ハナ・ユシッチ監督とミア・ペトリチェビッチ

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 クロアチアの観光地、ダルマチア地方に住む女性マリヤナは、強権的な父、無責任な母、障害を持った兄と暮らしている。窮屈な日々に嫌気がさしているマリヤナだったが、父が病に倒れ、否応もなく家族の中心となる。これが長編監督第1作となるハナ・ユシッチが選択肢の少ないヒロインの人生をシニカルなユーモアを潜ませつつ、細やかに描き出す。主演に抜擢されたミア・ペトリチェビッチは、演技初体験ながら存在感を発揮している。

――作品はどのような経緯で生まれましたか。

 ハナ・ユシッチ監督(以下、ユシッチ監督):2013年から脚本を書き始めました。その後ワークショップに参加して2015年に脚本が完成し、クロアチアの映画協会に採用されました。

――ストーリーの発想はどこから生まれましたか?

 ユシッチ監督:私はダルマチア地方出身で、自分が住んだ街を映像に焼きつけたかったのです。ヒロインのキャラクターは、好きな映画や本の影響を込めて作り上げました。私は家族の絆はとても重要なものだと思っています。私が生まれた街、近所の環境を一緒にしてひとつの映画にしたいと考えたのです。

――このキャラクター自身は監督の見聞きしたことの集合体なのですね?

 ユシッチ監督:過酷な環境のもとで、追いつめられても強く生きる女性を描きたいと思いました。彼女の個性的な家族については、マリヤナを際立たせるために生み出した役ではありません。ユーモアもあり、ちょっとグロテスクな部分がある。それぞれのキャラクターに愛着があります。マリヤナに関しては落ち込むようなところもありながら、変なユーモアもある性格にしました。

――ヒロインは受け身なキャラクターですね。

 ユシッチ監督:受け身というよりも、彼女には選択肢がないのです。自分が生きていくスペースを必死で探している。男性と関係を持つということも、家族が関わらない“居場所”を作りたくてした行動です。最後にバスに乗ることも、今まで行動できなかったことに足を踏み出した点で、それまでの自分を超えたといえます。マリヤナが大人になる大事なステップのひとつでした。

――マリヤナは結局あの街に留まります。この結末は生まれ育った街に対する監督の愛着なのですか?

 ユシッチ監督:原題は「私のお皿を見ないで」というのですが、クロアチア、特にダルマチア地方の住人は、他人を観察し悪気なく互いのことを詮索するのです。近所の誰が何をしたか、すぐに分かる状況です。だからヒロインはこのような場所に執着はありません。ただ自分の家族のいるところという意味でこだわりがあるのです。

――これが監督第1作ということですが、演出や制作のうえで苦労はありましたか?

 ユシッチ監督:経済的には問題なく、クロアチアでもデンマークでも助成金の申請が通りました。ただ、私はプロの仕事にあまり慣れていなかったので、自分の居場所を見失いそうでした。ジョン・カサベテスを目標に撮り終えました。

――ペトリチェビッチさんは、ヒロインを演じてどんな感想を持たれましたか?

 ミア・ペトリチェビッチ(以下、ペトリチェビッチ):私は感情移入しやすい性質です。撮影が始まってまもなく自分の中でマリヤナが芽生え、彼女になっていきました。ひと言でいうと、マリヤナは寂しいヒロインなのです。

――監督はペトリチェビッチさんをどういう経緯で見つけられたのですか?

 ユシッチ監督:女優が決まらないまま、バカンスを過ごしていた島で彼女を見かけました。イメージ通りの人だと思い何日間か遠くから見ていたら、彼女が荷物をまとめ始めたので、勇気を出して「映画のオーディションに来てくれないか」と伝えました。

――ペトリチェビッチさんは、女優が本職ではないのですか。

 ペトリチェビッチ:ちょうど大学を卒業したばかりでした。卒業したのが7月末で、映画の撮影が始まったのが9月7日でした。専門は建築で、今も建築事務所で働いています。

――ペトリチェビッチさんから見た監督の印象はいかがでしたか?

 ペトリチェビッチ:監督に会って感じるものがありました。撮影を通して得難い友達になりました。映画経験は貴重でしたが、親友ができたということが私には嬉しいことでした。

(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)