谷原の終盤に連続バーディを引き出す力は、ショット力だけでなく経験値からくる部分も大きい(撮影:標英俊)

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 谷原秀人の今季3勝目で幕を閉じた国内男子ツアー『HEIWA・PGM CHAMPIONSHIP』。賞金王を争う池田勇太との“最終日最終組直接対決”。ギャラリーにとって最高のシチュエーションとなったが、一進一退の攻防のなかプレーオフで決着。谷原は4打差リードでスタートしたものの、池田の猛チャージで中盤には2打差ビハインドに…。だが執念の粘りで16番、17番の連続バーディで追いつき、勝利を手にした。どちらが勝ってもおかしくないハイレベルな競り合いだったが、優勝争いの裏側を、JGTOトーナメント担当理事で同大会のホールロケーションを担当した田島創志氏に語ってもらった。
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■ 16番パー3でハッキリと現れた優勝経験者と未経験者の差
 最終日の見どころのひとつはハーフターン後の10番。池田が前半に3つ伸ばしたことで谷原13アンダー、稲森佑貴12アンダー、池田11アンダーと混戦状態になっていた。1ホールの間に順位が引っくり返る僅差で迎えた最難関ホール、499ヤード・パー4。ここで谷原はまさかのダブルボギーを叩き、ボギーとした稲森に並ばれ、同じくボギーの池田とは1打差。一気に緊迫感は増した。
 そして12番544ヤード・パー5で順位はさらに動く。1打差を追う池田は、ティショットをフェアウェイ左サイドのラフに入れ、2オンを狙うには大きな木の影響でスタイミーな状況となった。だが3番ユーティリティを振りぬくと、大きく曲げたドローボールはピン方向へ生き物のように向かっていき、7mのイーグルチャンスに。これを見事決めきり、豪快なガッツポーズ。一方、稲森はバーディとしたものの、谷原はパーで首位陥落。10番に次ぐ難関ホール、502ヤード・パー4でも池田がスコアを落とさずしのいだのに対し、谷原はボギー。この時点で池田が12アンダー、稲森が11アンダー、谷原が10アンダーと流れが池田に傾いていった。
 そしてスコアが動かないまま迎えた上がり3ホール。田島氏は16番パー3が優勝争いに最も影響を与えたキーホールであったと見ている。
 「今大会で最も気を使ったのが、16番ホールのピンポジションです。最終日は全体的に4日間のなかで最も難しいホールロケーションを設定していますが、15番からの4ホールは“ターゲットが狭くなる”ようにカップを切っていました。プレーする選手からすれば、漠然と狙うのではなく“狙っていく位置が絞れる位置”といいましょうか…。16番もその条件を満たした上で、グリーン左サイドの段の真下、窪んでいるスポットで“落とせる幅がカップ5m以内の位置”に設定。少しでも左へいけばラフでバーディ奪取が難しくなりますが“優勝争いの真っ只中でグリーンセンターにセーフティに打たせたくない”“勝負どころでゾーンに入った選手に狙ってきて欲しい”との願いを込めていました(田島)」
 オナーの池田はピンハイを狙って、見事約2.5mのバーディチャンス。「上がり3ホールはバーディを獲ると決めていた。先に打った勇太があの状況でもピンを狙ってくるので、自分も負けじと。左に落としたらボギーも覚悟しましたが、フォローの風が強く“そこまで曲がらないな”と思ったので。良いショットが打てましたね」と試合後に振り返った谷原も、4番アイアンで振りぬいたショットを1.5mのチャンスにつけるスーパーショット。
 一方百戦錬磨の二人とは対照的に稲森はグリーンセンター右寄りに着弾。安全と思われる位置を狙ったように思えたが、この3者の選択と結果が“優勝経験者と未経験者の差”を大きくあらわしているという。
■ ホールロケーションの意図を本能的に感じられるか、否か…。
 「あの選択は重要なポイントでした。16番のピン位置は左のラフに外してもアプローチで寄せられる可能性が高かったのです。窪みの傾斜を利用して止めることができるので、バンカーに入っても問題なかったと思います。
