「瀬尾製作所 HP」より

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 どのような世界でも、売れないことの言い訳は尽きない。

 たとえば、ビジネスの世界においては、「景気が悪いから」「客が買ってくれないから」「ブランド力がないから」「中小企業だから」「特にこの地域は調子が悪いから」などである。

 とりわけ、近年においては「地方は疲弊している」との声がよく聞こえてくる。こうした風潮を受け、地方創生なるものが高らかに掲げられ、担当大臣まで設置されている。もちろん、地方が元気になる重要性に異議はないものの、実際に行われているプレミアム商品券などの施策を見ると、単なる与党の票稼ぎといわれても仕方ないのではないだろうか。

 また、不振にあえぐ中小企業のなかには、「大手企業が仕事を回してくれないから」といった言い訳をするところもある。確かに、長きにわたり、お互い助け合いながら日本の経済成長を支えてきたのかもしれないが、規模は小さくとも独立した一企業である限り、「○○が××してくれない」という言い訳は、経営者としてあまりにも情けない発言ではないだろうか。

 一般に、厳しい立場に置かれているといわれることが多い地方部に所在する中小企業においても、大いに儲かっている、もしくは少なくとも自分たちの力でそうなろうと努力している企業は数多く存在している(『東京飛ばしの地方創生:事例で読み解くグローバル戦略』<山崎朗・久保隆行/時事通信社>参照)。

 地方創生の重要なポイントのひとつには、こうした企業を徹底的に絞り込み、手厚い支援を行い、成長を促し、雇用を促進していくことが挙げられるだろう。

 今回は、富山県高岡市に所在する瀬尾製作所の事例を踏まえ、地方の中小企業における経営戦略およびマーケティングに関して検討していく。
 
●瀬尾製作所とは?

 高岡市は、高岡銅器に代表されるように古くから金属加工が盛んな土地である。こうした高岡市に1935年に設立された金属加工メーカーが瀬尾製作所である。現在、従業員数は20名。長年にわたり銅器の部材、茶道具、仏具、建材などを扱ってきた。主として部品製造、もしくはOEM(相手先ブランド名での製造)を行うビジネスを続けてきた。

 しかし、瀬尾製作所を取り巻く環境に注目すると、人口減少やライフスタイルの変化の影響を受け、茶道具や仏具などの国内市場は縮小し、しかも品質は劣るものの類似する部品や商品が、アジアを中心とする海外メーカーから輸入され始めた。その結果、顧客となるメーカーから厳しい価格要求を突きつけられるような状況になった。こうしたなかで2008年、次期社長となる瀬尾良輔氏(当時28歳)が東京での会社勤めを終え、家業を継ぎ、新たな取り組みに着手し始めた。

●雨どいの海外販売

 雨どいは奈良時代にはすでに設置されており、以後、長きにわたり日本各地で使用されてきた。瀬尾製作所では、大手ハウスメーカーを中心に雨どいのOEM供給を行ってきたが、住宅様式の変化に伴い、大手メーカーの住宅モデルから雨どいは外されるようになり、売り上げは低下した。

 ところが、事態を一転させる出来事が起きた。オーストラリアから雨どいに関する問い合わせが入ったのだ。当時、自社ホームページにおいて英語の記述等は一切なかったものの、写真を見て英語で問い合わせてきた。このとき良輔氏は、海外市場に商機があるのではないかと考え始め英語のページをつくり、海外市場を意識したデザインの商品を開発、2010年頃より本格的に海外市場への販売をスタートさせた。

 すると、おもいもよらないようなところから注文が殺到した。台湾の建築家が、日本統治時代の建物をリノベーションするために購入したり、日本風の住宅が流行している韓国で、雨どいも併せて買われたりしている。

 また、アメリカでは進駐軍が雨どいを持ち帰り、その後、徐々に広まり、現在では日本の10〜20倍程度の市場規模になっている。アメリカ市場ではインド産などの安価な雨どいが数多く流通しているが、こだわりを持つユーザーから日本への注文は少なくないようである。

 日本と海外市場の相違に注目すると、国内からは工務店をはじめプロユーザーからの注文が8割、一般消費者からは2割であるのに対して、DIY(自分でモノをつくること)が盛んな欧米からの注文は一般消費者の割合が日本よりもかなり高い。海外市場における消費者の商品へのニーズに関しては、装飾を凝らした「いかにも日本的」といった感じのデザインよりも、国内市場同様、シンプルなデザインの商品に人気が集まっている。

 今では瀬尾製作所の雨どいは、17%を海外で稼ぎ、全社売り上げの3割を占めるまでに成長してきている。雨どいの海外市場への販売は、「新規の市場×既存の製品」の市場開拓ととらえられるだろう。

●雨どいの海外販売における課題

 それでは、好調に推移している雨どいの海外販売における課題とは、どのようなものであろうか。

 まずは流通の問題が挙げられる。商品がニッチであるため、リアルでの流通経路の構築が難しく、現在は主として自社HPで販売している。喫緊の課題は、自社HPの検索サイトでのランキングを上位にあげることである。

 また、アマゾンや楽天市場などのサイトで販売することも選択肢としては考えられるが、手数料が発生するという問題に加え、価格のみで他社の製品と比較される場合が多いため、こうしたサイトにおいて、海外からの製品に勝つことは難しいかもしれない。そのため、単に商品を掲載するだけではなく、高い理由をしっかりと顧客に理解してもらえる取り組みが重要となる。

 その一方で、他社製品を含めた顧客ニーズの収集など、マーケティングリサーチ的な意味合いを含めて、アマゾンなどで販売してみるのは面白い取り組みかもしれないと前向きにとらえている面もうかがえた。

 また、商品のPRに関しては、商品の特性や企業規模からしても、マス・メディアを活用した広告を展開することは得策ではない。よって、展示会への出展に積極的に取り組んでいる。展示会への出店の効果は大きく、流通業者や工務店へのPR はもちろんのこと、建築士への影響も大きく、高い関心を得て設計図などにスペックインされるケースが目立っている。近年では、大手ハウスメーカーの設計が多様化してきており、高級モデルの住宅に採用するなど、問い合わせも多くなってきている。

 こうした状況を踏まえ、将来は海外の展示会にも出展していきたい意向はあるものの、1回の出展だけでは単なる打ち上げ花火に終わってしまい、大きな効果が期待できない。そこで2回、3回と継続的に出展していきたいものの、たとえば1回の出展に300万円かかるとすると、3回で約1000万円と、中小企業が取り組む宣伝広告費としては負担が大きいことも事実だ。

 こうしたことを考慮すると、まずインターネット販売で安定した売り上げを確保し、その後、海外を含めた展示会への出展、さらにはリアル流通網の整備などといったイメージが描かれている。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)