【第66回:内弟子】

秋場所(9月場所)を休場した横綱。
その間に手術した足の経過もよく、
九州場所(11月場所)では復活優勝を狙う。
さらに、同場所では横綱の弟弟子である
石浦、山口が、それぞれ幕内、十両に昇進。
彼らの活躍に、横綱も期待を寄せる――。


 1年の締めくくりとなる九州場所(11月場所/11月13日〜27日)がまもなく始まります。

 2016年、私は春場所(3月場所)で36回目、続く夏場所(5月場所)で37回目の優勝を飾ることができました。しかしその後、足を痛めるなどして、名古屋場所(7月場所)は10勝5敗止まり。さらに秋場所(9月場所)では、横綱に昇進してから初めて、初日からの休場となってしまいました。みなさんにはご心配をおかけして、誠に申し訳ありませんでした。

 その影響もあって、10月初旬から始まった秋巡業も、大事をとって前半戦はお休みさせていただきました。その間、ケガの回復に努めてきましたが、日を重ねるごとにだいぶよくなってきたので、10月20日に京都市で行なわれた巡業から合流。それからは、最終日の山口市での巡業まで、無事に参加することができました。

 それにしても、力士のみんなと一緒に巡業に出ることが、これほど待ち遠しいと思ったことはありません。

 というのも私は、地方巡業に出て、全国各地のファンの方々と間近に触れ合うことは、大切な「横綱の務め」だと考えています。ゆえにこれまでも、多少無理してでも、その任務はきちんと果たそうと思ってきました。だいたい、ひとり横綱だった期間も長かったですし、日馬富士や鶴竜が横綱に昇進してからも、彼らが巡業期間中を負傷の治療に充てることが多かったので、「私だけは、絶対に休めない」という気持ちが強かったですね。

 また最近は、巡業の日数が長くなったこともあるのでしょうが、十両以上の関取衆で巡業を休む力士が増加。その分、割り(取組)も少なくなっていて、トップに立つ者としては、かなりの危機感を持っていました。だから今回、巡業に出られない間は本当にやきもきしていましたし、合流できたときには心底ホッとしました。

 巡業では力士だけでなく、同じ相撲協会の一員である、行司さんや呼び出しさん、髷(まげ)を結ってくれる床山さんなど、裏方の人たちとも一緒にいろいろな土地に行きます。そうすると、普段では見られないような"顔"が見えたりして、とても楽しいものです。

 それに、さまざまタイプの力士と肌を合わせることができますし、自分は稽古ができなくても、周りの力士たちはどんな稽古をして、今どんな状態なのか、じっくり観察できます。つまり、巡業は"発見の宝庫"なんです。そういうこともあって、私は巡業に対する思い入れが強いのかもしれません。

 とにかく、秋場所中に足の手術をして、その後、土俵に上がる許可はドクターからなかなか出ませんでした。秋巡業が始まる頃になると、体が相撲を欲しているというか、「動きたい!」という衝動がどんどん強くなっていきました。きっと、私は根っからの力士であり、相撲人なんでしょうね(笑)。

 途中から参加した秋巡業では、徐々に体を慣らして、終盤に入った広島巡業からは土俵にも上がって、幕内力士とも稽古を敢行。そのときは、「やっぱり、これだな!」と感慨深いものがありました。こうした経過を踏んで、例年どおり福岡入りできたことは、本当によかったと思っています。

 さて、巡業に復帰できた喜びに浸っていると、私にとって、さらに喜ばしい一報が届きました。軽量力士として十両で奮闘していた宮城野部屋の弟弟子・石浦が、九州場所での新入幕を決めたのです。

 それだけではありません。以前、大喜鵬の四股名で幕内の土俵で相撲を取っていた山口が先場所、幕下2枚目で全勝優勝。病気が原因で一時は三段目まで番付を下げていたのですが、九州場所での十両復帰が決まったのです。

 彼らは私がスカウトしてきた、いわゆる「内弟子」と呼ばれる力士たちです。それゆえ、「いつか、横綱土俵入りの太刀持ちと露払いを、石浦と山口のふたりに務めてもらえたら最高だろうなぁ」と、夢を見ていました。そうしたら今回、石浦が入幕。ついに彼が露払いを務めることになり、その"夢"が現実味を帯びてきて、非常にワクワクしています。

 ともあれ、石浦も、山口も、ここまでの道のりは本当に厳しかったと思います。特に山口は、病気で稽古をすることもままならない状況でした。そのため、本来の明るい性格もどこかに吹っ飛んでしまうほど、落ち込んでいた時期もありました。そんな、どん底な状態から復活を遂げた彼のハートの強さには、頭が下がるばかりです。今後の活躍が一層期待されます。

 石浦も、"軽量"という簡単には乗り越えることのできない壁の前でずっと苦しんでいました。しかし、決してへこたれることはありませんでした。黙々とトレーニングをこなして、筋肉をつけることで"軽さ"をカバーしていこうと、日々懸命に稽古を重ねていました。その真摯な姿勢が今回、実を結んだのだと思います。

 加えて、十両の土俵では、反り技など"異能相撲"を取る宇良という力士が台頭してきたことも大きかったですね。厳密に言えば、相撲のタイプは違うのですが、ともに小兵で業師ということで、ふたりの対戦は注目を集めていました。それが、石浦の励みになったと思います。

 そうして、秋場所で十両筆頭だった宇良よりも、6枚目の石浦がひと足早く新入幕を決めました。そこには、大きな意義があると思っています。

 9勝を挙げた秋場所、前半に5連勝した際の相撲は、まさに石浦らしい俊敏な動きが生かされていました。九州場所では、幕内では最軽量となる石浦。どこまで通用するのか、不安もありますが、期待も大きいです。いくらかアドバイスしながら、その戦いぶりを見守っていきたいと思います。

 当然、私も彼らに負けてはいられません。名古屋場所で達成したいと思っていた通算1000勝まで、あと3勝。まずは、それを早々に成し遂げたいと思います。

 次に目指すのはもちろん、優勝です。

 秋場所で全勝優勝を遂げた豪栄道が、この九州場所で「綱取り」に挑みます。巡業中も元気な姿を見せていただけに、その可能性は大いにあると思いますが、そこで壁になるのが、私の役目。九州場所では豪栄道だけでなく、白鵬にもぜひ注目してください。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki