議事録で判明!豊洲「盛り土」が「空間」に化けた理由

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■「いつ、誰が?」の奥に「ナゼ?」がある

東京都が豊洲問題の自己検証報告書・第2弾をまとめ、11月1日の記者会見で小池都知事がこれを公表した。今回は1回目のような単なる事情聴取ではなく、行政監察に基づく内部聴聞である。

同報告書が明らかにしたのは、「盛り土ではなく地下空間を設ける方針決定の場は2011年8月18日の部課長会議」「決定責任者は当時の部長ら8人」「地下空間の設置を最初に提案したのも当時の部長である可能性あり」といった新事実だ。

都が特定した責任者は、当時の市場長を務めた岡田至東京都歴史文化財団副理事長と後任市場長の中西充副知事、宮良眞新市場整備部長、管理部長だった塩見清仁オリ・パラ準備局長、土木部門担当部長2名(前任と後任)、建築部門担当部長2名(同)の計8名である。

会見で小池都知事は、退職者も含めた当該幹部らへの懲戒処分等を予告し、今後も追及の余地があることを匂わせた。

前回(http://president.jp/articles/-/20464)の記事前半で、「汚染対策に伴う変更がなぜ隠蔽されたのかが、いまひとつ腑に落ちない」「犯人探しに振り回される一方で、この奇妙な隠蔽劇の理由と背景はいまだに不明」と指摘した。「いつ、誰が?」の奥に「ナゼ?」があるからだ。

実際、今回の報告書で都の責任者が具体的に名指しで断定されはしたものの、盛り土をやめて、それを隠蔽することになった理由と背景については、いまだに明確には理解されていない。会見の翌日からNHKもやっと「なぜ盛り土を行わなかったのかという動機の解明に至らなかった」(11月2日)と報じ始めているくらいだ。

本連載の目的は、当初からまさしくその理由と背景の解明である。

1日の記者会見における質疑は、処分対象者とその内容に関するものが大半だった。「ナゼ」についての質問は一度だけである。どうやら会場にいた殆どの記者は、小池都知事が説明で触れた重要な言葉を聞き流してしまったようだ。

小池都知事は説明の中で大要、次のように述べているのである。注意したい言葉を拾い出して繋いだものを、便宜上「A」と「B」の2つに分けておく。

A.「土対法に対する対策として」「最初は盛り土を全面的にすると言っていた」「次に、同じ土対法で」「モニタリングを設けていた方がいいのではないかとだんだんシフトし」「地下空間にするかどうかは」「建築や土木といった技術系がリードする形で進めていった」

B.「そして、今後どうするのか」「まず、この地下空間の問題について、なぜそういう事態が起こったのか。この都庁のガバナンスの問題、マネジメントの問題ということを」「解き明かしていくことが今後の東京大改革と私は標榜しております」「地下水のモニタリング、来年の1月の半ばにはその結果が出てくる」「大気で、水銀が出てきた」「こういった環境面での安全性の確認、食の安全性、水の安全性の確認ということは引き続き行っていく」「安全性の確認は市場のプロジェクトチームが進める」「一方で」「平田先生を座長とする専門家会議の声、分析、評価を確認しながら」「5W1Hではないですけれども、その点についてはかなり絞り込みができた、特定ができた」「ロードマップ」「は、近々ご報告、そしてお伝えしておきたい」

Aのキーワードは、「土対法」「最初は」「次に」である。これは「盛り土と地下空間のミステリー」の《回答》そのものだ。

同じくBは、「ガバナンス」「東京大改革」「専門家会議」「5W1H」「ロードマップ」である。ここには、小池都政がどこまで都民と共に歩み続けられるかの《岐路》が隠されている。

