川村元気は「自分が読みたい小説を書こうとしている、自分が観たい映画を作ろうとしている」と言う/撮影/ユンジュリ

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『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『君の名は。』『怒り』『何者』などなど。今や日本で最も影響力のある映画プロデューサーであり、その多くの作品に企画からたずさわってきた川村元気は、小説『世界から猫が消えたなら』の大ヒットでも知られているように、ベストセラー作家でもある。プロデュースを手がけた作品が軒並み大ヒットを続けているこの秋、そんな川村が新しい小説を上梓する。タイトルは『四月になれば彼女は』(11月4日発売)。彼にとって初めての恋愛小説だ。

【写真を見る】初の恋愛小説『四月になれば彼女は』が本日11月4日より発売!

「きっかけは、身近にいる人で、恋愛をしている人が本当に減ったなって思ったことで。今って、みんなとても冷静で頭が良いなと感じるんです。でも頭が良くなると、考え方が合理的になる。恋愛とか結婚って、非合理なものだと思うんです。時間もお金もかかるし、嫉妬のような感情に振り回されるし。それなのにどうして恋愛をするのかって訊かれた時に、自分の中で答えが出なかったんですよ。だから、答えを知りたくてこの小説を書こうと思ったんです」

普通、本の書き手というのはフィクションでもノンフィクションでも、自分が知っていることを書こうとするものだ。知らないことを無理して書いたとしても、それを価値があるものにするのは難しいだろうし、読者からもつっこみがくる可能性が増える。しかし、川村の発想はその真逆なのだ。

「自分がわからないこと、自分が知りたいと思うことを書くって決めたら、そのことについて一生懸命考えるし、調べるし、いろんな人に話も訊くことになるじゃないですか。自分にとって小説を書くというのは、その“知りたい”という過程が重要なんです。それに、あることについて知り抜いている人が、まるで神の視点で“こういうことです”と書いたものに、人は心を動かされないと思うんですね。自分自身が“どういうことなんだ?”って強く思ったことがそのままストーリーになって、そこで読者の感情と共鳴できればいいなって思っているんです」

自分がわからないこと、知りたいことが動機になる。それは、小説だけではなく、彼がプロデュースを手がける映画にも共通しているという。

「映画を作っている時も、『大衆の心をつかむことができですごいですね』みたいなことをよく言われるんですけど、大衆の心なんてわかるはずがないんです。自分が読みたい小説を書こうとしている、自分が観たい映画を作ろうとしている、それをなんとかして届けようとしているだけなんです。自分が切実に読みたい、観たいという感覚が、1万人としかつながらないこともあるだろうし、100万人とつながることもあるだろうし、『君の名は。』みたいに1000万人以上とつながることもあるだけなんだと思うんです。だから自分としては、常に未知のところに突っ込んでいきたいんです」

本作『四月になれば彼女は』は、川村の映画プロデューサーとしての仕事とのリンクで言うならば、今年9月に公開された『怒り』からの影響も大きかったという。

「今回の小説は、ちょうど吉田修一さんの小説『怒り』を映画化する作業と平行して書いていて。吉田さんは『怒り』を書いている時、あの作品には殺人犯かもしれない正体不明の3人の男が登場するわけですけど、そのうちの誰が犯人なのかを決めないで書き始めたとおっしゃってて。それを聞いて、すごくおもしろいなと。自分も登場人物が恋愛に対して、最終的にどんな決断をするのか決めないで書いていこうと思ったんです」

 インタビューの後編では、売れっ子プロデューサーと人気小説家の二足のわらじを履き続けているその真相について、より突っ込んだ話を訊いてみた。【取材・文/宇野維正】