■ヤバイぞ、アジア最終予選3〜杉山茂樹×浅田真樹(前編)

浅田 10月のイラク戦の前、僕は今回の最終予選は結局、日本、オーストラリア、UAEの三つ巴の争いになって、サウジアラビアはちょっと落ちるんじゃないかと思っていました。サウジアラビアの最初の2戦(タイに1−0で勝利、イラクに1−2で敗北)を見た印象では、たいしたことないな、と。ラッキーで1点を取ったけど、あとはこれといって見るべきものはなかった。ところがその後、ちょっと調子を上げてきています。オーストラリアと2−2で引き分け、UAEは3−0で破っている。内容もだんだんとよくなっています。

杉山 サウジアラビアというと、昔はベタ引きのだるいサッカーをやっていましたが、2011年ごろからだいぶ普通になってきました。強くはないけど、現代的なサッカーをやるようになった。たぶん予選の最初の2試合は昔のだるさの部分のほうが強く出たのでしょう。最近の試合はいいですよ。サッカー的には一番まともじゃないですか。日本のホームではどういうサッカーをやるのか。サウジ的には引き分けでもいいとは思うだろうけど、監督もベルト・ファン・マルバイクだし、昔みたいに引いて構えるようなことはしないんじゃないかいう気がします。

浅田 割り切って、守るなら徹底して守るみたいなこともやるチームですが、これまでUAE、イラクという中東の2チームが日本のホームでどういう戦い方をしたのかと考えると、じゃあサウジアラビアだけ急に引くということはちょっと考えにくいかもしれない。

杉山 実力的には明らかにUAEとイラクより、少なくともイラクよりは絶対に強い。ひとりひとりの選手の質が、イラクより何パーセントかいい。

浅田 身長はそんなにないけど、スピードはあるし。

杉山 10番のナワフ・アラービドは結構、テクニックがありますよ。現代的なテクニックがある選手がひとりいるとだいぶ違う。最近、日本にはああいう選手がいないし。

浅田 ひとつ横ばいのドリブルをしてからスルーパスを出すみたいな、しゃれたこともできます。

杉山 いなされちゃうと、日本は嫌だよね。UAE戦がそうだったのですが、日本の選手は自分たちのことをうまいと思っているんですよ。うまいと思っている人が、そうでもないと思っていた人に小じゃれたことをされると、お手上げになることがあります。じゃあプレッシングをかけてボールを取りにいくかといったら、そういう気力さえ失う。「こんなはずじゃなかった」という気持ちがどんどん広がっていって、「あれっ」という感じでペースを握られる。日本が自ら崩れていくパターンです。

 オーストラリアをちょっと横に置いておくと、ホームの相手としては一番手ごわいかもしれません。だから引き分けはない話ではないし、日本が負ける可能性もあります。

浅田 問題は、ある程度ボールを保持してゲームを進めるようなチーム、ちょっとサッカーがモダンなチームを相手に、日本がいい試合できるというイメージがわかないことです。圧倒的にポゼッションで上回って押し込んでチャンス作って......というイメージがわかない。

杉山 戦い方が見えないから、どういう展開になるかも予想できない。日本の現状をいうと、いったい何がスタンダードなのかがわからなくなっちゃった状態です。日本代表イコールこういうサッカーというイメージは、例えばザッケローニの時は「何となく攻めているんだけど、ダメだよね」というのがあったじゃないですか。今はそれもない。アイデンティティーを失った集団になってしまった。

浅田 ブラジルW杯で敗れて、「自分たちのサッカー」というものに対してすごくアレルギー反応が生まれたじゃないですか。でも、「自分たちのサッカー」というのはやはり重要なこと。最終的に自分たちはどういうサッカーを目指しているというのが見えなくなってしまった。

杉山 こう言っちゃなんだけど、あの時であれば、少し直せばよかったんです。その「少し」は決定的な要素ではあったし、それを日本人の選手で補えるのかという日本サッカーの永遠の課題もあるのだけれど、少なくとも補修すべきポイントは見えていた。ザックジャパンでも、アギーレ時代の2015年アジアカップの時でも、何となく2カ所、3カ所ぐらい修繕すればもうちょっとよくなるよね、というのがあったんです。今はどこに手をつけていいか分からない感じになってきている。そこには長年同じメンバーでやってきたことによる選手の劣化、老化という問題もあるし。

浅田 いろいろな問題をはらんでいる。ハリルホジッチは「本田圭佑よりいい選手はいるのか」と言いますが、僕はいると思うし、仮に今現時点で本田よりいい選手はいなくても、2年後の本田と、例えば清武弘嗣や原口元気の2年後を比較して、本田のほうが本当に上だといえるのか、と。そこには今後、上積みの可能性がまったく感じられない。

杉山 ただ、別にハリルホジッチの肩を持つわけじゃないけど、日本に来てまだ1年半しかたってないし、日本のサッカーの全体像を把握するというのは難しいのかもしれない。そもそも代表監督というのは契約期間内のことしか考えない傾向があるのだから、ハリルホジッチが言うことに対して、「いやいや、そうかもしれないけど、できるだけ若手を使ってください」と言うのがサッカー協会なり技術委員会の役割でしょう。そもそもハリルホジッチが来た瞬間にそういう日本の状況をちゃんと説明しているのかどうかも疑わしい。手をつけるべきところが、サッカーの中身にあるし、それを取り巻く世界にもある。

浅田 もとをただせば、2010年のW杯で岡田ジャパンがベスト16に進出しました。でも、このサッカーに未来はないと思ったから方向転換したわけですよね。にもかかわらず、先日のオーストラリア戦なんて、まさにあの時代に戻ったようなものでしょう。引いて守ってカウンターで1発。現状の日本の実力を考えればこんなものだという意見もあって、もう割り切ってそういうサッカーをやりますというなら、それはそれでもいい。でも、現有の戦力ではこうやるしかないんですという理由でそうしたのなら、結局それは問題の先延ばしにすぎない。

杉山 オーストラリア戦についていうと、布陣上は日本のほうがボールをキープしやすい陣形でした。ボール支配率が高まりやすい陣形なんですよ。得点力はともかく、本田をセンターフォワードに置いたところで、全体的なバランスはよくなった。一方、オーストラリアはいつもと違って中盤ダイヤモンド型できたんです。両サイドの攻撃はサイドバックしかいなかった。こっちはサイドに各2枚、ちゃんといた。サイドの関係は2対1で日本が有利なんです。

 にもかかわらず、原口と小林悠は、相手のサイドバックが上がってくると一緒に下がってしまった。高い位置を保っていたら、相手のサイドバックはそう上がってこないんですよ。小林は攻撃で貢献できなかったけど守備で貢献したと言うけど、僕から言わせたら、小林を上に残しておいたほうがよかった。駆け引きをやった上で、相手のサイドバックが優秀だったから引いたのだったらいいんだけど、勝手に引いちゃった。それは岡田ジャパンのパラグアイ戦と一緒でした。大久保嘉人と松井大輔が完全に相手のサイドバックと一緒にベッタリ下がっちゃった。穴はなくなっているから、失点は食わない可能性は高いけど、「そのサッカーってどうなの?」という話です。

浅田 たぶん、みんながそう思ったから、「このサッカーじゃダメだ」と舵を切ったはずなんですけどね。さらにもっと根本的な話をすると、例えば高校サッカーを見ていても、高校選手権に出てくる高校は今、8割方「僕たちのサッカーはしっかりパスをつないで攻撃を組み立てるサッカーです」と言うわけですよ。そこを目標にしてみんなやっている。それがいいか悪いかは分からないけど、そういう現実がある。その積み上げていった頂点の代表チームに、「僕らはちょっと駒が足りないんで守ります」と言われたら、「いやいや」と思わないのかな、と。別にセンチメンタルになるわけじゃないですけど、あまりにも夢がないと思うんです。
(つづく)

スポルティーバ●文 text by Sportiva