いま勢いに乗っているシンガポールは、世界有数のスマートシティでもある。

過去数十年にわたって政府主導で取り組まれてきた技術的アプローチにより、世界的なスマートシティ・イノベーションの前線に立っているのだ。

壮大な「Smart Nation 2025」プロジェクトに続き、シンガポールは、この複雑なスマートシティ戦略に注力するためのエージェンシーを2つ起こした。そのうちの1つが『GovTech(Government powered by Technology)』だ。

チャン・チョン・ホー氏は、GovTechの新しい部門長であり、シンガポール政府の最高情報責任者でもある。

チャン氏は、BarclaysやCitibankといった金融機関に20年勤めており、2年前からはそこで培われた技術や豊かな経験を活かし、シンガポールCIOとしてさまざまな取り組みを指揮している。

彼は、リードライト(以下RW)のインタビューにおいて、彼のSmart Nation戦略のアプローチの概要やガバナンス、技術戦略、そして戦略の実施を担当するGovTechについて語った。

※紙面の制約上および意図を明確にするため、コメントは編集されている。

 

RW:シンガポールは「Smart Nation 2025」プロジェクトを打ち出していますが、これまでの取り組みのなかでスマートシティについて何か発見はありましたか?

チャン:これまで我々は都市の問題を解決するために開発を進めていましたが、いまや新たに道を作ろうにも充分な土地がないことに多くの都市が気づいていました。

電車の路線の数にも、病院の床数にも同じく上限があります。そこで登場するものが、新たな技術とプロジェクトです。Smart Nationプロジェクトとは、技術とデータを効率的に使い、いまある限られたリソースやインフラの利用を最適化することを狙ったものです。

RW:シンガポールのスマートシティ構想で成功した例をあげていただけますか?

チャン:たとえばスマート交通機関の場合、「すでにある公共交通をいかに効率のいいものにできるか」が成功のポイントになります。

我々はすべてのバスのデータを集中的に分析し、『BeeLine Singapore』というアプリを開発しました。データマイニングから、路線を動的に探り当て、そのルートを欲しがるバス会社に提供したのです。

また、市民から我々に対して、路線として採用を検討してほしいルートを推薦してもらうこともできます。これは、コミュニティによる問題解決を促すことにも役に立ちます。さらにOpen APIを使って起業家たちがアプリを作ることも可能です。

RW:Open APIといえば、政府はオープンなデータを使って、どのようにイノベーションをもたらそうとしているのでしょうか?

チャン:皆さんはオープンなデータというものの、これは無料ではありません。質の高いダイナミックな取り組みには、お金がかかるものです。

結局のところ、データが経済的価値を生み出す有用なものであれば、政府は多くの資金をそこに投じることができます。しかし、この条件こそが多くの国で課題を生んでいます。

どの段階からデータに課金を始めるのか、課金されるデータはどのようなタイプのものか、といった具合です。たとえば、最初の7日間は無料でそこから先は有料というモデルは1つのやり方と言えるでしょう。

ですが、そういったモデルはまだ実現しておらず、いろんな国でその評価が進められているところです。

RW:スマートシティを進めるうえで、政府にとって障害となっているものはなんでしょうか?

チャン:スマートシティで多くの国が抱えている最大の課題にして、私自身も常々疑問に思っている点は、「誰もがコンセプトを形にするところまではやるけれど、それをスケールさせる者がいない」というところです。

街を歩いてみれば、いくつものスマートランプやスマートゴミ箱を見かけるでしょう。ただ、そこで話が終わるのです。そのあとはどうでしょうか? スマートゴミ箱がたくさんあろうと、市民の生活はよくなりません。

肝心なのは、市民の生活を向上するためのインパクトある活用法、それを生むためにいかにデータやインフラを使うかということを見つめ直すことです。

RW:では、Smart Nationのようなプロジェクトが人々の、特に恵まれない人たちの生活をよくするのでしょうか?

チャン:このプロジェクトがシンガポールの問題すべてを解決するものではない、という現実を忘れてはいけません。これでガンが治ったりはしません。

技術を使って問題をどう解決するについて、我々はかなり絞り込みます。現在、シンガポールの高齢化は急速に進んでいますが、ならばどうすれば適切なレベルの専門医療を提供できるようになるのでしょうか?

