「トランプ追い上げ」は本当? 米大統領選、世論調査の正しい読み方

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投票日を8日に控えた米大統領選では、毎日のように世論調査での支持率の増減が報じられ、そのたびに特定の候補が「勢いを得ている」といった話題が沸騰している。だが、私たちは世論調査結果を信頼していいのだろうか?米大統領選の世論調査は、どう理解し、利用するべきなのだろうか?専門家のサム・ワン博士に話を聞いた。

誤差が大きい個別調査、組み合わせれば信頼度増す

物理学者で、2004年からウェブサイト「プリンストン選挙コンソーシアム」で全米の世論調査データを収集し、選挙結果の統計モデルを構築しているワン博士によると、世論調査では国民全員に対する調査は不可能であるため、数パーセントポイントの誤差はどうしても避けられない。

また、各調査機関はそれぞれの判断に基づき、結果に修正を加えている。対象となるグループによって、電話に出る割合や、実際に投票を行う割合に偏りがあるため、正確な結果を出すためには、調査実施側の独自判断と計算が必要とされる。

だが、各世論調査の統計を取れば、本物に近い結果が出せるという。世論調査の統計を取る各組織がまとめたデータを見ると、今年に入ってからの選挙戦ではクリントンがトランプに対し常に一定のリードを保っていることが分かる。次のグラフは、ハフポスト・ポールスターによる統計結果の例だ。


(Credit: Huffington Post Pollster)

ここで重要なのは、各調査結果の「平均値」ではなく、統計対象となる一連の数値を順番に並べ、ちょうど中間にある数値を取った「中央値」を調べることだ。平均値は、少数ながらも極端な数値の影響を受けやすい。

例えば、ミシガン州での世論調査では、クリントンが数ポイントリードしているとの結果がほとんどだが、うち一つだけ、クリントンが20ポイントもの差をつけているとの調査結果が出ている。中央値を取れば、クリントンのリードは数ポイントという結果が得られるが、平均値を取った場合、クリントンのリードが実際よりも大きく解釈されてしまう可能性が高い。

重要なのは全国支持率よりも州ごとの支持率

ワン博士は、全国を対象にした世論調査についても警鐘を鳴らす。これには、米大統領選では実際の獲得票数ではなく、各州に割り当てられた「選挙人」の獲得数で勝者が決まるという理由の他、全国調査はその性質上、結果が大幅に揺れやすいという理由もある。

例えば、ABCとワシントン・ポストの全国世論調査では今月1日、数日前に6ポイントあったクリントンのリードが消滅し、トランプが1ポイントのリードで逆転する結果となり、ソーシャルメディアを騒然とさせた。だが同じ世論調査では6日、クリントンが5ポイントリードという結果が出ている。

ワン博士によれば、約20ある世論調査のうちこうした極端な結果が出る調査が毎日1つは出ており、こうした「はみ出し者」はより大きな注目を集める傾向にある。そのため、注視すべきは全国支持率ではなく、激戦州の支持率だという。「トランプの勝利は、激戦区の数州を制さなければ絶対に不可能だ」(ワン博士)

トランプの「追い上げ」は単なる「平均回帰」?

このところ、各世論調査の集計結果でトランプの支持率が2〜3ポイント上昇したと伝えられている。トランプ支持派はこれを、勝利への「はずみ」を得ている兆候と解釈しているが、ワン博士はこうした見方に注意を促している。

「過去5回の大統領選での世論調査の傾向として、支持層の固定化がある。世論の変動幅は狭い範囲に限定されている。金融などの統計分析ではこうした動きを『平均回帰』と呼んでおり、2008年と12年に続き今年もこれが起きている。物事が一方向に振れ過ぎると、中心に戻る力が働く。クリントンの支持率は落ち込んでいるが、平均回帰の作用が働けば、盛り返すだろう」

ブレクジットの衝撃は「不正確な世論調査」のせいではない

英国で今年6月に行われた欧州連合(EU)脱退の是非をめぐる国民投票では、大勢の予想に反して英国のEU離脱(通称「ブレクジット」)が承認されたことから、米大統領選も同じ結果になるのではないかという疑念が上がっている。だがワン博士は、こうした懸念を払拭する理由を幾つか挙げている。

「ブレクジットのメディア報道を見ると、失態を犯したのは識者らだったことが分かる。コメンテーターらは、EU離脱派が勝利する可能性はないと断言していた。だがデータを見れば、残留派のリードはごくわずかだった。私は当時、両者の差は小さすぎるため結果は予測できず、どちらに転ぶ可能性もあると言っていた。識者が残留派勝利を予測したのは、調査結果のせいではない」

また、ブレクジットは1回きりの出来事だった一方で、米大統領選の世論調査には長年にわたる経験の積み重ねがあるという違いもある。

「大統領選の世論調査は、世界最高水準だ。米国の世論調査機関は常に新しい手法を試している。業界全体での誤差はせいぜい1〜2ポイントだろう」(ワン博士)