■極私的! 月報・青学陸上部 第14回
◆全日本大学駅伝プレビュー前編

 千葉県・富津強化合宿。

  10月末、夏季1次合宿以来の青学陸上部全体合宿が千葉県富津市でスタートした。宿がある富津公園内は1周5.6kmのコースがあり、大学や実業団にも人気がある合宿地だ。今回も同時期に日本体育大学や日本大学が合宿を組んでいた。

 合宿初日、気温13度、冷たい雨が降る中、全日本大学駅伝に出場する選手は1000m7本を2分48秒ペースで走り、他選手たちは5kmを2本走った。今回の合宿の目的は、全日本組はビルドアップ走(※)を軸に調整すること、他選手は距離を走って強化することである。
※ゆっくりしたペースで入り、徐々にスピードを上げていくトレーニング法

11月6日の全日本大学駅伝にエントリーする13名は出雲駅伝で優勝を果たした翌日の夜のミーティングで発表された。


 安藤悠哉 (4年)
 秋山雄飛 (4年)
 一色恭志 (4年)
 田村健人 (4年)
 茂木亮介 (4年)
 下田裕也 (3年)
 田村和希 (3年)
 中村祐紀 (3年)
 吉永竜聖 (3年)
 小野田勇次(2年)
 富田浩之 (2年)
 森田歩希 (2年)
 鈴木塁人 (1年)

 出雲駅伝のエントリーメンバーからは池田生成(4年)、吉田祐也(1年)、故障した梶谷瑠哉(2年)が抜け、4年生と3年生の実力者を中心としたメンバー構成になった。昨年、東洋大に敗れ、2位に終わった全日本のタイトルを是が非でも獲りにいく原監督の強い決意がそこから読み取れる。

 出雲を走った選手は、その翌日からリフレッシュしつつ回復に務めた。昨年は出雲から全日本まで3週間しかなかったが、今回はプラス6日間の余裕があった。その6日間が大きな意味を持つと原晋監督はいう。

「この6日間が大きいね。昨年は、ここで自分たちは失敗した。出雲の疲れが抜け切らないまま全日本に出た。みんな重たかったし、キレがなかった。でも、今回はしっかり休んで調整できている。日体大の記録会(10月23日)もその前の水曜日に21kmを走ったり、結構追い込んで疲れている中、田村、吉永をはじめ、みんな攻めの走りができていた。タイムも出たし、昨年とは比較にならないほど順調にきています」

 日体大記録会(5000m)で田村和は13分43秒22、吉永は13分49秒83、安藤は13分51秒66、鈴木も13分53秒20で自己ベストを更新し、さらに全日本組13名の内9名の選手が13分台を出した。一色はペース走だったのでタイムを意識していなかったが、その一色を含めて個々のレベルが上がり、チーム全体の力が底上げされている。その確かな手応えが原監督の表情を明るくしていた。

 合宿2日目、午前練習が始まり、選手がプール第2駐車場に集って"青トレ"を開始。その後、選手が各自ジョグに出掛けた後だった。

「ちょっとマネージャー集合して」

 原監督がマネージャーたちに声をかけた。距離を測りに行った伊藤智一マネージャーともうひとりの女子マネージャー以外の10名が集められた。

「昨日は5km2本のデータ、1km7本のデータがすぐに出てこなかった。1km7本は、私が練習を見ているから大体分かるので急がないけど、5kmの方は見てないから記録が必要だった。

 今回、なぜロードに来ているのかというと、ロードの感覚をつかみ、1km毎の記録を選手に伝えたいから。それなのにタイムがないし、距離も間違えとったら、まったく意味がない。ひとりで仕事をやるわけじゃないし、これだけのスタッフがいるんだからできるはず。『12名もマネージャー必要なかったね』と言われないように、しっかりと役割分担をして仕事してください」

 原監督の言葉をマネージャーたちは微動だにせず、聞き入っていた。

 前日の練習では以前使用していた距離のポイントが消失していたので、新しいロードメジャーで計測した。しかし、そのロードメジャー自体に問題があり、46mもの誤差があった。「初日からトラブルだよ」と原監督は嘆いたが、正確な距離が測れていないとタイムは無意味になってしまう。

 5km走ではスタート、フィニッシュ、1km毎のタイムを出せなかった。さらに練習参加している実業団の選手をどこまで見るのかという問題もあった。判断が難しいところもあるが、「チーム青山」として練習をしている以上、自分の仕事をこなしつつサポートすることが求められる。

 その場で小関一輝を中心に円を組んでマネージャーたちは意見を交わし合った。女子マネージャーからは学年ミーティングを開いた時、連携が取れていないと指摘されたという。どうしたらマネージャー同士、連携して仕事をうまくやり遂げることができるのか。全員が厳しい表情でその解決策を探っていた。30分ほど続いた青空ミーティングが終わり、マネージャーたちは自分の仕事を全うするために動き出した。

 宿舎まで歩きがてら話を聞いていると、小関は「監督にマネージャーの仕事について言われることは今までもあったんですが......」と反省しきりの表情を見せた。

「監督が思い描いている指導、選手へのアプローチの仕方があって、僕らはそこに沿ってサポートしていかないといけないんです。例えば、速報値を出して練習の概要を掴めれば練習が終わった直後に選手に『おまえ良かったな』と評価できるじゃないですか。

 でも、速報値が出せず、翌朝の食事に言うのでは選手の受け取り方や次の練習へのモチベーションが違う、という監督の考えがあるんです。だから、速報のデータがないと監督が困ってしまう。今回は5km走の1kmずつのタイムが出せなかった。役割分担してやればできることですし、僕がマネージャーをどう動かすのかが、できていなかったので、そこは反省して解決策を考えていかないと」

