「Thinkstock」より

写真拡大

●自動車販売を揺るがす新たな波

 国内自動車販売が、かつてない逆風に見舞われている。需要減に加えて、クルマのあり方が大きく変わろうとしているからだ。自動車メーカーはもとより、なかでもディーラーはいかにして生き残りを図るのか。

 2015年度の国内新車販売台数(軽自動車を含む)は約493万7734台と、2年連続で前年を下回り、東日本大震災の影響があった11年度以来、4年ぶりに500万台を割り込んだ。日本自動車工業会は、16年度の国内新車販売が前年度比約2%減の484万5200台になるという見通しを発表した。

「一番大きく影響したのは、消費税率引き上げ延期による駆け込み需要がなくなったことです」

 自工会会長の西川廣人氏は9月15日、都内で開かれた定例会見の席上、そのようにコメントした。

 需要減以上に今日、国内自動車販売にとって脅威なのが、カーシェアリングや配車など、クルマをめぐる新たな潮流だ。25年までに自動車全体の20%がシェア利用されるといわれており、カーシェアリングの拡大は国内の新車販売台数に打撃を与えることが確実視されている。

 実際、先進国を中心にシェアリング・エコノミー(共有型経済)が広がっている。若い人たちの間では、モノを所有せずに共有するのがクールであるという価値観がトレンドになっているのだ。現に、ライドシェアのウーバー、宿泊空間シェアのエアビーアンドビーなどが注目されている。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の進展により、共同利用を通して、利用者同士がつながれるなどの特徴も、若い人たちに支持される背景といえる。

 クルマ社会といわれるアメリカでも、09年頃からカーシェアリングサービスを提供する会社が増加。クルマを所有することがステイタスだった時代は、終わりを告げようとしている。

 シェアリングの一種であるライドシェアも広がりを見せている。配車サービスのウーバーでは、すでに世界中で毎月1億回以上のライドシェアが行われている。

「東京でも13年11月から、運行を開始しました」と、ウーバージャパン、コミュニティマネージャーの北尾恵子氏は語る。

 問題は、シェアリング・エコノミーにより、クルマを大量につくって大量に売るという、これまでのビジネスモデルの大前提が崩れかねないことだ。かりにも、カーシェアリングが止められないとすれば、営々と続いてきた自動車メーカーとディーラーの関係性は、変容を迫られるだろう。

●メーカーのカーシェアへの対策は

 クルマが売れないのであれば、メーカーはどうするか。16年6月、ホンダは大都市圏でカーシェアリング事業を広げる方針を明らかにした。ホンダはすでに、13年11月から「ホンダカーズ スムーズレンタカー」の実験を進めてきた。会員数は約4500人にのぼる。

「駐車場が高いなどの理由から、クルマを持てない若い人たちにカーシェアの需要があるんですね」
 
 ホンダ執行役員、日本本部長の寺谷公良氏はこう語る。
 
 インターネットで予約し、駐車場などにあるホンダ車をICチップが搭載された免許証で開錠して借りる仕組みだ。月会費は無料で、最短12時間3980円で利用できる。

「いまはクルマを持てない方にもクルマに乗ってもらって、いずれ購入するときには、ホンダ車にしようと思ってもらうための種まきでもあるんです」(寺谷氏) 

 カーシェア事業には、タイムズ、オリックス、カレコなどが参入しているが、自動車メーカーがホンダのほか、トヨタ、日産が限定的ではあるが乗り出している。本来、カーシェアが進めば、クルマの販売が減ると考えられることから、両者は対立する概念だが、もはや背に腹は代えられない。

 もちろん、自動車メーカーは本音では必ずしもカーシェアを歓迎しているわけではない。寺谷氏は次のように語る。

「できれば、カーシェアではなくて、所有したくなるようなクルマを追求する会社でありたいと思っています」

 日本勢では、今年5月、トヨタがウーバーとの資本・業務提携を発表した。今後、両者はウーバー・ドライバー向けの車載アプリの開発、それぞれの研究活動に関する知見の共有、トヨタ・レクサス車のウーバーへのフリート販売などの協業の可能性を追求していく計画だ。トヨタ社長の豊田章男氏は、かねてから「運転する楽しさ、所有する喜び」と言い続けてきた。そのトヨタでさえ、カーシェアの流れに取り残されるわけにはいかないのだ。

 海外では、ドイツの自動車メーカーが高級車のシェアリングサービスを本格的に進めている。たとえば、独ダイムラーはメルセデス・ベンツ、独フォルクスワーゲンは傘下のアウディやポルシェのカーシェアを始めた。このほか、仏プジョーシトロエングループ、独BMWなどがカーシェアを展開している。また、米ゼネラルモーターズ(GM)は配車アプリのリフトに出資している。

●もはや既存のモデルでは生き残れない

 では、ディーラーはどうか。ズバリ求められるのは、自立だ。ホンダのディーラーをケースに考えてみよう。

 じつは、ディーラーの自立は、これまで幾度となくいわれてきた。1990年代後半以降、ホンダ、日産、三菱自動車、マツダなど、日本の自動車メーカーが次々と販売チャネルを統合したのは、バブル崩壊後の国内新車販売の伸び悩みはもとより、自動車メーカーが販売店を支える余力をなくしたことが大きかった。
 
