域だと、すぐに膨張してしまいますからね。バンパーのように、仮に膨張しても逃げの部分があればいいんですが、RFのハードトップは各部をギリギリまで詰めた設計にしたので、逃げられる部分がないんです。

--フツーの樹脂を使っていたら、不格好、不細工な仕上がりになっていたわけですね。

中山:今のマツダは、そういったデザインやモノづくりに対する社内の理解が、非常に高いんですよ。従来だったら、ひょっとしたら「我慢しよう」とか「お金かかるから」といって、フツーのプラスチックで作っていたかもしれません。

でも今は「デザイン的に、パーツとパーツの間隔が広がるのはマズイ」というと「そりゃそうだ」とエンジニアたちが応えてくれる。むしろ、そうでなければならないという雰囲気が、社内全体にあるんです。

--さて、最後の質問なりますが、RFの車内に電動ハードトップの開閉スイッチがありますよね。上下に動くスイッチですが、どちらに動かすとルーフが開くのでしょうか?

中山:それについては社内でも「開ける時と閉める時、スイッチはどちらに動かしたらいいか?」という議論がありました。ただ個人的には、ルーフを開ける時は、スイッチを上へ動かすのがいい。

その方が「今からバーッと上げるぞ!」と気分も上がるじゃないですか! 逆に、雨が降ってきちゃった時は、うなだれながらスイッチを下へ押すとルーフが閉じる。なんとなくですが、この設定の方が、ユーザーの皆さんの気分にもマッチすると思いますよ。

(文/ブンタ、写真/グラブ、田中一矢)

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