『続・深夜食堂』の松岡錠司監督にインタビュー

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深夜営業の「めしや」に集う人々の悲喜こもごもを描く人情喜劇「深夜食堂」。2009年にしっぽりと放映がスタートしたが、いまや30話のドラマがテレビ放映され、動画配信サービスNetflixでも新作「深夜食堂-Tokyo Stories-」(全10話)が世界190か国でストリーミング配信中だ。続いて、劇場用映画第2弾『続・深夜食堂』が11月5日(土)より公開される。シリーズを手掛けてきた松岡錠司監督にインタビューし、映画ならではのこだわりや、主演の小林薫の魅力について聞いた。

【写真を見る】「焼肉定食」のゲストは佐藤浩市と河井青葉/[c]2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

原作は安倍夜郎の人気コミック「深夜食堂」。「めしや」を訪れる個性的な客たちを、小林薫演じるマスターが心地良い距離感で迎えていく。その過不足ないさじ加減が絶妙だ。松岡監督は小林を「演じる役柄が感覚的にわかる人」と絶大な信頼を寄せる。「マスターは台詞自体が少ないんです。たまにしゃべるのは『いらっしゃい』『あいよ』『お待ち』くらい。お互いに長年やってきたけど、いまでもものすごく細かいやりとりをします」。

松岡監督と小林は、長年組んできたことであうんの呼吸はできているが、だからこそ小さな妥協も許せないようだ。「解釈がずれる時もあるんです。たとえば深夜食堂を訪れるゲストを迎える時、来る回数によって『いらっしゃい』の言い方が変わるでしょ。まだ相手の事情を察してないように言うのか、察した後『今日もいろいろあったけど、来てくれたよね』と言う意味を込めるのかで違いますよね。薫さんとの丁々発止のやりとりが面白いんです」。

松岡監督と小林は台詞だけでははく、カウンター内での立ち位置についても細かく話し合っていくと言う。「客が座る前にマスターがどこまで客に近づくのかという距離の問題ですね。そのやりとりが面白いです。長くやっているのでお互いによくわかっているんですが、とにかく細かくやる。そこが勝負だなと思っているので」

「たとえばマスターがきゅうりを包丁でコンコンと切っている最中に客が何か気になることをしゃべった時、どれくらいの角度で客を見るのか、見ずに耳だけを傾けるのか、少しだけ見るのかと、そういう話です。そのやりとりで『深夜食堂』が奥深くなると思うので。キャストが映っているのはほとんど上半身だし、みんな定位置にいるわけです。それをどれくらい飽きずに観てもらえるかというのはけっこう難しいんですよ」。

マスターは経歴も年齢も不詳で、色恋沙汰はもちろん、プライベートな時間はほとんど描かれていない。無粋な質問だが、長くシリーズを演出してきてマスター個人の男としての幸せを願ったりはしないのだろうか?「しないと言えば嘘になるけど、原作者が認めないだろうね。あの原作はずっと連載していくのが宿命になっているから、最も謎めいているマスターが徐々におっさんになっていくことは描かない気がする。ある種の格好良さとおとぼけ感が大事で、背景を出さないことがベースなんですよ。映画については原作者が『自由にやっていい』と言ってくれたので、支障がない程度にマスターの日常を少しだけ注入しました。でも、僕が調子にのって謎のままでいいことをつまびらかにするのは良くないと思うんです」。

オープニングの映像については同じアングルで同じロケ地にこだわり毎回撮り直している。「僕自身は、冒頭の大ガードの映像からもちろんこだわっていますよ。でも、それがどこまで届いているのかはわからなかった。それを繰り返しやり続けただけで。ただ、使い回しはありえないんです。ほとんど同じカット割りですが、全部撮り直しています。町並みはみんな少しずつ違うんですよ。今回はゴジラヘッドが見えていますし」。

改めて7年間にわたってシリーズを手掛けてきたことについても聞いてみた。「淡々としたベタな人間ドラマを愚直に作り続けられたのが良かったのかなと。僕が幸せだと思うのは、この年になったからこそできる人情喜劇ができたことです。40代後半からドラマを初めて今年55歳になりますが、自分の年齢にふさわしい題材だったんじゃないかと。それは本当に良かったと思います」。【取材・文/山崎伸子】