繰り返しになるが、本稿の目的はAが物語る“地下空洞”の謎解きだ。

■「豊洲が汚染地域に指定されるかも」という懸念

豊洲新市場の予定地は、周知のように東京ガスのガス製造工場跡地を東京都が買い取ったものである。ガス製造工程では、ベンゼン、シアン化合物、ヒ素、水銀、六価クロム、カドミウム、鉛など人体に有害な物質7種が生成され、土壌や地下水が汚染される。

土壌汚染地は全国に数多あり、その跡地は様々な用途に転用されているが、巨大消費者を擁する東京ガスの工場跡地として国内最大級の汚染土壌とされる豊洲に「食の卸売市場」を移そうとした都の判断が問われている。

豊洲新市場の建物下に怪しく広がる“地下空洞”が見つかった直後、筆者は開示された議事録の内容確認から取材を始めた。その内容の詳細と経緯を知らねば何も始まらないからである。

まずは、盛り土を提言した専門家会議(正式名称は「豊洲市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」)の1年間にわたるやりとりだ。便宜上、小池都政で新たに設置された専門家会議と区別するため、当時の会議を旧専門家会議、現在の会議を新専門家会議と呼称する(いずれも平田健正座長)。

旧専門家会議は、有害物質や水質、土質、環境保健の分野から各1名、計4名の学識経験者で構成され、豊洲における食の安全・安心を確保するための土壌汚染対策を提言するために設けられた。同会議は、2007年5月19日から翌08年7月26日まで開かれ、結論として「豊洲新市場の敷地全体に4.5mの盛り土をする」ことを東京都に提言する。石原慎太郎都知事・比留間英人市場長の時代である。

9回にわたって開かれた旧専門家会議の議事録を読むと、全体を通して通奏低音のように東京都の担当者と専門委員との間で意識されていることがあった。専門委員や都の担当者らのやりとりに数回出てきた「土壌汚染対策法(土対法)」である。

同法は、有害物質を残すそうした工場が移転後、重金属類や揮発性有機化合物などによる土壌汚染や地下水汚染が跡地再開発で問題になるため、その対策として整備された環境省所管の法律で、2002年5月に制定・公布され、翌03年2月15日に施行された。

旧専門家会議で強く意識されていたのは、その土対法と、同時期に環境省で審議されていた同法の改正(2008年5月参院通過、09年4月公布、10年4月施行)にまつわる、関係者たちの「心配事」である。

「心配事」とは、端的にいうと、ユルユルの法律(詳細は後述)である土対法の改正によって、豊洲予定地が汚染地域に指定されるかもしれない、という懸念である。議事録には、そうした類の発言が散見される。

■東京都が東京都に申請し、東京都が判断する

まずは旧専門家会議・第8回のやりとり。

平田座長「…(略)…。土壌汚染対策法というのは何でもかんでも浄化しなさいということではなくて、いわゆる有害物質があって、それが人に対する健康影響を及ぼすような曝露経路は遮断しましょうということがまず大前提。そのためには管理をしましょう。管理をするにも、どこにどういう物質があって、濃度がどうであって、どういう管理が必要かということをきちんとやりましょうというのが土壌汚染対策法なのですね。

ただし、附則のほうで、いわゆる平成15年ですか、2003年の2月以前に対策を始めたものについては、土壌汚染対策法はかかりませんよということだったのですが、今回は修正をされて、かかりますということですね。…(略)…」

「そうしたときにここはどうなるかといいますと、また移転ありきかと言われるとつらいのですが、東京都が東京都に対して計画書を出すわけです。そのときに環境はどう判断をされるかというと、汚染があるわけですから、恐らく指定区域に指定をされると思います。

それに対して指定区域に指定をした後で、どういう対策をするのですかということを対策して、対策が終わった後、2年間は地下水をチェックしてくださいということになるのですね。この骨格は変わりませんので、その間に地下水がオーケーであれば、指定区域は解除をされるということになると思います。その手続があるということですね。…(略)…」

質問者A「今回の対策はこれで浄化できるわけですか。指定区域を解除できる条件なのですか」

平田座長「これは解除できると私は思っていますけれども、それはどちらも東京都なのですね。東京都が東京都に対して申請をして、東京都が判断するという苦しい判断をしなければいけないと思っています」

