ドナルド・トランプの巧みな「共感力」にだまされる支持者

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11月8日の米大統領選が数日後に迫る中、ワシントン・ポスト紙は次の問いから始まる記事を掲載した。「今回の選挙に欠けているものは何か?」

同紙が出した答えは、「トランプ支持者への共感」だった。

この答えは、多くの人にとって予想外だっただろう。コメント欄では、記事に対する批判的な意見が目立った。

個人的に、この記事にはある意味で同意できる。今回の選挙には確かに「共感の格差」が存在する。だがそれは、記事が指摘しているものとは違う。

ポスト紙の記事は、米中西部ルイジアナ州の保守層に対する「密着調査」を5年間にわたり行ったカリフォルニア大学バークレー校のアーリー・ラッセル・ホックシールド教授(社会学)へのインタビューに基づいている。

ホックシールドは、現地で自分とは「全く違う人種」である人々の暮らしぶりを学んだ経験を本にまとめた。いわば、「アメリカのど田舎冒険記inルイジアナ」といったところだ。

彼女の「発見」は、こうした人々も同じ人間だということだった。感情を持ち、他人に親切で、部外者を歓迎し、話を聞いてあげると喜び、相手の話を親身に聞くことだってできる。

これは、保守的な友人や家族・親戚がいる進歩的な人々にとって、何ら驚くべきことではない。進歩的な人の多くは、保守層の中で生まれ育ってきたのだ。

だがポスト紙のインタビューでホックシールドは、米国の「共感格差」を生み出した責任は、自分と正反対の人々の感情を理解しようとしない「進歩派」にあると非難している。

これは言い過ぎだろう。進歩派はこれまで、トランプ支持者の心理を説明する記事に多大なる関心を向けてきた。ポスト紙も先月、ペンシルベニア州在住の熱心な女性トランプ支持者を紹介する記事を掲載している。

この女性はトランプが「自分と同じ考え方を持つ人」だと語っているが、この言葉は、今回の選挙で「共感」がいかに作用しているかを示す典型となっている。これまでの選挙戦では、進歩派のみならず多くの保守派がトランプを拒絶し、共和党の分裂につながった。実は、共感力の格差が生まれている場所は、保守派と進歩派の間ではなく、トランプと彼の支持者の間なのだ。

ポスト紙の記事には、共感にも種類があるという認識が足りない。共感とは一枚岩の概念ではなく、さまざまな形や目的を持つものだ。

そのうちの一つに「認識的共感」がある。これは、他人の声の変化や表情などから感情を的確に理解する能力、つまり相手の立場に立って物事を考える力だ。

この能力だけをもってしては、その人が完全な共感力を持っているとは言えない。この才能を悪用して、相手の感情につけ込み、自分の目的達成に利用する人もいる。トランプがテレビ司会者のビリー・ブッシュに対し女性蔑視的な自慢話を披露する場面を捉えた問題映像は、トランプが周囲の人々の感情をいかに読み取り、操っているかを示す多数の事例の一つだ。

支持者らの感情を察し操る能力について、トランプの右に出る者はいない。彼は信奉者の感情を直感的に読み取り搾取することによって、成功を収めている。彼はまた、支持者の心情を理解しているがゆえ、各界から巻き上がる怒りの声に無頓着なままでいられる。支持者らにとって、トランプへの攻撃は自らへの攻撃なのだ。

こうした方法で引き付けられた人々の忠誠心は、たとえトランプのうそが証明されようとも、犯罪行為の疑いが出ようとも、揺るぐことはない。むしろ、両者の絆が深まるだけだ。

もう一つの共感の種類として、「感情的共感」がある。これは単に相手の感情を察知するだけではなく、相手に同情したり同じ感情を共有したりする能力だ。認識的共感に長けている人の中には、感情的共感に欠く人もいる。

トランプは、まるで巨大な鏡のように支持者らの感情を反射するが、それを実際に共有することはない。自分の欠点、そして支持者らの怒り、パラノイア、恐怖の両方を「投影」する能力、つまり他者に転嫁する能力に非常に長けている。

これに対し、熱烈な支持者らは、トランプの頭の中を正確に読み取り解釈する能力に欠けている。感情的共感を切望するあまり、認識的共感にすがりついているのかもしれない。ペンシルベニア州の女性は、トランプが「自分と同じ考え方」を持っていると信じていたが、それは間違いだ。

一方、認識的共感力に長け、トランプの魂胆を読み取ることができる人や、感情的共感力を持ち、トランプが侮辱してきた人々に同情できる人は、だまされることはない。

今年の選挙で、「共感の格差」は確かに存在する。だがそれは、進歩派が保守派を理解しないからではなく、トランプ自身の支持者らが彼を理解していないことで生まれている格差なのだ。