◆ヘーレンフェーン・小林祐希インタビュー@前編

 2016年8月にオランダリーグ「エールディビジ」所属のヘーレンフェーンに移籍してから約2ヶ月、小林祐希は早くもチームに溶け込んでいるようだ。レギュラーの座を掴み取り、今季のヘーレンフェーン躍進の一因となっている。初めて異国で生活する24歳に、現在の心境を聞いてみた。

―― トップ下願望の強い小林選手ですが、ヘーレンフェーンではボランチとして黒子に徹していますね。

小林祐希(以下:小林):俺は縁の下タイプじゃないし、トップ下にこだわってやってきた。攻撃のアイデアをもっと前で出したいな、とも思う。でも、ボランチの面白さもわかってきました。

―― 日本では、「フィジカルコンタクトが弱い」「あまり守備をしない」と言われていたようですね。

小林:言われていましたよね。けれども俺、普通に守備もやっていましたよ。相手にカウンターを受けたときも、しっかりと戻っていましたし。

 でも、映像に映ってないところからゴール前まで戻る俺を見て、オランダの人は、「祐希はあそこまで戻っている」って言ってくれる。日本では攻撃的なポジションだったから、相手を追い込むほうが優先だったけど、今はボランチだからデュエル(球際での強さや戦う姿勢)のシーンも増えている。やればね、できるんですよ!

 ただ、こっちの相手はデカいし、対等に当たったら相手のほうが強いのはたしかだから、今、フィジカルとかいろいろな訓練もしています。

―― その訓練とは何ですか。教えてください。

小林:(きっぱり)無理です。今は2年後のワールドカップに向けての「俺」を作っているとき。これを今、教えちゃうと、マネする選手が出てくるかもしれない。そうしたら、俺が困っちゃうんでね。ワールドカップ本番直前になったら教えるよ(笑)。

―― 以前、「今度、トレーナーがオランダに来る」って言っていましたが。

小林:そうですね。

―― それと関係があるのですか?

小林:あのう......。俺のチームがあるんですよ。ドクター、メンタル&脳、身体――。この3本の柱から、俺のチームを作っています。脳みその芯から徹底的に強くする、それが「チーム小林」。今はもう自分の伸び代(しろ)が計り知れなくって、自分がどうなっちゃうんだろうと思うぐらい。楽しみすぎ。

―― 自分で怖いぐらい?

小林:怖いよ。スーパースターになれる可能性があるから。

―― この「チーム小林」が機能したら、スーパースターになれると?

小林:うん、機能したら......。いや、もう機能しているから。

―― 「チーム小林」は日本時代からですか?

小林:はい。トレーナーは17歳のころからずっと同じ人にお世話になっています。俺のトレーナーは最先端のモノを取り入れるのに積極的な人で、身体と脳がつながっていて、どうやったらケガが少なくなるか、どういうふうにしたら身体が強くなるか......そういうことを常に考えている人なんです。

 自分にはメンタル、脳、栄養、ドクターといった分野が足りてなかったので、5月の終わりにちょっと相談しました。それで、やるなら徹底的にやりましょうということで、俺のチームができました。今は本当に楽しいよ!

 以前の俺は、「根拠のない自信」だったけれど、今の俺の自信には、「根拠がある」。それがわかっているから、自信が崩れない。

―― その自信を説明してもらえますか?

小林:取り組んでいることのレベルが、普通の人と違うから。世界一になるためのプログラムを作って、自分でこなしている。サッカー以外の勉強もそう。日本や世界の経済、世界の情勢を知ることも必要なんです。だって、(世界で戦う選手は)違う文化のなかで生きていかないといけないんだから。サッカー以外のところで自分のメンタルを安定させるために、そしていろんな国の違った文化の人としゃべるためにも、世界がどうなっているのかを知っておくのは大事なことです。

 脳のことも勉強しました。(インタビュアーに)自分の左脳と右脳、どっちを使っているか知らないでしょう? 俺は右脳を80%から90%使ってしゃべっている。俺は感覚を大事にするタイプであることをもちゃんと調べました。今も感覚でしゃべっている。小さいころから座って勉強するのは苦手だったけれど、外に出て感じたこととか、映画の感想文とかなら、ブワーッて書けましたから。

 食事、脳、メンタル、プレー......。全部、自分で積み上げている自信があるから、自信に根拠がついてきました。今の俺には、1本の太い幹があるんですよ。

―― オランダでの成長を感じますか?

小林:サッカー以外のところでも引き出しが増えていて、ものすごく成長しているのを感じます。別に言葉ができなくても、俺はやっぱりコミュニケーションを取るのがうまいんだなと。育ててくれた親、周りの人、日本で育った環境、自分の仲間......。みんな、俺にいい影響を与えてくれたということを、オランダに来てさらに感じました。

 英語の力も伸びています。俺、英語を勉強するなら、パーフェクトなイングリッシュを習いたくて、イギリス人の先生を探してもらったら、それが「ボブ」という50歳過ぎの先生だったんです。俺、ボブのことが大好きで。教科書なんてないんですよ。アウトレットに行ってショッピングしたり、クルマの展示会を観に行ったり、レストランで食事したりしながら勉強するので、生徒を飽きさせないんです。それでもう、すごく英語を覚えちゃった。

 たとえば、「パス・ミー・ザ・ソルト(塩を取って)」と言われても、最初はわからないわけ。でも、先生は俺が塩を取って渡すまで、ずっと「パス・ミー・ザ・ソルト」って言い続けるから、俺も行動と言葉で英語を覚える。ボブは俺のスケジュールに合わせてくれるから、「オフの日は毎日勉強したい」って電話しています。

―― オランダでのデビューマッチ後、地元テレビ局からインタビューを求められ、「誰か通訳をやってよ!」と叫んでいましたが、結局は自分ひとりで答えていましたよね。

小林:今ならもっと、まともなトークができますよ。あのときは、まだ何もわからなかったけど、「祐希は馴染もうとしているんだろうなぁ」という姿勢を見せたかった。しゃべるというのは大事なことで、「祐希も一緒に考えてくれているんだな」と思ってさえもらえれば、内容が合っているか間違っているか、そんなのどうでもいいんです。俺がしゃべろうとしたこと、それが大事なんです。

 チームメイトとも、日本だったら絶対にしなかったことを意識的にしてふざけている。笑われてオッケー。それは、彼らと馴染もうとしてやっているというより、人として関わっていくうえで大事。「あいつは面白みがない」と思われるより、「祐希はいじったら何か出てくる。あいつ、面白えー!」と思われたほうが得じゃないですか。

 俺はたぶん、サポーターからも愛されている。毎試合、「ユウキ・コバヤシ、オオオオオーッ!」って、俺の歌だけずっと歌っているんです。愛を感じます。俺は心からヘーレンフェーンを愛し、ヘーレンフェーンのために戦っていて、チームメイトと楽しくやっている姿勢がサポーターにも伝わっていて、それが俺に返ってきている。サッカー以外のところが大事なんだよ。みんな、人間なんだからさ。

 俺、こういうキャラクターだし、(日本では)敵が多いほうだから、好きな人と嫌いな人、半分半分だと思う。だけど、俺のことを嫌いなら、1回しゃべろうよ。俺としゃべってみたら、絶対好きになるから。俺は逃げないし。クラブハウスで待っています。

―― チームメイトは小林選手のことを好きでしょうね。

小林:そうだと思いますよ。だって、俺とプレーしたら絶対に楽しいもん!

―― 小林選手はヘーレンフェーン初の日本人選手です。スカンジナビア諸国の選手を獲得するヘーレンフェーンの伝統は、ヨン・ダール・トマソンから始まりました。

小林:そうなの? ヘーレンフェーンの人たちは、「小林祐希みたいに安くていい選手が日本にはいるんだろう。そうしたら、俺たちは日本を見ないといけない」って言っている。「日本って、こんなにいい選手がいるんだ」って意外とビックリしているかもね。これからもヘーレンフェーンは、日本人を獲り続けると思います。そういう道を俺も作ってあげようと思っています。でも、そのチャンスを掴むのは結局、選手次第だよね。俺だって、チャンスは自分で掴んだんですから。

(後編に続く)


【profile】
小林祐希(こばやし・ゆうき)
1992年4月24日生まれ、東京都東村山市出身。2011年、東京ヴェルディユースからトップチームに昇格。2012年にはクラブ史上最年少で主将を務めた。2012年7月、ジュビロ磐田に期限付き移籍(同年12月に完全移籍)、司令塔としてジュビロのJ1復帰に貢献する。2016年8月、ヘーレンフェーン(オランダ)と3年契約で移籍。代表デビューはキリンカップ2016決勝のボスニア・ヘルツェゴビナ戦。ポジションは攻撃的ミッドフィールダー。182センチ・72キロ。

中田徹●取材・文 text by Nakata Toru