『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ (光文社新書)』辛酸 なめ子 光文社

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 漫画家、イラストレーター、コラムニストと多彩に活動する辛酸なめ子さん。彼女のユニークな視点は、物事の本質に鋭く迫り、辛口なのに、ちょっと気弱で不器用で真面目な性格がにじみ出た作品の数々は、多くのファンの心をとらえています。

 最新の著書「大人のコミュニケーション術」は、「世の人の成功には、コミュニケーション力(コミュ力)が大きく関わっているように思います」と始まります。著者は、自身のコミュ力の偏差値は42くらいと述べ、「コミュ力不足のせいで様々なチャンスを逃してきたような気がします」「コミュ力不足の人は基本受け身で、誰かに発見してもらったり、依頼されるまで動けないのです」と書いています。

 「心が折れかけたり人間不信になりそうになりながら、コミュ力を何とか高めようと奮闘する記録」という本書で取り上げられているのは、著者がいろいろな人間関係の中で習得してきた、自分らしく生き抜くためのコミュ力を磨く知恵や処世術です。

 例えば、「飲み会処世術」では、お酒があまり飲めず、「飲み会に行くとぐったり疲れることが多い」という著者が、いかにして角を立てずに飲み会から抜け出すか、苦心する様子が描かれています。生ものの食材をわざわざ持参して、「腐ってしまうのでそろそろ帰ります」と言い訳したり、「風邪気味」を口実にしたり。結局、食材は夏しか使えず、風邪は「移る」と余計な心配をさせてしまうことに気付いてやめてしまいます。「メールをチェックしたあとに、『すみません、今日中に直さないとならないことが出てきてしまいまして』と言うと比較的穏便に帰れます。(中略)気乗りしないながら参加していてなんですが、飲み会は、誘われるうちが花なのかも知れません」と本音がちらり。彼女のように、仲間とうまくつながっていくために、声を掛けてもらいたいけれど、飲み会に行ってもそう楽しいわけではなく、相反する気持ちに悩んでいる人も少なからずいるでしょう。そんな読者にとっては、自分だけではなかったと、ホッとできそうです。

 他にも「名前を覚えられない人のための社交術」、「タメ口コミュニケーション」、「格付け女子」、「Instagramの光と影」など、最近の風潮の中で、何となくモヤモヤしてしまう女性の気持ちが率直に描かれています。人間関係のリアルな描写は、ちょっぴり怖くて、ちょっぴり笑えて、ちょっぴり切なさも感じるエッセイです。

 「(人と人との間には)コミュニケーション以前に見えないエネルギーのやり取りがあるので、内心(この人感じ悪いな)と思うと以心伝心で相手に伝わってしまい、変な空気になってしまいます。人のことを感じ悪いと思う自分こそ感じ悪いと反省させられます。心の中で相手をジャッジしないことが、コミュニケーションの鍵なのです」(本書あとがきより)

 コミュニケーションの基本は、心の在り方。自分の中のわだかまりを自覚して、対処しようと努力することを本書は教えてくれます。コミュニケーション力に自信がないという人は、開いてみるとちょっとスッキリするかも知れません。