出版社の社長をやっている友人が半年に一度のペースで家族と仕事仲間を引き連れ、韓国から日本にやって来る。彼女たちをどうもてなすか悩んだ時期があった。資料写真。

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出版社の社長をやっている友人が半年に一度のペースで家族と仕事仲間を引き連れ、韓国から日本にやって来る。彼女たちをどうもてなすか悩んだ時期があった。

いわゆる居酒屋にラーメン屋、割烹料理のお店。日本を味わえる店に連れて行ったものの評価は芳しくなかった。そもそも彼女のオフィスのあるソウル西部の弘大入口の周辺は日食(韓国語で日本料理の意味)の店やラーメン店(かつて韓国の食堂で出てくるラーメンは総じて辛ラーメンのようなインスタントラーメンで、日本のような生めんを食べさせる専門店はほとんどなかった)が最近数多く出店するエリア。当然彼女も、多くの日本食を口にしているはずだ。

悩みぬいた末に連れて行ったのが、名古屋系の某居酒屋チェーン店。「これは美味しい!」と彼女は親指を立てた。以来、彼女と彼女の仕事仲間たちもすっかりこの店がお気に入りで日本に来るたびに「山ちゃんに連れていけ!」とリクエストが来る。だが正直、名古屋系の料理は総じて味が濃く、健康診断の結果が気になる年齢を迎えた私は食傷気味であったりもする。

韓国語で美味しいことをマシッタ(直訳すると『味がある』)といい、美味しくないことを マソプタ(直訳すると『味がない』) という。味の濃さ、あるなしが民族的な美味しさの基準なのかと手羽先を頬張る彼女たちを見ながら推理している。

北の人たちは対照的に淡白なようだ。以前別のコラムでも書いたが、かつて訪日経験のある朝鮮人の案内員(50代男性)に、日本に来たら食べたいものを聞いたら、そばと答えた。この話をあちこちでしたところ、現在平壌にいる訪日経験のある複数の朝鮮人が「そばを食べたい」「日本に来た時に食べたそばの味を忘れられない」と、今も十数年前のそばの味について懐かしそうに話すという。

また、数カ月から半年近く出張などで平壌に駐在する在日朝鮮人の方からはこんな話を聞いた。日本食が懐かしくなると、ホテルの商店で日本のだしつゆを買い、麺を買ってうどん状のものを作り食べるという。その気持ちは私もよくわかる。韓国留学中恋しくなったのは、日本の缶コーヒーとだしつゆの味だったから。

日朝交渉が日本で開催されることがあったら、そばの名店に朝鮮側の外交団を連れて行くことを提案したい。そばを食べながら「交渉もそばのように末永くやりましょう」というベタベタの笑いを絡めてみれば、意外とうまくいくと書くのは楽観論が過ぎるだろうか。日本担当の案内員は年齢故か性格故か交流の分断故か、なぜかベタベタのオヤジギャグを多用する傾向が強い。

■筆者プロフィール:北岡裕
76年生まれ。東京在住。過去5回の訪朝経験を持つ。主な著作に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」。コラムを多数執筆しており、朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」では異例の日本人の連載で話題を呼ぶ。講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。