人気車種であるキャシュカイ。photo / NISSAN Europe

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 英国がBREXITの決定をしたことに伴い、英国日産はEU市場への輸出に関税などが科せられて競争力を失い損失が生じないように英国政府にその補償を求めていた。(参照:「EU離脱で英国から外国企業が逃げ出し英企業は買い叩かれる! 日産も補償を要求」)

 それに対して、同政府は英国日産に競争力維持のための支援をすると公約したことが日本でも10月27日以降報じられた。(参照:「朝日新聞」)

 この政府の公約は、10月始めに日産のゴーン社長がメイ首相と会見して英国日産の置かれている事情を説明し、首相は前向きに検討するという約束をしたのを受けてのものだ。それが今回の英国政府の正式な回答となったものである。

 これによって、英国日産がこれまで決定を引き延ばしていた「キャシュカイ(SUVデュリアスの欧州名」)と「エクストレイル」の生産の為のサンダーランド工場にての投資を行うことができるようになった。英国日産は7000人の従業員を抱え、英国で生産されている総台数160万台の3分の1に匹敵する台数を生産している英国最大の自動車メーカーである。しかも、この新車種の生産で雇用が増えることにもなる。(参照:「ロイター」)

 そもそも、英国日産はBREXITによって、EU単一市場への輸出に関税或いは特別付加税などが科されるのではないかと懸念して、最悪の場合はこの2車種をヨーロッパ大陸の方で生産することも検討していた。その候補に挙がっていたのはスペインであった。しかも、10月初旬の保守党の党大会で、メイ首相は「HARD BREXIT」を主張したことから、EU市場への輸出が無関税になることが難しくなる可能性がむしろ高まっているのだ。

「HARD BREXIT」とは、移民のコントロールはEUではなく英国が行うというもので、それはEUの基本合意であるシェンゲン協定を無視することを意味するのである。それは、人、物、資本、サービスのEU圏内における自由なる移動を基本にしているEUにとって、英国のこの姿勢はEU規定に反することになる。その結果、EUが無関税で英国製品を受け入れる可能性はなくなると考えられている。

 そうなると、英国日産にとって事態は深刻となる。EU市場で英国からの商品は関税などがかけられて価格面で競争力を失うからである。英国で生産される車の75%はEU市場への輸出である。(参照:「SOY MOTOR」)

 英国の自動車の生産量は世界で12位、売上高は1000億ユーロ(110兆円)ともいわれ、80万人が自動車業界で雇用されている。((参照:「SOY MOTOR」、「El Mundo」)

 仮に英国最大自動車メーカーである英国日産が新車の生産及び投資を英国以外で行うという前例をつくると、その他の外資系が大半の自動車メーカーではそれに追随して、英国の自動車産業が完全に衰退するという事態になる可能性がある。それを充分に承知しているメイ首相は来年からのEU委員会とのBREXITの交渉に臨む前に今回の決定を下したのである。

<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。