中国では銀行ローンは日本ほど普及していない。住宅や自動車ローンはそこそこあるが、お金を借りる先の1位は今も親戚。そして親戚から集めても足りない場合は、友達が頼みになる。写真は中国の学生。

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私事だが、大学時代の育英会奨学金の返済がようやく終わった。収入が激減した4年間は返済を猶予してもらい、卒業から足掛け18年で完済を果たした。

地方の平均的なサラリーマンだった父は、私を東京の大学に進学させるため、自己資金では足りない分を教育ローンに頼った。私自身も貸与型奨学金を申請した。

今、私は母子家庭の母になった。息子の学費を心配していると、父は言った。「日本は銀行ローンが整備されてるから、学費の工面は何とかなる」。日本の場合、教育のセーフティネットは何だかんだいって整っている。まじめな勤め人なら、家や車を買うときにも低金利のローンを借りられる。

中国では銀行ローンは日本ほど普及していない。住宅や自動車ローンはそこそこあるが、お金を借りる先の1位は今も親戚。そして親戚から集めても足りない場合は、友達が頼みになる。

銀行ローンを使う人が少ない理由は色々あるだろうが、その一つは、公的な所得証明の信頼性の薄さかもしれない。

日本では児童手当を受けるにも、住宅ローンや奨学金の申請にも、世帯の所得証明が求められる。日本に入国を希望する外国人も、ビザの申請にあたって所得証明を提出しなければならない。

私は日本の学校から委託を受け、同校を受験する中国人の提出書類に嘘がないかチェックしている。ある年、中国の語学学校から、受験希望者3人の願書が送られてきた。その3人は出身地も親の職業も違うのに、親の所得証明の金額は全く同じだった。語学学校が「この通りに書け」と指示したとしか思えないが、そんなことはできるのか。

勤務している大学の学生たちに聞くと、「役所に知り合いとか親戚がいれば簡単ですよ。私たちも奨学金を申請するときにやりますよ」との返答だった。

中国の大学にもさまざまな奨学金があり、日本と同様に、成績と経済力が採用基準の二本柱となっている。成績の方は学校の試験で比較的公正なデータが得られるが、貧困学生向けの奨学金は、親の所得を過少申告するのが当たり前となっており、「所得ゼロ」と提出する学生も珍しくないという。

「親の所得がゼロなんてなかなかないでしょう」「そうですよ。誰だって信じないですよ。だから投票するんです」。なんと、日本語学科では貧困者向け奨学金の受給者を、クラスの投票で決めるという。

「AさんはiPhoneを使ってるから貧乏じゃない」「Bさんは服をたくさん持っている」…。その基準はいかにも情緒的だが、でたらめの所得証明書よりは信頼できると考えられている。そして投票なので、友達の囲い込みが不可欠である。ここでも「コネ」が大事なのだ。

両親がおらず、高校から奨学金だけで自活している学生は言った。「うちのクラスは、投票前に演説をして、自分の家がいかに貧乏かを宣伝します。私の家は本当に貧しいのでみじめです」。

そして貧困学生向けの奨学金を獲得するために親の所得を過少申告していた学生たちは、日本に留学する段階になると、ビザを取得するために、故郷の役所に行って水増しした所得証明を発行してもらう。

この大学の学生の多くは、小さな地方都市や農村の出身なので、大都市ではこんなことは起こっていないかもしれない。しかし普通の大学生が、役所から発行させる数字を操作できる環境にあっては、中国人がデータや統計よりも噂を信用するのも無理はないと思う。

■筆者プロフィール:浦上早苗
大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。