町に着いたら、本屋をめざそう。Vol.012/古本屋ぽらん(三重県伊勢市)

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【毎週水曜 21:00 更新】
知らない町に迷い込むのと、本屋さんで心を遊ばせるのは、どこか似ている気がする。そして、旅先で出会った本の一節はなぜか、いつも以上に心に残ったりもする――。全国の町の味わい深い本屋さんが、旅のお供におすすめの1冊を教えてくれる、リレー連載。岐阜県岐阜市の「徒然舎」の深谷由布さんがご紹介くださったのは、三重県伊勢市のこちらです。



◆お伊勢さんに守られた街で
築200年の古民家を活かした古本屋

「古本屋ぽらん」がある伊勢市河崎は、古い民家や蔵が立ち並ぶ地域。江戸時代には伊勢神宮の参宮客への物資を供給する“伊勢の台所”として栄えたという。築200年を超えるという立派な建物は、廻船問屋の古民家を改装したものだ。

「伊勢というとお伊勢さんが有名だけれど、実はいろんな歴史がある街なんですよ。銭湯の発祥が伊勢だって、知ってました?」と楽しそうに教えてくれたのは、奥村悠介さん。住居でもあり、奥村さんと創業者であるお父さんと奥様、そして6匹の猫たちがここで暮らしている。
古い建物ゆえ、あちらを直せば今度はこちらが…とこまめな手入れが必要だけれど、その手間もまた、愛おしいのだという。





◆いつだって、今日という日は美しくすばらしい
そんな気持ちを思い起こさせる一冊

店内をぐるりと見渡せば、学術書から絵本まで、あらゆるジャンルの本が天井から床まで埋め尽くすように並ぶ。
「どんなに本が好きでも、お店をやり始めるとなかなか読む時間がなくて。タイトルや作者は詳しいんですが、中身はわからないということも多いです(苦笑)。だからお客さんに教わることも多いんですよ」
そんな奥村さんが繰り返し読んでいるのが、石川啄木の歌集。

「日常のいちいちに儚さを覚え、それがいとおしく感じます。ずっとこの気持ちでいられればと思うのですが、なかなかそうもいかないのでまた読み返します」

お気に入りの一節
第二歌集悲しき玩具の一首
よごれたる手を洗ひし時の かすかなる満足が 今日の満足なりき
――――啄木歌集/石川啄木



お気に入りの本を見つけたら、3軒隣のカフェ「河崎蔵」へ



奥村さんと“梅太郎”



ピンクの首輪がお似合いの“小町”はその名の通りの美人さん



りりしい佇まいの“リンゴ”

◆目的があっても、なくても。
古本と猫に引き寄せられた人たちが集まる

奥村さんの師匠であるお父さんの口癖は「いい本を残すために、きちんと選別して、最終仕分けをするのが古本屋の仕事や」。
素人にはなかなか“いい本”と“そうでない本”の見分けがつかないけれど、不思議なもので、何百、何千という数の古本に触れていると、“いい本”に対する鼻が効くようになり、ページをめくるだけでピンとくるのだとか。一方で、嗅覚が優れた古本好きも存在するらしく、初めて伊勢に来た人が「こっちの方に古本屋がありそう…」とカンを頼りに来店することも!

「何の情報も持たずに来てくれた方が、お気に入りの本を見つけて帰ってくれるのがいちばんうれしいですね」と奥村さん。
ちなみに、猫たちに会いに来る常連さんも多いそう。猫にも古本にも、人を集わせる力があるようだ。



TEL.0596-24-7139
三重県伊勢市河崎2ー13ー8
営業/10:00〜18:00
火曜定休

おすすめの一冊
啄木歌集/石川啄木

おすすめのカフェ
河崎蔵
TEL.090-1472-8713
三重県伊勢市河崎2-13-12

WRITING/MINORI KASAI