 優勝争いの演出的にも、ピンハイを狙わせた上で“ピンそばに寄せたらスーパーショット”、ラフやバンカーに外してギャラリーからため息が漏れたとしても“見事なリカバリーでパーセーブでギャラリーにプロの凄さを伝えられる”という意図がありました。逆にセンターより右サイドに置きにいった場合は“必死の2パット”にさせたかった。
 一人目の池田はその意図を読んでピンを狙ってきているはず。谷原も池田のショットを見た上で“ピン左のラフに外れても寄るな”とリスクヘッジしながら、“勝負の分かれ目の気配”を感じ取ってピンハイを狙ってきた。そして両者ともバーディチャンスを創出。二人の判断力とショット力のレベルの高さがわかるハイライトです(田島)」
 “必死の2パット”を強いられた稲森は「16番は乗りましたが、ポジションが悪かった。上って下ってのパットで距離感が合わなかった。強く入りすぎてオーバーしたあとの返しも決まらず…」と振り返ったが、「ものすごい難しいファーストパット。どんなパット巧者でも寄せるのは難しいと思います。ロケーションの意図を読めなかったのか、単純なミスなのか…。どちらにせよ“ミスをしても左サイド”という選択はできていなかった(田島)」と悪い意味で意図通りの罠にハマッてしまった。
 「谷原は1.5mのバーディパットはバーディを決めましたが、池田はわずかに外れた。出だしのラインがほんの少しだけ窪みの傾斜にかかっていたアンラッキーもありました。1つ差を詰めた谷原は、続く17番での連続バーディで追いつきました。プレーオフでは“谷原のパッティング力”が光りましたが、正直どちらが勝ってもおかしくなかった。やはり一番のターニングポイントは、谷原の経験値と技術、そしてメンタル面のすべてが集約された16番だったと思いますね(田島)」
■ 稲森の揺れる心理面が垣間見えた15番での“3番ウッドの選択”
 16番で3パットのボギー後、17番でも連続ボギーとし、最終18番を迎える前に優勝争いか脱落してしまった稲森。田島氏は、稲森の16番での攻め方は“15番のティショット時の選択が尾を引いていたのではないか”と推測する。
 「稲森は15番でこの日初めて3番ウッドを持ってティショットを打ちました。最終日の緊張感から、生命線であるフェアウェイキープができていなかったので、確実性を高めるための選択でしたが、結果はラフ。ここで彼の流れがなくなってしまったと思うんです。
 優勝争いで最も重要なことは、自分のゴルフを貫き通せるか。稲森の長所は“ドライバーでの針を刺すようなショット”ですが、2人よりも飛距離がないわけですから、どんな状態であれ、ドライバーを持たなければいけないんです。本人にとって明確な意識はなかったと思いますが、安全策でフェアウェイキープできなかった選択と結果が、16番で“リスクを負ってもピンを狙うか、まずは安全にグリーンに乗せるか”と、深層心理の面で安全を選択する意識を生み出してしまったのではないでしょうか。
 結果論ですが、稲森は15番で流れを変えるためにドライバーを振りぬいて、最良の結果を追い求めるべきでした。“250ヤード先の看板に当てられる”と発言するくらい自信を持っているだけに貫いて欲しかったですね。ですが、正確な判断ができなくなるのが優勝争い。どんなに優勝争いの経験が豊富な選手でも、キャディの側から“選手心理を慮ってドライバーを持たせてくれた”ことで流れが変わることがあります。トーナメントを観戦する方には、優勝争いへ向かう流れを作るのはそれほど難しいことだとわかってもらえればと思います(田島)」
【解説・田島創志/1976年9月25日生まれ。ツアー通算1勝。2000年にプロ転向し、03年『久光製薬KBCオーガスタ』で初日から首位を守り、完全優勝。青木功JGTO(日本ゴルフツアー機構)体制では、トーナメント管理委員会 コースセッティング・アドバイザーを務める。】
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【HEIWA・PGM CHAMPIONSHIP 編】