『ぼくのおじさん』 (C)1972 北杜夫/新潮社  (C)2016「ぼくのおじさん」製作委員会

写真拡大

『ぼくのおじさん』

兄夫婦の家に居候する哲学者と小学生の甥の日常、そして思わぬ冒険がユーモラスに展開する『ぼくのおじさん』。大学で講師をしながらも、毎日ぐうたら過ごしている叔父と小学生の甥・雪男を描いた北杜夫の同名小説の映画化だ。

子役は海も松田龍平はハワイで万年床!

絶品なのが松田龍平演じる“おじさん”と、10歳の大西利空が演じる小学4年生の雪男のコンビだ。雪男は作文コンクールのテーマ「自分のまわりにいる大人」の対象に叔父を選んで書き始める。少年の視点から見た“おじさん”はお小遣いもくれないし、インテリのはずなのに勉強も教えてくれない。屁理屈をこねてマンガ雑誌を横取りしようとしたり、宮藤官九郎と寺島しのぶが演じる兄夫婦からのお説教を逃れるための古書店めぐりに同伴させたり、マイペースだが憎めない叔父をしっかり者の小学生がちょっとあきれ顔で、だが無意識のうちに慕っている様子が微笑ましい。

原作が執筆されたのは60年代で、登場人物の口調は現代では古臭く感じられるが、映画では敢えてそのまま残してある。微妙なニュアンスが死語ではなく、生きた台詞として笑いを誘うのは、山下敦弘監督の演出とキャストたちの演技力の賜物だ。

原作でも叔父と甥のコンビはハワイ旅行を目指すが、映画ではその目的がオリジナルの展開になっている。ひょんなことから知り合ったハワイの日系4世のエリーに一目惚れした“おじさん”は彼女が祖母の後を継いでコーヒー農園を営むハワイまで追いかけていく。ハワイ旅行実現までの行程も、その後の珍道中も脱力系のおじさんと如才ない雪男らしいエピソードで、原作ものに新たに付け加えた違和感はない。真木よう子演じるエリー、彼女の元婚約者で東京の老舗和菓子店の若社長(戸次重幸)が加わり、4人の物語になってからは“おじさん”の寅さん的なキャラクターが強調される。

誰もが楽しく心地よく見られる内容であり、そっと日系アメリカ人の歴史にも触れているのが良い。山下監督は9月に『オーバー・フェンス』が公開されたばかりだが、2作の内容は大きく違うようでいて、あらゆる個性に対する愛情が共通している。