 ディーラーを支える柱のひとつに、販売奨励金がある。これまで自動車メーカーは、工場の稼働率を高めるためにディーラーに販売奨励金を投入し、新車の販売台数を底上げしてきた。ディーラーにとっては、販売奨励金が経営を成り立たせるうえでの重要な要素だった。

 ところが、自動車メーカーはリーマン・ショック後、販売奨励金を投入する余力がなくなり、ディーラーは必然的に自立に追い込まれた。本来であれば、ディーラーはこの時点で腹をくくるべきだった。覚悟を決め、自立に向けてゼロベースの変革をすべきだった。ところが、ディーラーの動きは鈍かった。なぜか。クルマが売れていた時代の成功体験から抜け出せなかったからだ。

 しかし、今度ばかりはディーラーも覚悟を決めなければいけない。カーシェアリングというこれまでになく大きな潮流は、需要減どころか、ディーラーの存在意義すらも奪いかねないからだ。もはや、販売奨励金には頼れない。自立の先送りは許されないのだ。

 そもそも、ディーラーの利益率は低い。しかも、新車の販売であげられる利益は、ほんのわずかである。インターネットの普及による価格の透明性から、それすらも頭打ちとなっている。

 では、ディーラーはどこから利益を得ているのだろうか。ディーラーの主な収益源は、部品とサービスである。売上の中心は、オプション部品の販売とその取り付け工賃だ。このほか、車検時の各種登録手数料、整備点検費用、修理時の工賃、保険、ローン会社からのキックバック、下取り車販売などである。

「我々の収益基盤の3本柱は、サービス、中古車、金融です。8割を3つの領域でカバーし、残りの2割で新車の儲けを確保すれば、利益が出るという構造です。ただし、営業利益率2%、3%を確保するためには、基本の収益基盤と新車販売の両輪でいかないと厳しいですね」(寺谷氏)

 ホンダの販売店が目下、力を入れているのが、顧客管理だ。ホンダの国内保有台数約1000万台のうち、販売会社が顧客の名前と住所を管理できているのは、約600万台にすぎない。

「販売店に足が向いていない400万台をどう取り込んでいくか。『車検はおたくに任せるよ』と言ってもらえるように働きかけていかなければいけないんですね」(同)

 既存顧客を囲い込み、長期的かつ継続的な収益を維持することは、ディーラーが営業利益率を上げるための鉄則である。ところが、ホンダの国内保有台数約1000万台のうち、約4割の400万台が宙に浮いたままで、ディーラーはみすみす利益を取り逃している状態だ。

 実際、ディーラーが管理していない約400万台は、定期的なメンテナンスをカー用品店やガソリンスタンドで行っているのが現状だ。カー用品店などにおけるオイル交換やタイヤ交換などのサービスは、大幅に価格が下がり、もはや価格破壊の様相を示している。顧客が価格の安い方向に流れるのは必然である。

 では、ディーラーはカー用品店に対して価格競争を仕掛ければいいのかというと、そうではない。寺谷氏は、カー用品販売店との競争について次のように語る。

「専門店との価格競争では、絶対に勝てません。そういうところに対抗して、低価格戦略をとるつもりはまったくありませんし、ディーラーには戦う体力もありませんからね。価格では勝てませんが、担当に電話を一本入れれば、すべてに対応できるのがディーラーの最大の価値なんですね。そこで勝負していかなければいけない」

 ディーラーが直面している本質的な問題は、アフターサービスの価格破壊ではない。前述したように、恐れるべきはカーシェアリングという新たな波だ。カーシェアリングが進めば、車検や点検整備はもちろんのこと、自賠責保険、任意保険の費用をクルマの所有者が負担する必要がなくなる可能性が出てくる。それは、ディーラーにとって大きな稼ぎを失うことを意味する。ディーラーは、自らのあり方そのものを見直す必要性に迫られているのである。

●カギを握るのは人づくり

 どう売るかを考えるよりは、新しい事業の柱を打ち立てなければいけない。ディーラーは、このままでは時代に置き去りにされるからだ。果たして、苦境を抜け出す術はあるのだろうか。

「カーディーラーの根底になければいけないのは、“信頼”だと思います。クルマは安い買い物ではありません。“ここなら任せられる”と思っていただかなければ、買ってもらうことはできませんからね。ただし、信頼ということでいえば、ホンダのディーラーは必ずしも強くはありません。車の商品力にあぐらをかいてきた部分があったからです。車の商品力とは別のところで、この店で買いたい、この人と付き合っていきたいと思わせるようでなければ、将来の生き残りはむずかしいのではないかと思いますね」(寺谷氏)

 求められるのは、人材だ。しかし、ディーラーの人材をとりまく環境は必ずしもいいとはいえない。人口減社会に入り、優秀な人材を獲得するのは簡単ではない。

「いい人材を採用して、長期的な視点をもってしっかり育てていかなければなりません」(寺谷氏)

 ディーラーを取り巻く環境は、大きく変わろうとしている。自動運転が進展すれば、シェアカーはこれまで以上に増加するだろう。そして、新たなサービスが生み出される。クルマを大量につくって売るという、これまでのビジネスモデルが成り立たなくなるなかで、ディーラーは、これまでになく難しい局面に立たされているといわざるを得ないだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)