電通(ロイター/アフロ)

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「2016年11月7日は、日本のマスコミにとって長く語り継がれる日になるかもしれない」

 民放キー局のディレクターは、こう語った。
 
 この日の午前、東京・汐留には張り詰めた空気が漂っていた。険しい表情をしたスーツ姿の約30人が日本テレビ横の巨大なビルに吸い込まれていくのを、無数のカメラが取り囲んでいる。ビルの最上階には「DENTSU」の文字。日本最大の広告代理店、電通本社ビルに、労働基準法違反の疑いで厚生労働省東京労働局の職員が強制捜査に入った瞬間だった。

 これに先立つ10月14日には、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が過労により自殺に追い込まれた問題を受け、東京労働局が従業員の労働実態を調べるために同社への立ち入り調査を行っていた。

「電通は大手企業からの広告出稿を数多く手がける代理店だけに、これまで大手マスコミは広告売上への悪影響などを考慮し、電通の悪い部分を報じることには及び腰でした。しかし今回、厚労省が強制捜査に踏み切ったことで、ようやくその悪しき習慣が改善されるかもしれません」(同ディレクター)

 そうした事情で、大手広告代理店の内情は、これまでなかなか大きく表に出ることがなかった。以下は、新卒である名前の通った広告代理店に入社したものの、あまりの激務に半年で退社を余儀なくされた男性の告白だ。

「私が配属されたのは、取引先との接待も行う営業部署でした。定時を終えると上司とともに酒席に急行していました。その場で求められるのは、とにかく飲んでその場を盛り上げることです。しかし、当然酔って自分を忘れるといったヘマはできないので、常に緊張を強いられました。二次会、三次会、四次会と、何があっても途中で帰ることはできません。帰宅は早くて日付が回った午前3時。遅いときは始発が動いていたと記憶しています。そのまま崩れるように仮眠し、数時間後には定時出社に間に合うよう7時には自宅を出ていました」

●「酒のない国に生まれたい」

 営業担当者にとって、顧客への接待は立派な業務ともいえる。それほど連日深夜に及ぶ接待を強いられるのなら、翌日の出勤時間が遅くても許されるようにはなっていなかったのだろうか。

「いちおう、接待で遅くなった日の翌日は午前半休してもよいことにはなっていましたが、そんな制度を使う人間はいなかったし、そんなことをしていたら仕事が回らない。上司の一人が常々、こう言っていました。『今度生まれてくるときは、酒のない国に生まれたい』と」

 他社ですらこうなのだから、業界1位の電通にいたっては察するにあまりある。電通の4代目社長で「広告の鬼」と呼ばれた故・吉田秀雄氏が残した「鬼十則」の一節には、こうある。

「(仕事に)取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」

 文字通り、女性社員は仕事に殺された。ベールに包まれていたブラック企業、電通の体質はどこまで明らかにされるのか。
(文=編集部)