言葉ひとつで市場を開拓、チャンスを生み出す「下克上タグ」

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ダジャレで新しいアイデアを発想する「ダジャレノベーション」、アイデアを生む魔法の言葉「マジックワード」など、本連載では言葉の掛け合わせが大胆なアイデアの起爆剤になることを紹介してきた。今回はその掛け合わせのちょっとしたテクニックで、市場を勝ち取れる考え方を提案する。
「鬼嫁コンサルタント」という職業を、聞いたことがあるでしょうか?

いま、面白い肩書を自ら名乗る人が多く脚光を浴びています。「映画ソムリエ」という職業を自ら創り、従来の映画批評家とは異なる存在としてSNSで発信を続ける方。「ワークライフスタイリスト」と名乗って日本中で講演に引っ張りだこになった方。一瞬メジャーな職業にも聞こえてくるけれど、斬新で気になる存在です。

もうひとつご紹介したい事例があります。

SNSの中でも特に、ビジュアルコミュニケーションを活発化させたInstagram。そのInstagramで、毎週恒例行事のように同じタイミングで同じハッシュタグを投稿する人が集中する、不思議な盛り上がりがあります。

「#weddingtbt」というハッシュタグです。Tbtとは「Throw Back Thursday」の略で、「木曜日に思い出を振り返ろう!」という意味の言葉。毎週木曜日「#weddingtbt」では自分の結婚式の様子や前撮りの写真などweddingにまつわる写真が投稿されています。

「#wedding」のハッシュタグだけでは該当するものが多すぎて埋もれてしまうけれど、tbtという初めて耳にする言葉が掛け合わさることで、知っている人だけが楽しめる、遊べるワードになれたと考えられます。

この2つの事例に共通するのは、「知っている言葉×知らない言葉」として唯一の存在になることに成功している点です。流行る言葉には、この法則があてはまるものが数多くあります。

聞いたことがある気がするけど、初めて聞く言葉。誰もが知っている言葉に括られながらも、掛け合わせる言葉の意外性によって「知る人ぞ知る」言葉が、今ファンを多く抱え、愛されているのです。

先ほどの「ハッシュタグ」という言葉をご存じの方は多いと思いますが、「タグ」というのは、肩書やジャンル、カテゴリーと同義の言葉です。

音楽の世界では今、熱狂を生んでいるタグのひとつに「ゴルジェ」というタグがあります。

インドやネパールの山岳地帯のクラブシーンで生まれた音楽という触れ込みで、秘境の音楽が発見されたかのように売り出したところ大盛況を博しました。しかし、なんとこの「ゴルジェ」、日本人数名がストーリーから何から秘かに創り上げたタグだったのです。

面白いのは、全てがフィクションであることがわかってからも、人々は面白がって、自分たちでゴルジェの原則にならってゴルジェの音楽を創り始めたことです。

なぜか?

「ゴルジェ」が、作り手自ら創り出したタグであるということが人々をより一層惹きつけたのです。かつ、ただタグを創り出しただけでなく、まるで本当の伝統ある音楽ジャンルであるかのようにストーリーの作り込みが巧みだったというのも熱狂の理由です。

ゴルジェをひとりで創り続けてきたというインド人DJの存在もフィクション。ゴルジェを生み出す上で影響を受けた音楽もフィクション、今ゴルジェに心酔している世界各地の人々の存在もフィクション、ゴルジェ音楽の4原則もフィクション。でも、そのフィクション全ての完成度の高さが、生まれたてのタグの正統性を担保しました。

「既存の大きなタグにカテゴライズされて埋もれるより、新たなタグを創り出してそのタグの中で第一人者になる方が早い!」と考えた人が今、実際に世界を面白くしています。

オンリーワンのタグを個々に追求していった結果、何が起きたか。考えてみれば当然ですが、タグの細分化がものすごいスピードで進んでいます。

美容誌には毎月、たくさんのメイクトレンドが言及されますが、その名前の細分化は圧巻です。「血色メイク」「おフェロメイク」「血にじみメイク」「火照りメイク」…ほぼ同じ色、質感のメイクでも、由来やルールが異なるだけでタグが様々。

また、「イガリメイク」「クボメイク」「河北メイク」など、トレンドのメイク手法にメーキャップアーティストの名字がつけられる流れも出てきました。

自分で創ったものが何にタグづけされるのか、正確に括れる大きなタグがなければ創ってしまえ!とニッチな世界を狙って開拓していく傾向が進み、細分化された世の中ができているのです。

この状況を加速させている背景は、私は「検索」ではないかと考えています。タグの種類が豊富であれば、それだけ流入経路を数多く持つことになり検索にひっかかりやすい。細分化の結果ひとつひとつの流入経路は細くても、そこに熱狂的なファンがついてくることも多くなっています。

大きな流れに埋もれるのではなく、気になるタグを創り、第一人者として新たな場を開拓する。

メディアでなくても、有名人でなくても、普通の一個人が「タグ」という「ひとこと」を考え出すことで自分の才能に光を当てられます。

自分の創ったものがまだ世の中に埋もれていたとしても、巧みなタグを創り出せば、世界中の人が目を留めてくれる今。

個人の才能が100%開花される世界を創るために、『「下剋上タグ」を自ら創り出す』という考え方を贈りたいと考えています。

電通総研Bチーム◎電通内でひっそりと活動を始めていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー40人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。現在50のプロジェクトを支援している。平均年齢約35歳。

山田 茜◎電通総研Bチーム所属。「ビューティ」担当。電通入社以来、一貫して「女子」を追求する仕事が中心。自身のweddingをきっかけに、秘密のInstagramを創り、ウケるビジュアルコミュニケーションをこっそり実験中。