『続・深夜食堂』のマスター役を務める小林薫

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「1日が終わり、人々が家路へと急ぐころ、俺の1日は始まる」…その味わい深いナレーションで始まる人気シリーズの劇場版第2作『続・深夜食堂』(11月5日公開)が登場!今回も“焼肉定食”“焼うどん”“豚汁定食”といった飾り気のない料理をモチーフに悲喜こもごもの人間模様が描かれる。7年前のドラマの第1作からずっと舞台となる食堂「めしや」のマスターを演じてきた小林薫は、「レギュラーの俳優さんたちと再会して続編を作れるのは嬉しいことではあるけれど、それ以上の感慨はないですね」と淡々と語る。

【写真を見る】池松壮亮と小島聖が年の差カップルに!/[c]2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会

「韓国版や台湾版が作られたり、中国も映画化権を獲ったり、なんて話を聞くと、どこがその人たちに響いたのかな? と思うし、不思議な感覚になります」と逆に少々戸惑い気味だ。

だが、「めしや」のカウンターの中に立った小林は、劇中のマスターと同じように周りの人たちをよく観察していて驚く。例えばレギュラー俳優たちのことは「彼らは『めしや』の常連客のようにセットにすっと入ってきて、まるで雑談のようにセリフを言っているんですよね」と嬉しそうに話す。

「焼肉定食」にゲストで出演している佐藤浩市についても「浩市くんの場合は松岡監督との約束で出演したみたいだけど、僕にしても光石研さんにしても初対面ではないので、よそいきの感じではなかったですね」と、とにかくよく見ているのだ。

そんな小林が今回の『続・深夜食堂』で特に印象に残ったゲスト俳優は、「焼うどん」で蕎麦屋の母子を演じたキムラ緑子と池松壮亮。「キムラさんは芝居がすごくできる人なんだな〜と改めて思ったし、“キムラ緑子”という個性で成立していることを実感しました。池松くんは逆に、現代の若い人の呼吸や考え方などをとてもナチュラルに表現しているなと思ったけれど、彼がそれをどこまで意識的にやっているのか全然分からなくて正直驚いたし、新鮮でした」。

「豚汁定食」に登場する名優の井川比佐志に対しては、尊敬の念を言葉にした。「80近い年齢だから、最初はセリフが途切れたり、詰まったりするんじゃないかと思って心配したけれど、全然そんなことはなくて。計算されたかのように、九州から年老いた姉(渡辺美佐子)を迎えにやってくる義弟の物言いにちゃんとなっていたし、寡作な方ですけど、黒澤明さんを始めとする渋い監督たちと組んでこられた丁寧な仕事が身についているのが分かりました」。

井川には驚かされたこともあるという。「監督に『この男は義理の姉のことを実は好きなんじゃないですか?』と言われたみたいなんです。それを聞いた時に、そういうことが役者の本来の作業なんだと気づかされたし、いい時代に仕事をされてきたその片鱗みたいなものを感じましたね」

小林は「そうした年齢や個性が違うゲストの方たちの色合いで、『深夜食堂』の見え方が多面的になっていくのが面白い」と語るが、その意味では、劇場版の前作にゲストで出演した多部未華子が同じ“みちる”役で登場し、『深夜食堂』の住人として成長した姿を見せているのも微笑ましい。「そこは僕が監督にお願いしたところでもあって。要するに『劇場版の前作のゲストを捨てないで、ちょっと顔を出すような形でもう一度登場させてください』と言ったんです。2作目では役を説明しなくても、すっと入ってきて成立しますから」。

これまでと同じなのはマスターの素性が相変わらずよく分からないことだが、余貴美子が演じる老舗料亭の女将・千恵子とのやりとりでは、彼の彼女に対する恋心のようなものやチャーミングな人柄が見え隠れして面白い。「最初のドラマ版から数えると、本当にたくさんのゲストが『めしや』を訪ねてきているんですけど、そうなると彼らが来る理由がないとおかしいよねと思って。監督には『マスターに人を惹きつける魅力や、お客さんに敷居の高さを感じさせない、ちょっと抜けたところがないと成立しないですよね』と言いました。それで、余さんとの芝居のところで、マスターも実は隙だらけの男なんだと感じられるようにしてもらったんです(笑)」。

そう言って穏やかな笑みを浮かべた小林薫。俳優としてただ出演するだけではなく、作品のことを思い、作品をよくするために自分の考えを監督に伝えるその姿はマスターに通じるものがある。そんな小林が演じているから、人は『深夜食堂』をずっと観続けていたくなるのだ。【取材・文/イソガイマサト】