「今回やりたかったのは、恋愛映画と、現実の生活、その対比なんです」と川村元気/撮影/ユンジュリ

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発売から足掛け5年で130万部を突破し、海外でも続々と翻訳版が出版されている『世界から猫が消えたなら』は、今年5月東宝によって映画化されてヒットを記録した。今回の『四月になれば彼女は』(11月4日発売)もてっきり映画化を念頭に書かれたのかと思いきや、どうやらそうではないようだ。

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「もし自分がこの小説を映画化するプロデューサーだったら絶望します(笑)。ヒロインが世界各地から手紙を書いてくるのですが、それがボリビアのウユニ湖から始まって、チェコ、アイスランド、インドとロケをしなくてはいけない。それだけで10億円以上かかります(笑)。自分にとってそういう、映画プロデューサーとしてやりたくてもやれない鬱憤を、小説にぶつけているというところもあって。今回はタイトルもサイモン&ガーファンクルの曲から引用して、小説内でもその曲を使っていますが、映画で使うとしたら曲の使用料もとんでもないことなります」

『四月になったら彼女は』の中には、それだけでなく、主人公とその妻の日常生活の描写において、数々の映画作品(タイトルは明記されていないが、映画好きならばどれも思い当たるものばかりだ)が出てくる。

「今回やりたかったのは、恋愛映画と、現実の生活、その対比なんです。愛を失った男女が、家で一緒に映画のDVDを観ている。これも、映画化するとしたら全部権利をとっていかなきゃいけないので大変です(笑)。映画って、現実の生活を描いているようで、実はすべて嘘なんですよね。だって、街に出ればいろんな音楽が流れているし、映画館の前を通れば映画の看板がある。でもそれらの許諾をすべてとるのは不可能で。だから我々が普段観ている映画というのは、そういうものが全部カットオフされた世界なんですね。映画を作っている時にそういうストレスをいつも感じているから、小説の中でレイ・ハラカミやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが流れているバーの描写をするのがとても楽しいんですよ(笑)。その一方で、映画のようなカメラワークで人物を描いたり、カット割りを決めて編集したりするような感覚で文章を紡ぐという描写が、この小説にはすごく入っています。それはたぶん僕の小説家としての特徴にもなるのかなと思い意識的に今回は取り入れました。カットとカットが変わるときの違和感なども含め。この小説を読んで映画的と感じる人がいるとしたら、その部分でしょうね」

 小説の結末にかかわる部分だから慎重に書かなくてはいけないが、『四月になれば彼女は』のラストには、現在大ヒット中の『君の名は。』のラストにも通じる「ここまで踏み込んだか!」という驚きがあった。過去の新海誠作品のファンならば誰もが驚いた、あの『君の名は。』のラスト。もしかして、そこにはプロデューサー川村元気の意向も大きく反映されていたのだろうか?

「いや、あのラストに関して新海監督と最初から決めていました。今回の作品は、希望で終わりたいと。ハッピーエンドかバッドエンドかというのは、どっちかを作り手が決めるかということではなく、その物語にとってどっちが自然かということだと思うんです。僕は、映画でも小説でも、ただ現実を提示するだけでは、あまり面白くないというか、それは簡単なことだと思っているんです。だから、いま見えている現実ではなく、みんなが潜在的には思ったり気づいたりしているけど、まだそれがこの世界において発露されていないもの、物語になっていないものを、いつも探して、表現しているのかもしれません。そういう意味で、これからも何に関してもこなれたりすることなく、ずっとジタバタしながら作り続けていきたいと思っています」【取材・文/宇野維正、撮影/ユンジュリ】