ケルンのペーター・シュテーガー監督によれば、大迫は2トップの意識でプレーしているそうだ。(C)Getty Images

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 好調のケルンで、大迫勇也が猗消爾覆〞プレーを連発している姿を見ると、2014年の苦い記憶がよみがえる。
 
 ペナルティエリアの幅に留まった1トップが、中盤に下がらずCBを背負う。それがザックジャパンの約束事だった。2列目の香川真司や本田圭佑にスペースを与えるために、最前線の大迫はプレーエリアを制限された。
 
 大迫のパフォーマンスは悪くなかった。DFを身体で押さえ、ポストプレーヤーの役割を粛々とこなす。チームプレーとしては及第点だ。しかし、それは決して猗消爾覆〞大迫の姿ではなかった。
 
 あれから2年。大迫はケルンで自由な空気を吸っている。4-2-3-1のトップ下での起用が主だが、 ペーター・シュテーガー監督によれば、本人は2トップの意識でプレーしているそうだ。DFを背負わず360度の自由があることに加え、CFのアントニー・モデストも多彩なプレーをする。これにより、創造的なコンビネーションを生み出している。実に居心地が良さそうだ。
 
 そんな彼を見ていると、第87回全国高校選手権を思い出す。当時、大迫擁する鹿児島城西高と準々決勝で戦った滝川二高のキャプテン、中西隆裕がロッカールームで泣きなが ら語ったシーンが有名だ。「大迫半端ないって! 後ろ向きのボール、めっちゃトラップするもん! そんなんできひんやん普通……」。
 
 きっとケルンのファンも、この言葉に頷いてくれるのではないか。広範囲に動き、縦パスを受けると、素早くターンしてスルーパス。難しい浮き球のパスだろうと、相手に囲まれていようと、見事に収めてすり抜け、スムーズにつなぐ。ここまでのクオリティを持った選手は、ケルンでは大迫以外にいない。
 
 そうだった。巧みなポストワークや強烈なシュートなど、持ち味の多さゆえに忘れかけていたが、大迫の元々のインパクトは、猗消爾覆ぁ蹈肇薀奪廚世辰拭
 
 今のケルンでは、大迫の良さがすべて引き出される。キャプテンのヨナス・ヘクターは、「ついに本領発揮か。彼は技術が良くて、弱点が少ない選手だよ」と、在籍3年目の好調アタッカーを評している。
『弱点が少ない=幅広くプレーできる』ということ。大迫に戦術的な自由を与え、彼と同じ多彩なストライカーと組ませることで、これだけのクオリティが引き出されると、改めて確認できた。
 
 そんな大迫を、日本代表にどう組み込むか。ケルンと同じくトップ下で起用するなら、1トップの相棒はモデストのようなタイプが良い。スペースへの飛び出しだけでなくポストプレーもできて、守備にも献身的な選手。現時点では岡崎慎司だろうか。
 
 しかし中盤を見れば、ケルンと日本代表は違う。猗消爾覆〞トラップができる選手は、大迫だけではない。香川や清武弘嗣も、その技術を持っている。相対的に考えると、相手を押し込むホームの試合で、トップ下が大迫である必要はない。逆に、アウェーで引いて戦う試合では、芸術的なトラップに加え、タメも作れる大迫のクオリティが欲しい。それは清武や香川にはないものだ。
 
 清武や香川を外すのが惜しいなら、トップ下ではなく1トップで大迫を起用しても良い。ただし、ザックジャパンとは違い、ピッチを流動的に幅広く動いていいと認めることが条 件だ。その場合は、大迫が空けた裏のスペースを、敏感に察して飛び出せる2列目の選手が必須。原口元気や小林悠といったスピードのある選手をセットで起用したい。
 
 ただし、そこまでして大迫に合わせる理由はあるのだろうか――。
 
 ある。なぜならDFを背負う、あるいは密集地帯からシュートに持ち込むなど、ボックス近辺での質を保証してくれるからだ。シュート力はもちろん、球際の組み手の巧さが光る大迫は、相手を軸にして身体を入れ替えたり、接触しながらでもスルッと抜け出したりと、球際で柔よく剛を制する、狡猾さを持っている。
 
 ブンデスリーガ・7節のインゴルシュタット戦と、9節のハンブルク戦では、この組み手系ドリブルで抜け出し、PKを獲得した。このファウルを受ける技術こそ、ハリルホジッチ監督が最も欲しがっていたものだ。大迫が、日本代表にもたらすメリットは小さくない。

 とはいえ、すべてを大迫に合わせるのは難しい。大迫自身も日本代表にフィットする必要がある。しかし、今のパフォーマンスなら、それは苦しい試練ではなく、楽しい過程になるのではないか。

文:清水英斗(サッカーライター)