質問者A「地下水の汚染はなかなか修復できません、長年かかります」

平田座長「ですから、建屋の下については全部取ってしまいましょうということですよね」

質問者A「汚染地下水はそんなにすぐきれいにならないですよ」

平田座長「地下水だけにして、きれいにしていきましょうということですよね」

ちなみに、ここで話題になっている土壌汚染対策法の条文は、本則にある次の規定箇所だ。

第二章 土壌汚染状況調査
(使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査)
第三条 使用が廃止された有害物質使用特定施設(水質汚濁防止法 (昭和四十五年法律第百三十八号)第二条第二項 に規定する特定施設(第三項において単に「特定施設」という。)であって、同条第二項第一号 に規定する物質(特定有害物質であるものに限る。)をその施設において製造し、使用し、又は処理するものをいう。以下同じ。)に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者、管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)であって、当該有害物質使用特定施設を設置していたもの又は第三項の規定により都道府県知事から通知を受けたものは、環境省令で定めるところにより、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況について、環境大臣又は都道府県知事が指定する者に環境省令で定める方法により調査させて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない。
ただし、環境省令で定めるところにより、当該土地について予定されている利用の方法からみて土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときは、この限りでない。

■必要があれば汚染の除去等の措置を行う

次は、旧専門家会議・第9回(最終回)の発言だ。

望月副参事「…(略)…。13番から15番でございますが、13番で『土壌汚染対策法改正が見込まれている状況では、都は報告書の内容に関わらず移転に関わる一切の事務作業を中止すべき』という意見が同内容で3点ございました。これに対しましては、土壌汚染対策法の改正案については…(略)…」

平田座長「…(略)…、基本的にこれは中島室長が一番お詳しいかもしれないのですが、土壌汚染対策法の枠組みの中で変わっていくということになるのですけれども、それは今回のここにもし適用されたとして、どういうことに我々は配慮をしていかなければいけないのかという話だと思うのです」

中島室長「実際に出ております改正案の中身を確認しておりますと、調査の契機として、このような今回の新市場予定地のところを対象に、そちらも法の3条の対象にするという内容になってございます。3条の対象になりました後の調査法につきましては、これまでの土壌汚染対策法と同じ土壌汚染状況調査を行って、指定区域の指定、必要があれば汚染の除去等の措置を行っていくという流れになっておりますが、調査をして土壌汚染がありました場合には指定区域になるというところまでは、これまで座長からも回答されたとおりでございます。

指定区域になったときにどうなるかということでございますが、基本的に指定区域であることが悪いというのは土壌汚染対策法の精神ではございませんので、先ほども説明がありました土壌を直接摂取、土粒子が口から入ることによって人の健康被害が生ずるおそれがある、あるいは地下水を飲用とすることによって汚染による人の健康被害のおそれがある。

この2つの可能性がある場合に、それを防止するための措置を行うということでございますが、この土地においては地下水の飲用利用を行わないということであれば、残りますのは汚染土壌の直接摂取、直接汚染土壌が口から入ることを防止するということになります。

その場合の求められる措置といいますのは、50cmの覆土ということになりますので、基本的に50cm以上覆土されていれば、特にそれ以上の措置は求められない。そういう状態が維持されるよう管理をしていくということと、それを損なうような区画形質の変更の工事等がある場合には、その工事計画の変更等を求められることがあるということでございます。指定区域が解除されますのは、汚染土壌がなくなった場合ということでございます」

■「形質変更時要届出区域」に指定

実は、土壌汚染対策法は制定時にあらかじめ、「附則」の経過措置として免責規定が盛り込まれていた。同法が「ユルユルの法律」だと述べた理由の一つでもある。このような条文だ(丸カッコ内は筆者注)。