 夏季の選抜合宿は人数が20名程度、マネージャーは3名だった。役割分担しつつ自ら動けば、仕事はできてしまうので問題は起きなかった。しかし、今回は全体の人数が多く、かつ練習が全日本組、部内、実業団、リハビリ組などに分かれている。自分の仕事だけではなく、全体を目配りして何かが足りないと思ったらすぐに指摘したり、人の割り振りをうまくしていかないと、どこかに穴が開いてしまう。それがタイムのことだっただけに原監督は指摘せずにはいられなかったのだ。

「もう一度、監督が求めるものにきちんと応えられるように、みんなで話し合ってやっていきます」

 戦っているのは選手だけではない。選手を支える側も露呈した問題を直視し、解決しながら前に進んでいかなければならない。常勝・青山を作り上げていくには監督と選手が要求するものとマネージャーの仕事に齟齬(そご)があってはならないのだ。

 合宿最終日、全日本組は16kmのビルドアップ走、他選手たちは30km走だ。気温12度、冷たい風が吹く中での厳しい練習だが、全日本組は軽快な走りを見せる。8kmまで3分30秒ペース、その後1km毎に5秒ずつ上げて、最後の1kmは3分で終えた。

 前出の全日本組の中で、この合宿から伊勢路を走るメンバーが固まった。

 安藤悠哉 (4年)
 一色恭志 (4年)
 下田裕太 (3年) 
 田村和希 (3年)
 中村祐紀 (3年)
 吉永竜聖 (3年)
 小野田勇次(2年)
 森田歩希 (2年) 

 全員が5000m13分台のタイムを持つ強力なメンバーだ。本番では、ここにひとり控えの選手を連れていくことになる。

 出雲からは茂木と鈴木がメンバーから落ちた。出雲で4区を走り、逆転優勝に大きく貢献した茂木は、「ちょっと調子が落ちていたので、選ばれても厳しい状態でした。箱根に気持ちを切り替えてやっていきます」と悔しさを見せつつ、前向きに箱根に向けた練習に取り組んでいた。

 今回の合宿で「絶好調だな」と感じたのが田村和だ。出雲では2区で区間賞を取り、その後の日体大記録会では自己ベストを更新。「昨年の久保田(和真)を超えている」と原監督も絶大な信頼を寄せている。

「夏季合宿がすべてうまくいった感じで、正直、いま走るのが楽しいです。調子のよさを感じていますが、それは練習ができているというのではなく、タイムで数値として出ているから。日体大の記録会も誰かについていく感じではなく、自分がひとりで行く展開ができました。もし、タイム狙いで走ればもっといいタイムが出せたと思います」

 昨年の全日本では3区を走り、区間2位で4区のエース久保田に襷(たすき)を渡した。今年はエース区間と言われている1区、2区、4区を任されそうだ。

「今回は監督が前で勝負という考えですし、僕も1区とか前半区間で走り、早めに独走したいと考えています。そこで出雲で4年生がやったように3年生で襷リレーができたらいいですね。3年生はみんな調子がいいので絶対に結果を出せると思います」

 田村和は、自信の笑みを浮かべた。

 下田も同じ気持ちのようだ。出雲ではエース区間の3区を任されたが、自分の思うような走りができなかった。むしろ激走した関颯人(はやと・東海大)の引き立て役のようになってしまった。あの悔しさを忘れるはずもない。

「そうですね。出雲は悔しくて情けない思いをしたんで、次こそという気持ちはあります。ただ、いまは体が重いんで、レース当日までにどのくらい疲れが取れるか、ですね。でも、まぁ期待しててください」

 下田は出雲のリベンジを果たす覚悟だ。

 3日間のショートキャンプを無事に終えた原監督は非常に強気だ。

「全日本、うちは独走するよ」 
 
 全日本は昨年、東洋大に敗れ、惜しくも逃したタイトルだ。今回、勝てば初の全日本制覇となり、「3冠達成」という目標が見えてくる。強気の「独走宣言」だが、その理由はどこにあるのだろうか。

「全日本でキーになるのは1区、2区、4区、8区のアンカー。うちのアンカーは一色で決まっているし、大事な3区間には田村和、下田、いま絶好調の安藤を置ける。この4区間にこれだけ強い選手を置ける大学はないんですよ。

 東海大はたしかにタイムがいい選手が多い。鬼塚(翔太)くんや関くんらいい選手がいるけど、出雲よりも距離が長いし、みんな1年生、若いからね。山梨学院大もスピード系が多いから距離が長くなると難しい。東洋大も昨年ほどの選手が揃っていない。

 他大学は区間割で、うちをマークして考えてくるけど、うちは相手のことを気にしないです。主要4区間にエースを置き、あとはつなぎ区間をどう組み合わせていくかだけですね」

 原監督の言葉から走者を考えると1区は田村和、2区は安藤、4区は下田だろうか。田村和は出雲の2区で区間賞を取り、いま一番ノッている選手。昨年の全日本では現エースの一色を1区で起用しており、田村和は来季のエース候補ゆえ1区を走る可能性が高い。重要な2区と4区の間にあるスピード区間の3区、そこは小野田か、好調を維持している吉永か。いずれにしても4区までの選手が快走すれば、原監督の狙い通りの展開になるだろう。

「富津ではいい練習ができた。万全の状態で挑めれば勝てますよ。それだけのチームですから」

 圧倒的な自信は揺らぐことはない。部内の雰囲気もいい。

最終日の練習ではタイムが素早く監督に届けられていた。マネージャーが結束し、問題を解消することで選手をしっかりとサポートすることができた。全日本は個々の選手の快走はもちろん、「チーム青山」の結束力を見せる最高の舞台になるはずだ。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun