「トランプランド」NYプレミアの模様 Photo by Jemal Countess/Getty Images

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 2週間前、突然、マイケル・ムーアが新作映画を発表した。10月18日の夜、ニューヨークのIFCセンターで「Michael Moore in Trumpland(原題)」のプレミア上映を行ったのだ。

 それまでのムーアの最新作は、彼がヨーロッパの各国をロケして回った「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」というドキュメンタリーで、日本でも今年の5月に公開されたばかり。この「Michael Moore in Trumpland」(以下「トランプランド」)という新作については、製作されている事実を誰もが知らなかった。まさにゲリラのように電撃的に発表されたのである。

 この映画は、10月6日と7日の2晩、オハイオ州で行われた、ムーア本人のワンマントークショーの模様を収録したもの。ムーアはこのショーの模様を撮影し、たったの10日あまりで映画作品として仕上げたのである。本作はニューヨークやロサンゼルスの映画館で上映されているほか、ヨーロッパの主要な国でテレビ放映された。

 ムーアのトークショーは、オハイオ州のクリントン郡で行われた。ちなみに、当地で実施された今年の3月の予備選挙で、ヒラリー・クリントンはドナルド・トランプの4分の1の票しか獲得できていない。クリントン郡におけるクリントン人気はとても低いのだ。ムーアのショーの目的は、ヒラリーへの投票を促すこと。「オハイオを制するものが、全米を制する」と言われる土地柄で、トランプが勝利することを阻止するために、ムーアが一肌脱いだというわけだ。

 ショーは、舞台上でムーアがひとりで語る、TEDのようなスタイル。観客席にはヒラリー支持者もトランプ支持者も、そしてまだどちらか決めてない人たちもいる。冒頭でムーアは、2階席に集められたメキシコ系のグループに、レンガ模様がパネルに描かれた「壁」を掲げさせたり、イスラム教徒のグループの頭上で監視用のドローンを飛ばしたりして場内の笑いを誘う。自らは、若い頃のヒラリーの写真をバックに、冗談を連発しながら熱のこもったトークを繰り広げ、ヒラリーに投票するよう訴える。

 しかし、アメリカのマスコミの「トランプランド」評はなかなか微妙だ。ロサンゼルス・タイムズは「とりとめがない」が「少しだけ面白い」と評し、RogerEbert.comは「とても品がない」と辛辣だ。

 また、東京在住の映画ジャーナリスト、ダニエル・ナイトン氏は本作を鑑賞して「私はいま、ヒラリーに投票しようか、第3の候補者に投票しようか迷っていますが、そんな自分にとって、マイケル・ムーアのスピーチは納得できるものではありません」と語る。「冗談はあまり面白くなく、時にムーアらしくありません。例えば彼は、女性に殺された人は天国に行けないとするイスラム教の組織であるISISに関するジョークを言いますが、『ボウリング・フォー・コロンバイン』での平和を訴えるメッセージと矛盾しています。この作品は、世界を暴君の支配から防ぐための気高い試みかも知れませんが、とにかく映画作品としてのクオリティーに達していません」

 世界中にさまざまな話題を振りまいてきたアメリカ大統領選も、いよいよクライマックス。果たして、マイケル・ムーアの主張は全米の有権者に響いただろうか? 投票日は11月8日(現地時間)。もちろん、選挙そのものの結果も気になるが、今回はオハイオ州の結果に注目だ。