インドネシア映画界の実情を語った
テディ・スリアアトマジャ監督と
トゥティ・キラナ

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 生々しい描写で人間の“リアル”を映し出すインドネシアの気鋭テディ・スリアアトマジャ監督が、「親密さについての3部作」として位置づけた「ラブリー・マン」(2011)、「タクシードライバー日誌」(13)、「アバウト・ア・ウーマン」(14)が、第29回東京国際映画祭「CROSSCUT ASIA #3 カラフル!インドネシア」部門で上映された。スリアアトマジャ監督と「アバウト・ア・ウーマン」に主演した女優のトゥティ・キラナが、3部作と現在のインドネシア映画業界について語った。(取材・文・写真/編集部)

 外交官である父親の赴任先であった東京で生まれ、5歳までを日本で過ごしたスリアアトマジャ監督は「東京という都市にとても情熱を感じます。日本映画も大好きで、インドネシアの家には日本映画のアートワークがたくさん飾ってあります。黒澤明監督や北野武監督が特に好きです」とほほ笑む。その後はオーストリア、アメリカ、インドネシア、イギリスと多様な文化のなかで育ち、世界共通の人間愛、そして誰もが抱える孤独の本質を見る目を養った。

 第1作となった「ラブリー・マン」を製作した際には、「3部作を作るつもりはありませんでした」というスリアアトマジャ監督。家族を捨てたトランスジェンダーの父とムスリムの娘の再会を描き、新しい愛のかたちを提示した同作を撮り終えた後、「アングルとテーマを広げ、宗教や親密さ、性、そして出会いと別れについてまた次のものを作りたい」という思いが湧き起こったという。そして製作された第2作の「タクシードライバー日誌」では、世俗的なものと触れ合うことで暴発するムスリムの青年に訪れるカルマを、バイオレンス描写を含んで描いた。

 第3作となる「アバウト・ア・ウーマン」では老婦人のなかに宿る情熱を静かなトーンで紡ぐ。65歳の誕生日を目前に控え、大邸宅で平穏な日々を過ごしていた未亡人ダユ(キラナ)は、信頼していたメイドが突然辞めてしまい、しかたがなく娘夫婦から紹介された親戚の青年アビを世話係として雇うことにする。孫ほども年の離れたアビとなかなか打ち解けられずにいたダユだったが、一緒に暮らすうちに淡い恋心を抱きはじめる。

 往年の名女優キラナは、はじめは年の離れたアビに疑心暗鬼になるものの、次第に秘めた思いを抱くという難役に「挑戦ではあったのですが、役との年齢も近かったですし、脚本を読んで主人公の生き方に共感するものがありました」と明かす。「アビのように年の離れた男性でも、映画で描かれていたように、実際に生活を共にして心が近しくなっていくのは、とても人間的な心の動きだと思います」

 今年の東京国際映画祭で特集が組まれたように、盛り上がりを見せるインドネシア映画だが、まだまだ制約は多い。3部作のうち「タクシードライバー日誌」と「アバウト・ア・ウーマン」は、オリジナルのまま検閲を通すことが困難で、本国での上映はかなっていない。「検閲で大事なシーンをカットされるのは嫌なんです」と純粋な目で語るスリアアトマジャ監督に、“折衷案”はない。

 スリアアトマジャ監督いわく、「今年インドネシアでは約80本の映画が公開」されているが、「国内のものよりもハリウッド映画、韓国映画、中国映画、インド映画のほうが割合は高い」のが現状。「この3部作は興行のための作品ではありません。もしインドネシアで公開しても、誰も見に来ないでしょう」と冷静に分析する。「製作国に関わらず、観客数は増えてはいるのですが、質はいいものから悪いものまでいろいろあります。インドネシアで売れる映画は、小説を基にしたものや、イスラム教の色が入ったラブストーリー、ムスリムの家族の物語。良い監督が育ってきてはいるのですが、売れる映画を作らなくてはいけないという強迫観念が、作品の質を落としている場合もあるかもしれません」。

 キラナは「アバウト・ア・ウーマン」がインドネシアで上映されないことを嘆きながらも、「私がこの役を上手く演じられたのは監督のおかげです。彼は天才よ!」と、全幅の信頼を寄せる若い才能を後押しする。そんなスリアアトマジャ監督の次回作は、「現在のジャカルタの10代の若者たちが病みつきになっていることや、初めてのセックスを含めた初恋のお話」だそうで、来年1月から撮影を開始する予定だ。今度はどんな“リアル”を切り取ってくれるのか、決して信念を曲げないスリアアトマジャ監督の今後に期待は増すばかりだ。