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●スプリントが"足かせ"から脱却
11月7日、ソフトバンクグループは2017年3月期第2四半期決算説明会を開催した。プレゼンテーションに立った孫正義社長が最も言葉を重ねて語ったのは、かねてより説く「シンギュラリティ」に対し、先手を打つ形で大規模な投資に乗り出す意義と覚悟だった。

○足かせ解消で「世界へ転ずる」

この日登壇した孫氏は、数字を挙げるより先に「忙殺の日々に自らが保守的になっていたことを猛反省している。我々はもっと積極的にテクノロジーの進化、業界の発展に取り組んでいかなくてはならない」と切り出した。

連結業績を見ると、売上高は前年同期比-0.2%の4兆2,718億円。営業利益は同4%増の6,539億円。このうち国内通信事業は営業利益9%増。累計契約数は前年比+69万、解約率は1.06%と改善し、家庭向けインターネット接続サービス「SoftBank 光(光回線)」の累計契約数が前年同期の71万から270万へと大きく増加するなど、2016年度は12期連続の増収。2016年度フリーキャッシュフロー5,000億円の見通しに変更がないことを示した。

また、ヤフージャパンでは広告事業の主戦場がPCからモバイルへ移ることで懸念された広告価値の減損を回避し、イーコマース事業の成長も手伝って増収を続けている。

一方、「これまで3年間、連結業績の足を引っ張り、しかも借金が増えた一番の要因」であった米スプリントについては、固定費・設備投資を減らしながらネットワークを改善し、解約率も過去最良となり純増ベースへ転じた。2016年度の営業利益は12〜17億ドルという見通しを示した。

「何年か経てば史上最も大きな規模の反転であったと、アメリカ経済史の1ページに名を残す事例になるのではないかと、自信を深めつつあります」と孫氏は話す。

グループの"足かせ"であったスプリントにようやく反転の目処が付いてきた格好だ。しかし、孫氏にとっての命題は業績改善そのものではなく、グループとしてようやく「もう一度世界に転ずることができるステージに来た」ということだ。

●「売りたくなかった」アリババ株を売った理由
去る9月、ソフトバンクは英半導体設計大手・ARMの買収を完了した。買収金額は約3.3兆円と、過去のボーダフォン日本法人(1.75兆円)、スプリント(約1.8兆円)を超え、日本企業では過去最大のM&Aとなった。孫氏はCEOのWarren East氏と共にARMの主要顧客を訪問する中で「買ってよかったとつくづく自信を深めた」という。

「進化の激しい業界で、そのエンジンに相当する技術について、10年分の開発ロードマップが明確にできている会社は(ARMのほかに)そうたくさんない。訪問した企業からは非常に強い関心とジョイントプロジェクトの話をたくさん頂いた」(孫氏)

今後は1兆規模のIoT製品やそのインフラ側となるサーバにもARMの製品が大量に搭載されると成長の見込みを示した上で、孫氏は「便利になると同時にリスクも孕む」とセキュリティの重要性も強調した。

「単に安い・早い・消費電力が少ないということだけでなく、安心安全な、暗号化されたチップであるかが大事。ARMであれば安心、という時代がこれから来る」(孫氏)

買収したばかりではあるが、すでに実績の上に成長を重ねているため、戦略には変更なく新技術・市場に継続的に投資していく形になる。

最後に数字を挙げたソフトバンクグループの投資資産については、アリババが2016年7-9月期の直近3ヶ月で売上高5,524億円、純利益2,099億円と大きく伸びている。しかし孫氏はこれでも「まだ収穫期ではない」と、クラウドやフィンテックへの先行投資の成熟により一層の成長を遂げることに確信を見せた。

アリババ株を「本当は一株も売りたくなかった」というのはそこが理由だが、スーパーセル、ガンホーと共にアリババ株も一部売却してまでARMへ投資したことには、より大きな理由があった。氏が折に触れて標榜する「シンギュラリティ(技術的特異点)」だ。

○産業革命をしのぐ変革へ、攻めの構え

シンギュラリティはコンピュータの知性が人類を超えることで起こる出来事とされ、孫氏はこれにより「あらゆる産業が再定義され、再発明される」と考えている。「産業革命をはるかに超える変革」「ひとつのビジネスモデルだけでは間に合わない程の根源的革命」と繰り返す言葉は、ビジネスへのビジョンと同時に、ほとんど危機感のようなものに駆り立てられているかに聞こえる。

「多くの人が賛成するかどうかは別として、少なくとも私は今すぐ本気で取り組まなくてはいけないと思っている」(孫氏)

●10兆円ファンド、なぜ設立?
それほど大きな変革を見据えながら「目の前のものだけ耕し続けてもとても間に合わない」と考えて踏み出したのが、テクノロジー分野への出資を目的としたソフトバンク・ビジョン・ファンドの設立だ。10兆円規模の資金を調達し「人類史上最大のプロジェクトをソフトバンクが牽引する」と意気込む。

今後、数百億円以上の戦略的投資はファンド経由で行うこととなる。これにより、ソフトバンクが投資のために資産を切り売りしたり借金をする必要がなくなり、さらに「収穫期に入った」国内通信事業などから安定的にフリーキャッシュフローがあることで「構造的にバランスシートは改善する」ことが見込まれる。

ソフトバンクの現在の事業よりも、シンギュラリティを展望した今後の取り組みが発表の中心となった今回の発表会。質疑応答でこれからの孫氏の役割について問われると「自ら演奏するのではなく、それぞれがシナジーを出し合えるよう全体をオーケストレートする」ことが中心になると回答した。

「保険という事業を持ちながら投資事業を行うバークシャー・ハサウェイのように、テクノロジー業界のバークシャー・ハサウェイを目指している」のだという。

現金収入を生む事業を「日々、目の前の畑を耕す」ことにたとえ、それをおろそかにするわけではないが、異なる次元でテクノロジー分野全体の将来に打って出る姿勢を明確にした。昨年発表された長期成長戦略"ソフトバンク 2.0"の具体的な姿が1年半を経て浮かび上がってきた格好だ。

「シンギュラリティを迎えるにあたり、世界的戦略で、より安全を増しながら攻めていく構えを作る。これまでの反省を込めて"ソフトバンク 2.0"に臨んでいきたいと思います」(孫氏)

(笠井美史乃)