ノースカロライナ州、トランスジェンダー差別の「トイレ法」で経済損失6億ドル

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米ノースカロライナ州では8日、同州で今年成立し物議を醸している「公共施設のプライバシーと安全法」、通称「トイレ法」の是非をめぐる有権者の審判が下される。フォーブスの推計によると、トイレ法は3月以降、少なくとも6億ドル(約630億円)の経済損失を同州にもたらした。

市民に対し「生物学上」の性別に基づいた公共施設の利用を義務化する同法は、ジェンダーは男女の二つしか存在しないとの考え方に基づいており、それに当てはまらないトランスジェンダーの人々を差別する内容だ。米司法省は同法撤廃を求め、ノースカロライナ州を提訴している。

トイレ法は大きな反発を生んだ一方で、熱烈な支持も得ている。パット・マクローリー州知事は同法を繰り返し擁護。同州で8日の大統領選に合わせ実施される州知事選では、トイレ法撤回に向けた取り組みを掲げるロイ・クーパー州司法長官が対抗馬として立候補しており、企業幹部や経済学者、そして住民らは、勝敗の行方に注目している。

トイレ法は一方で、ノースカロライナからの企業離れを生み、経済に打撃を与え続けている。

5月には、NBAが同州で予定されていたオールスターゲームの会場をニューオリンズに変更。1億600万ドルの経済効果が失われた。マイケル・ジョーダンも、所有するシャーロット・ホーネッツの本拠地を州外に移す可能性を警告した。

影響は大学スポーツ界にもおよび、全米大学体育協会(NCAA)とアトランティック・コースト・カンファレンス(ACC)が競技会の会場変更を決定。それぞれ5,100万ドル、4,000万ドルの損失を生んだ。

トイレ法は金融業界の注目も集めている。ペイパルとドイツ銀行は4月、650人の新規雇用、年間4,200万ドルの給与をもたらすはずだった事業拡大計画を凍結。地元紙は、ペイパル撤退による経済損失額を、新規雇用に伴い見込まれていた経済活動分を含め1億920万ドルとしている。

多大な公演収入をもたらす大物音楽アーティストも、次々とボイコットを表明。ブルース・スプリングスティーン、パール・ジャム、リンゴ・スターが、同州での公演を取りやめた。

同州のリサーチ・トライアングル都市圏では、多くの生命科学企業に対するベンチャーキャピタル投資の機が熟しているが、アルファベットのベンチャーキャピタル部門GV(旧名グーグル・ベンチャーズ)は同州での投資を一時停止した。2014年以降、1イニシアチブ当たり平均470万ドルの投資を行ってきたGVは、これまで同州を拠点とする企業に投資をした実績はないが、トイレ法が撤廃されない限り、今後もその可能性はなくなる。

「ビジネス誘致と差別支援を両立させることはできない」。アメリカ進歩センターによるトイレ法についての報告書を共同執筆したシャバブ・ミルザはこう指摘する。

70社近い企業が「法廷助言者」として差別的なトイレ法に反対する文書に署名。うち11社は、フォーブスによる「最も価値の高いブランド」ランキングに入っている。

かつて「東のハリウッド」と呼ばれるほど栄えていたノースカロライナ州の映画産業は現在、トイレ法に加え、税優遇制度に代わり競争力の低い補助金プログラムが導入されたことにより、より条件の良いジョージア州やサウスカロライナ州に仕事を奪われている。

トイレ法がもたらした経済的打撃を正確に計ることは困難だが、フォーブスは地元メディアの報道や、政策調査、インタビューを通じ、その額を約6億3,000万ドルと推定した。これには、同法撤廃の阻止に使われる訴訟関連支出や、連邦政府が打ち切る可能性がある補助金は含まれていない。

一方、共和党や商工会議所は、トイレ法による悪影響を否定し、同州経済は現在も成長を続けていると主張。同州のGDPは約5,100億ドルであり、6億3,000万ドルの損失は無視できるレベルだとの姿勢を取っている。

同州のジョン・スクバーラ商務長官は、3月以降に雇用者数は5,000人増加し、州当局の経済開発プログラムによって約6億ドルの新規投資があったと指摘。同州はフォーブスが昨年まとめた「最もビジネスに適した州」ランキングで2位に入っており、トイレ法が話題になった後も、ビジネス環境の発展がメディアに取り上げられ続けている。

パブリック・ポリシー・ポーリングの世論調査によると、トイレ法が州に害を及ぼしていると答えた有権者は約52%、経済に悪影響を与えていると答えた有権者は49%だった。