「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」(テレビ東京系、毎週金曜深夜0:52〜)第3話は、神楽坂が舞台だった。

「火花」がよかったから、吉祥寺に


都子(安藤なつ)と富子(大島美幸)が営む重田不動産にやってきたのは、物書きを目指す三木(忍成修吾)。3話目にして初の男子。
じつは、マキヒロチによる原作マンガには、少なくとも既刊3巻までなぜか男子の客は登場しない。今回ドラマ版ではちょっとアレンジが入った形だ。
冒頭、例によって重田姉妹の容貌に驚く三木に、ぽろっと姉妹のいきさつが語られる。「両親が急に逝っちゃってね、それで私たちが引き継いだんだ」と。第1話からひそかに映っていた、店内に飾られた両親の遺影(平田敦子&天龍源一郎)が初めてしっかりクローズアップされた。
三木が吉祥寺に引越しを検討した理由は「『火花』がよかったから、なんとなく」。

富子が「あれ書いたの誰だっけ? ほら、芸人の。頭ボサボサの。マタキチだ」と言い、都子が「またよし」と訂正するやりとりに、ひそかに又吉とメールのやりとりを行っている勲男が反応。これは又吉ゾーンがドラマ本編に絡んでくる予兆? と思いきや、とくにそういう展開はなかった。このまま最後まで又吉は重田姉妹と交わらないのだろうか……。ちなみに、忍成はNetflixのドラマ「火花」にも出演している。


ここにも行ってほしいのに!


さて、重田姉妹は物書き志望の三木を、文学の香り漂う神楽坂に連れてくる。古民家で食事ができる「カド」、坂の途中の「五十番」、複合施設「la kagu」に、いま注目の校閲会社がつくった書店「かもめブックス」‥‥。「五十番」や「かもめブックス」で実際の店主と話すシーンは、3人のやりとりが生っぽくていい。このドラマの大きな魅力だ。
この街歩き、過去2話と同じく、じゅうぶんに楽しい。が。個人的な話で恐縮だが、私は神楽坂に5年ほど住んでいたことがある。せっかく行くなら、「カド」は土間で立ち呑みができるから3人に一杯ひっかけてほしいし、「かもめブックス」まで行ったならすぐ近くの「りゅうほう」でチャーハンを食べてほしい。三木が入ることになる「熱海湯」のある道はイタリアンや焼き鳥など名店揃いなのでそこも触れてほしい……。と、知っている街だけに欲が出てくる。
思えば、これこそ「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」という作品の魅力なのかもしれない。吉祥寺は確かにデパートも公園もあるし、便利だし、おいしい店もたくさんある。でも私が知っているこの街にもおいしいご飯があって、面白い場所がある。重田姉妹がそれぞれの街に住む人たちにかわって教えてくれるのだ。毎回、テーマになった街に住む人たちは「ここにも行ってほしいのに!」と悔しさと誇らしさの入り混じった気持ちで観ているに違いない。

又吉ゾーンの逡巡、相変わらずの冴え


今回ひとつだけ気になったのは、紹介された物件の壁の色。三木は部屋を見て「この壁、好きな色だ」と物件を気に入るのだが、その壁がものすごく普通の、どこにでもあるアイボリーなのだ。部屋探しと脚本とのタイミングが難しいのだろうことは想像できるけれど、登場人物たちが部屋を気にいる理由が、もっとその部屋に即したものになるといいのになあ、と思う。
又吉ゾーンは本編との連動を意識してか、ちょっとだけ『火花』の主人公を彷彿とさせる内容だった。「その先輩からもらったものは、いまだに僕にとっては宝物で、むちゃくちゃ東京で、だからいまだに捨てられへん」。この一文だけでもう切ない。

(釣木文恵)