金正恩氏

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韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の知人女性・崔順実(チェ・スンシル)容疑者が国政に介入した疑惑、いわゆる「崔順実ゲート」をめぐり、北朝鮮の「朴槿恵非難」の論調がエスカレートしている。

地雷で吹き飛ぶ兵士の動画

北朝鮮メディアは、連日のように韓国全土で朴槿恵退陣を求めるデモや集会が行われていることを詳細に伝えている。朝鮮中央通信は7日、韓国全土で朴大統領の退陣を要求するデモが行われていることや、中学生や高校生までもが「中高生が先頭に立って革命政権立てよう」という段幕を掲げながら行進したことなどを事細かく報じた。

その狙いは「南南葛藤」。つまり、韓国国内の懸案をめぐり、意見対立、衝突など、とりわけ左右の対立を煽り、社会と政権を動揺させることだ。さらに、金正恩党委員長にとっては、朴大統領に無残な敗北を喫した過去を払拭するチャンスでもある。

昨年8月、軍事境界線付近で発生した地雷爆発事件をめぐる南北対立で、韓国側は、地雷が爆発する監視カメラの動画を公開してまで、北朝鮮側にプレッシャーをかけた。北朝鮮は「遺憾」の意を表明し、事実上の謝罪に追い込まれた。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

さらに米韓は正恩氏をターゲットにした「斬首作戦」を導入するなど、たたみかけるように心理的圧力を加えた。金正恩氏は今年1月6日と9月9日の2回にわたって核実験を強行。また、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験を8回も行いながら、劣勢を挽回すべく米韓の圧力に対抗してきた。

こうした金正恩氏にとって、朴氏が崔順実ゲートをめぐって不利な状況に追い込まれることは、まさに渡りに船といえるだろう。だからこそ、ここぞとばかりに韓国の抗議行動を取り上げながら、朴槿恵氏対する非難攻勢を強めている。

戦車で轢殺

とはいえ、過度な非難は金正恩氏自身に返ってくる恐れもある。北朝鮮が韓国の朴槿恵大統領に対する抗議行動を報じれば報じるほど、金正恩体制においてこうした民主的な手段がないことを際立たせるからだ。

たとえば北朝鮮にも政治家のスキャンダルは存在する。故金日成氏の抗日パルチザン時代の隊員で同志だった崔賢(チェ・ヒョン=1907〜1982)氏の息子である崔龍海(チェ・リョンヘ)氏は、全国から選抜された社労青宣伝隊の女性を自身の性的欲求を満たすための「玩具」にしたという。

こうした経緯からか、崔龍海氏は一時的に失脚するも、結局復活した。その後もスキャンダルの度に失脚、復活を繰り返しているという。そして、今では朝鮮労働党中央委員会の副委員長。実権はないといわれているが、昨年9月には中国の抗日戦勝行事に派遣され、今年8月にはブラジルで開催されたリオ五輪にも派遣されるなど、いまだに権力中枢に居座っている。

崔龍海氏の変態スキャンダルは、多くの人に知れ渡っているが、これを告発する民主的なメディアは存在せず、また民主的な抗議活動を行う手段すら存在しない。よって権力層がやりたい放題なのだ。

スキャンダルだけではない。90年代、北朝鮮政府の失政によって未曾有の食糧難が引き起こされた。当時の金正日体制でさえも「苦難の行軍」と称してこれを認めている。しかし、反省すらしなかった。それどころか食糧難を解決しようとした動きを弾圧し、さらに抗議する労働者たちを戦車でひき殺すというとんでもない虐殺行為を働いた。

人民大衆の抗議は一切許さず、仮にあったとしても徹底的に弾圧して隠蔽しながら維持されているのが、今の金正恩体制である。こうした体制が、いくら朴槿恵大統領に対する韓国民衆の抗議行動を「政権打倒に立ち上がった勇敢な南朝鮮人民」と称えたとしても、その言葉が空しく響くばかりだ。