やはり肝心なのは、データそのものとそれをどう動かすか、です。ですがそのほか気づかされた大きな点の1つに、技術だけではなくそれを受ける「人からの理解」も大事だということがあります。

たとえば、老人に治療のためだと言って、毎日2時間ケーブルに繋がれることをどうしたら納得させられるでしょうか?

多くのスマートシティ構想は、技術のため技術的取り組みをおこなっていますが、本来は「人」にもっと目が向けられなければなりません。

RW:ますますハイテク化が進む国のCIOとして、脅威を増すセキュリティ上の問題が、シンガポールの中枢部分に及ぼす影響をどう乗り越えるのでしょう?

チャン:これは常に後手に回らざるをえないため、勝ちようのないゲームみたいなものだと言えます。すべてのことを守ろうとするのはお金がかかりすぎるため、優先順位を付けなければなりません。

システムで重要なものとそうでもないものがあれば、提供するセキュリティのレベルは変わるということです。2日ダウンしても生活に影響がないシステムがあれば、それが大きな痛手となることもあります。

システムを隔離したりシステムに回復力を持たせることは重要になりますが、どれもこれもが同じように扱われるというのは難しいのです。お金もリソースも十分ではありません

RW:シンガポールはますますコネクテッドになっています。IoTに起因するセキュリティの脅威にどう取り組むのですか?

チャン:これは深刻な問題です。しかもIoTデバイスの多くは、まったくセキュリティのなっていないものばかりです。

IoTというとさまざまな勝手なことが言われていますが、セキュリティについていえば非常にシンプルです。取り組みの違いは、「データに機密性があるかないか」によって生まれます。機密性がないデータはどこにでも漏れ出します。

その程度は、どういったデータを扱っているか、そのデータのプライバシーやセキュリティがどれ程のものか、にもよります。

では、プライバシーおよびセキュリティの面で、データがセンシティブになるのはいつかといえば、それはデータが処理されるときです。しかし、処理されるときにそのデータを最初から最後まであらゆるところで保護するのは不可能です。

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RW:シンガポールのCIOとして、複数の部門やエージェンシーとどう向き合っていますか?

チャン:複数のエージェンシーが絡む完全官製プロジェクトに関していえば、たいてい中央集権的におこない、投資も金融庁を通じておこないます。

エージェンシーにプロジェクトの資金を自己で賄わせる場合、そのプロジェクトには5年ほどかかるでしょう。しかし、彼らが自分たちのシステムやデータについて保守的であった場合、どうやって彼らを納得させることができるのでしょうか。

これまでにも、こういった理由でシステム統合を諦めてきたことは多くあります。そこで、システムを統合するのではなく「データを統合する」方向にそのアプローチを変えたのです。

RW:そのデータ統合アプローチが、たとえば14の異なるエージェンシーに市民から寄せられる問題をハンドルする『OneService』のようなアプリにおいて、どのように役立ったのでしょうか?

チャン:今回、中央集権的なソフトウェアとそのフロントエンドを作り、あらゆるものがAPIを通してやり取りされるようにしました。

これは、エージェンシー側のシステムに干渉することもありません。そもそも、14ものエージェンシーとそういうやり取りをすることは不可能です。これがシステムではなくデータ的な統合をおこなうということです。

このコンセプトは、私が銀行から持ち込んだものです。これをたった9ヶ月のうちに作り上げたことに、周りはショックを受けたようです。というのも、これまで同じようなことをするのに5年ほどかかっていたのですから。

RW:他国の政府のスマートシティの取り組みについて、アドバイスはありますか?

チャン:「自分たちのシステムと他のシステム」の境目を考えなくて済むという意味で、このアーキテクチャの考え方は助けになると思います。

我々がAPIエコノミーに強気で移行しているのは、これが理由です。気にすることといえば、アプリを作るためのAPIが足りてるかということくらいです。あらゆるAPIを集める政府のAPIゲートウェイが、用意されているのはこのためです。

これによりフロントエンドやユーザセントリックなアプリを作ることができ、ニーズの変動にもすばやい対応が可能になります。

そして、こういったシステムは処理上のルールが非常に少なくなることから、簡単に入れ替えることができるのです。これはシステム移行についても同様です。

もしもレガシーシステム(時代遅れのシステム)に固執するのであれば、システムはフランケン・シュタインのようにツギハギだらけで不完全なものになることでしょう。

RW:ありがとうございました。

DONAL POWER
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