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2016年11月4日、米労働省が発表した10月雇用統計は、(1)非農業部門雇用者数が前月比16.1万人増(市場予想17.3万人増)、(2)失業率が4.9%(同4.9%)、(3)平均時給が25.92ドルで前月比0.4%増(同0.3%増)、前年比では2.8%増(同2.6%増)という内容であった。

(1)非農業部門雇用者数の増加幅は10月分こそ市場予想を1.2万人下回ったが、前2カ月分が合計4.4万人上方修正された事でバランスを取った。なお、米連邦準備制度理事会(FRB)のフィッシャー副議長は、今回の16.1万人という増加幅について「5%の失業率を保つには十分だ」との認識を示している。非農業部門雇用者数の3カ月移動平均は19.2万人増から17.6万人増に鈍化したが、米労働市場は「完全雇用」の状態に近いとされる中で、これを「減速」と受け止める向きは少ないようだ。

(2)10月の失業率は、予想通りに4.9%へと低下した。9月に上昇していた反動とも言えるが、低下は実に5カ月ぶりという事になる。労働参加率が62.8%に低下(前月62.9%)した影響と見られるが、こちらも前月に上昇した反動の範囲内だろう。失業率については、必ずしも改善したとは言い切れない面はあるが、少なくとも悪化したとの受け止め方はない。

(3)平均時給は、前月の25.82ドル(25.79ドルから修正)から0.10ドル増加した。前月分が上方修正された上に前月比の伸び率(+0.4%)が予想を上回った点は、まさにポジティブ・サプライズと言える。また、前年比の伸び率(+2.8%)は2009年6月以来の高さであり、米労働市場が「完全雇用」に近づいているとの見方を裏付ける賃金上昇となった。

今回の米10月雇用統計は、米連邦公開市場委員会(FOMC)による12月利上げを後押しする内容だったと言えるだろう。特に平均時給が大きく伸びた点は注目に値する。人手不足によって賃金上昇圧力の予兆と見る事もできそうだ。

もっとも、今回の雇用統計を受けて一時上昇していたドルや米国株および米長期債利回りが失速した事からうかがえるように、金融市場の関心は米国の利上げよりも8日の米大統領選に向けられている。保護主義的な政策を掲げ、暴言を繰り返す共和党トランプ候補が勝利すれば、市場は混乱に陥る公算が大きく、FOMCは利上げどころではなくなるとの見方が強いためだ。7日の本稿執筆時点では、米連邦捜査局(FBI)が、民主党クリントン候補の私用メール問題について「訴追せず」の見解を示した事で、「トランプ・リスク」は後退したと受け止められているが、今年6月の英国民投票では、直前まで不利と見られていた欧州連合(EU)離脱派が逆転勝利した例もある。市場としては、クリントン候補有利との読みが働いてもクリントン大統領の誕生に決め打ちするのは難しいだろう。したがって、実際にクリントン候補が勝利した暁には、大統領選の結果待ちで棚上げされていた12月利上げ観測が改めて俎上に載せられる事になりそうだ。

○執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya

(神田卓也)