附則第三条「第三条(←本則)の規定は、この法律の施行(2003年2月15日)前に使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地については、適用しない」

言うまでもなく、東京ガスが豊洲の地の使用を廃止したのは土対法の施行前である。もし、法改正でこの附則第3条が外されたり、または本則のどこかに新たに厳しい規定が盛り込まれるなどして、豊洲の予定地が土壌汚染対策法の規制対象区域に指定されれば、そこは「汚染地域」として確定し、手続き上、大掛かりな汚染調査と根本的な汚染対策が義務づけられることになる。豊洲の用地取得で都は、所有者である東京ガスが汚染対策を免れ得る「瑕疵担保特約」を差し出して買収契約を成功させていたからである。

そうした経緯から、ただでさえ莫大なコストが発生するのに、盛り土だけで埋め尽くしてしまえば、当然、その後の汚染再発時に対策のための機器やシステムが搬入・設置できず、工事で稼働させることになる重機の出入口もなくなる。

東京都の幹部や担当者、専門家会議の委員たちが法改正の行方を注視していたのは、豊洲予定地にそうした対策が必要になるか否かで変わる土壌汚染対策の必要枠である。都の担当者は当時、法改正で豊洲の敷地が汚染指定区域になった場合を想定し、前述の諸作業に備えた建物下の空間確保がどうしても必要だったわけだ。こうした懸念から「盛り土が地下空間に化けた」のである。

豊洲新市場が“汚染された土地”に指定されれば、「築地ブランド」とは無縁の市場となり、集荷も激減することが予想される。慎重な業者が営業的にも豊洲への移転を渋るのは当然だろう。実は、汚染調査のためにボーリングで穴を空ければ、土壌が汚染されていた場合に地下水が汚染される。地下水が汚染されていたら上にのぼってくる。前回も述べたように、もともと豊洲は無理筋なのだ。

無理筋を何が何でも通せば、汚染地の調査と対策を東京都自らが課し、実施せねばならなくなる。調査・対策の予算は当然、都議会の承認を前提とする。議会では質疑応答が紛糾し、メディアが報じて大騒動が予想されることは明らかであり、間違いなく「豊洲への築地市場移転問題」が再燃する。

「地下空間」を設置せず汚染対策に何の手も打てないとなれば、その時点で担当幹部らが重大な責を問われ、すでに至上命題となっていた築地市場の移転も先が見えない暗礁に乗り上げることになる。都の幹部らは、改正法で豊洲予定地が汚染地域に指定されるかもしれないと、常に喉につっかえたような不安を抱いていたのである。

2008年7月、旧専門家会議が敷地全体の盛り土を提言し、同年12月に都は「技術会議」を設置して汚染対策工法の検討を開始する。予想通り、09年に土壌汚染対策法が改正され、10年4月に施行。豊洲新市場の予定地は、汚染対策が困難な自然由来の有害物質があるなどの理由で、11年11月に都知事への届け出を義務づける「形質変更時要届出区域」に指定された。

ちなみに、旧法施行から約半年後に環境大臣となったのが、いま辣腕を揮っている小池百合子都知事である。環境大臣として3年間在任中は、今回の汚染問題の急所である「附則第3条」が有効な土対法が運用された。

とはいえ、改正法の諸規定にも同様の甘い規定が残っている。その改正法にさえ「形質変更時要届出区域」として指定された豊洲予定地は、誰が判断しても明らかに生鮮食料品の市場としては不適と言わざるを得ない。

以上で、豊洲新市場の「盛り土と地下空間の謎」は、ひとまず解けたかのように見えるわけだが……。実は、その謎の解明が、本連載の取材過程で新たな火種を炙り出すことになった。移転を推進するため、改正法を横目に水面下で手を打とうとしていた関係者らは、汚染対策のための地下空間設置へとコトを運ぶ際に、どうやら危うい手掛かりを残してしまったのである。(つづく)

(ジャーナリスト 藤野光太郎=取材・文)