一方でコーチの冨樫剛一(現東京V監督)は、こんな語りかけを繰り返した。
 
「日本語は面白いぞ。同じことを伝えたつもりでも、話し方次第で相手の受け取り方が違ってくる。大切なのは、伝えられた側が次にどんなプレーをするか、だからな」
 
 チーム内には先へ進もうという意欲が横溢していた。冨樫が続ける。
「トレーニングの途中で給水をしても、みんなダッシュで戻って来て『次は何をやるんですか』と聞いてくる。こちらはトップチーム入りから逆算して、今何をしておくべきかを考えてメニューを構築していくんですが、彼らは我々が設定した枠をどんどん広げていくんです。コーチ、ここはこうしていいですか? ここまでチャレンジしてもいいですか? と、そんな質問が途切れない。逆に僕らのほうが、彼らの発想を引き離せるように努力をしなければいけないと考えさせられました」
 
 チームはナイキ・プレミアカップで全国制覇を果たし、2年時には世界大会に出場した。ところが祐希は、この頃10番を剥奪され、苦悩の日々を送っていた。
 
「腰の剥離骨折をして離脱。また半年くらいの間に身長が急激に伸びたので、その感覚を掴むまで数か月間はかかったようです」(父・拓也)
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)
 
<3>に続く――