賄賂など贈収賄が結構まかり通る韓国社会。こういうもののない国はないと思うし、中国やロシア、アフリカや南米各国など程度のひどい国も数々あると思うが、韓国もどちらかと言うとちょっとひどい部類に入ると思われる。写真は韓国・ソウル。

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賄賂など贈収賄が結構まかり通る韓国社会。こういうもののない国はないと思うし、中国やロシア、アフリカや南米各国など程度のひどい国も数々あると思うが、韓国もどちらかと言うとちょっとひどい部類に入ると思われる。

このような汚れた慣例を浄化しようとしてできたのが、日本で「接待禁止法」などと報じられている金英蘭(キム・ヨンラン)法だ。基本的には裏金などでゆがみ切った社会を立て直そうというコンセプトである。正式には「不正の請託と金品などの授受の禁止に関する法律」という名称で、普通には金英蘭法と呼ばれる。

この「愛称」は、12年に金英蘭という元国民権益委員長が推進した法案であることに由来する。16年9月28日から施行されたこの法律について、ここではごく簡単に見てみたい。

例えば「接待」について。公職者やジャーナリスト、私立学校や幼稚園の役職員、私学財団の理事会などが職務関係者に対して3万ウォン(約2700円)以上の食事のもてなしを受けると罰金を払わなければならない。あるいは、教授のいる研究室に学生がコーヒーを持ってやって来て、教授にそのコーヒーをどうぞと渡したとする。韓国ではこういう風習はよく見られるものだった。しかしこれも学生が何らかの「代価」を期待しての行為と見なされ、3万ウォンには満たないけれど法に引っ掛かってしまうのだ。

個人的な話でちょっと恐縮だが、筆者も大学で教えている関係で研究室が与えられている。この研究室に学生らは時々やって来ては授業内容に関する質問をしたり、進路相談をしたり恋愛話をして帰って行ったりと、それはさまざまな「人生相談」をしにやって来る。学生がやって来る時には、ジュースとか缶コーヒーとかを持って来るのが普通だ。

筆者が学生の時、つまり日本にいた時には先生にコーヒーなどを持って行ってあげるというような行動はしたことがなかった。おそらく大部分の日本の学生は今でもそうだろう。そういう習慣がないのだからそれもむべなるかな、だ。

でも韓国はここがかなり違っていて、学生らが先生の所に行く時には何かを持って行くことがごく一般的なのだ。最近分かったことだが、そういうお国柄は日本に限らず韓国以外の国ではほとんど見られないということだ。先生に対するかなりの尊敬心というか尊重心といったものがここ韓国では伝統的にあるためだろうと思われる。学者を敬う社会なのである。

ところが今までのこういうほほ笑ましい場面も今や違法のレッテルが貼られ、紙コップ1杯のコーヒーさえも神経を使わねばならぬ対象になってしまった。学期の初めの頃に1万ウォン(約910円)くらいのジュースセットや栄養ドリンクのセットを持って来る学生らもいたものだが、もはやこうした「贈り物」は受け取ることはできない。正直なところちょっと寂しいという感もあるが、筆者としては気が楽になったともいえる。

問題は食堂である。オフィス街の食堂は昼食時が書き入れ時だけれど、お客さんがパタリと来なくなってしまっている。特に多少高級な食堂は客足が70〜80%ほども落ち込んでいるという。「接待」を受けているのではという誤解をされないために、そもそも食堂には行かない人が多いのだ。

金英蘭法の施行と前後して、「ランパラッチ」という造語が生まれた。金英蘭法の「蘭(ラン)」と「パパラッチ」が合わさった語で、金英蘭法を犯した人の写真を撮る人のこと。接待を受けた人物が勘定を払ってもらっている時、そばで写真をガシャッと撮るのである。それを申告すれば褒賞金がもらえる仕組みだ。面白いのはこのランパラッチを「養成」する学院まであるということ。しかも大盛況とのことだ。

人が3万ウォン以上の接待を受けようがどうしようがどうでもいい、と筆者などは考えてしまうのだが、他人の「違反」を写真に収め申告して金をもらおうというやからもいるのである。卑しい行為だと思うけれど、それで収入になるのならやってしまおうというのであろう。なんとも冷ーっとしたものが胸のあたりを横切るが、これも社会を浄化する上での副作用というものか。今は法が施行されてまだ間もなく試行錯誤の期間といえるが、1年くらいすれば少しは落ち着いてくるのだろうか。社会が浄化され食堂がまた客であふれる姿が返ってくるのだろうか。

■筆者プロフィール:木口政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。