夫婦に扮した織田裕二と吉田羊

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 「ボクの妻と結婚してください。」。このタイトルに織田裕二は驚き、違和感を抱く。だが、脚本を読み進めるにつれて「まさにドンピシャ。こういう作品に出合いたかった」と一気に魅了された。余命宣告を受けた放送作家が、愛する妻のために立てた最期の企画。共に歩んだ吉田羊も結婚願望が増したというほどの、夫婦像の新たな形とは?

 売れっ子の放送作家・三村修治は突然、末期のすい臓がんで余命半年と告げられる。残された時間で何ができるか?思い至ったのは、妻の再婚相手を探すこと。タイトルの字面だけを追えば必然的に「おや?」と思うはず。織田も当然、疑念を抱いたが脚本を読んで一気に解消されたという。

 「軽くクスクスしながらも、えっ?ていうスイッチが入るところがいっぱいあったんです。全然おかしい話じゃないのに、よくよく考えたらちょいちょいおかしいな、どこかユーモラスだなって。あっ、これは生きる話だからエネルギーやパワーをもらえるんだって、ものすごく心を揺さぶられました」

 その妻・彩子は、吉田が「よくできた人ですよね」と感心する、良妻賢母を絵に描いたような奥さんだ。

 「料理もうまくて子どもの面倒を見て、なおかつ勉強を教えられるくらい頭良くて、旦那さんのことも理解している。私だったらこういうふうには生きられないとおもいますけれど、自分とかけ離れているからこそ役に没頭できる部分もありました」

 しかし、現実的に妻子ある身として修治の判断、行動は理解の範ちゅうなのだろうか。これは修治の仕事におけるモットー「世の中の出来事を楽しいに変換する」が後押しした。

 「自分に置き換えてという考え方よりも、修治が考えていることに拒否反応がなかった。夢をかなえられた人はこんなに幸せになるんだということを、仕事で何度も見ている。しかも、それを自分で考えている。そういう訓練を積んでいる男だからこその突拍子もない思考なので。妻だから変な男はチョイスしないと思うけれど、その男だけはやめてくれというのを自分で排除できるんですよ。絶対にないとは言い切れなくないですか?けっこうメリットもあるんじゃないかって」

 吉田の選択肢にはないようだが、彩子を演じたことで考えに微妙な変化ももたらされた。結婚願望も強まったそうだ。

 「人を愛するということをちゃんと理解できていたのかと、あらためて考えるきっかになりました。この役をやって、特に結婚したいなと思いましたね。こんなに素敵な方と出会えたらって」

 吉田の大いなる愛を受け止め、修治として夫婦の人生を全うした織田も感慨ひとしおのようだ。その笑顔は、俳優デビュー30周年の節目を前に新たな代表作を生み出した充足感に満ちていた。

 「30年近くやってきてこんなに真っ白になれるんだと思ったし、本当に生まれ変わったような気分になった。デトックスということではないけれど、撮影が進むにしたがってついていたすべて汚れやアカがやればやるほど取れていくんですね。この作品に出合えたと思った感覚は間違いじゃなかったですね」