中国人が信じない中国の一般薬(WaitForLight /shutterstock.com)

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 2年ほど前、友人から初めて「神薬12」という言葉を聞いた。私は中国から日本に移り、日本で暮らし始めて20年になるが、その言葉を聞いたことがなかった。

 調べてみると、中国のネットメディアで「日本に行くなら絶対に買わねばならない薬」と紹介されているものだと分かった。

 「神薬12」とは、目薬の「サンテボーティエ」(参天製薬)、消炎鎮痛剤の「アンメルツヨコヨコ」(小林製薬)、液体絆創膏の「サカムケア」(小林製薬)、冷却剤の「熱さまシート」(小林製薬)、頭痛薬の「イブクイック」(エスエス製薬)、消炎鎮痛剤の「サロンパス」(久光製薬)、角質軟化剤の「ニノキュア」(小林製薬)、ビタミン剤の「ハイチオールC」シリーズ(エスエス製薬)、便秘薬の「ビューラックA」(皇漢堂製薬)、口内炎薬の「口内炎パッチ大正A」(大正製薬)、女性保健薬の「命の母A」(小林製薬)、のど薬の「龍角散」(龍角散)の12種の一般医薬品だ。

 なお、12種類の薬には、ときにはビタミン剤の「アリナミンEXプラス」(武田薬品工業)、消炎鎮痛剤の「ロイヒつぼ膏」(ニチバン)、洗眼薬の「アイボンd洗眼薬」(小林製薬)、目薬の「サンテFXネオ」(参天製薬)、胃腸薬の「太田胃散」(太田胃散)、「液体ムヒS2a」(池田模範堂)、目薬「スマイル40EX」(ライオン)などが挙げられることもある。

 つまり中国人にとって日本に来たら絶対に買わなくてはならないものは、カメラや電子機器、腕時計などではなく頭痛や発熱、虫刺され等を治療するための家庭用常備薬だ。
なぜ中国人は日本の家庭用常備薬を求めるのか?

 日本製の電子製品、カメラ、宝飾製品、腕時計等は高品質であることが世界に知られている。このため、中国で改革開放が実施され市場経済への移行か始まって以来、中国人旅行者は主にこれらの品を日本で買ってきた。

 しかし近年の日本への観光旅行ブームのなかでは、これらに加え一般医薬品までも「爆買い」している。しかも医薬品を求める傾向には変化が見られず、これが一過性のものであるとは考えられない。

 なぜ中国人は家庭用常備薬である一般医薬品を求めるのか。第1に、日本の薬の安全性の高さがある。中国では、普通の薬は信用できないし、信頼できる薬は価格が高すぎる。特に、子供を持つ親にとって薬の安全性は切実である。

 第2には、消費者視点でのモノ作りは、日本企業の方が中国企業よりも数段上であることがある。例えばある液体絆創膏には「皮膜を形成し、水・バイ菌・ホコリから傷口を保護する」などと書かれており、商品説明が実に直感的で分かりやすい。

 子供用咳止めシロップには、イチゴ味などの味が付けられて、パッケージにもアニメキャラクターなどが描かれており、子供が楽しく薬を飲めるよう工夫されている。

 子供用の薬には、子供の誤飲を防ぐためにキャップが簡単には開かない設計となっているものもある。液状の薬は、キャップに目盛りがあり容量が簡単に測れる工夫がされているものも珍しくはない。

 物心付いたときから日本製の製品に囲まれて育った日本人にとっては、こういった製品に対する工夫は当たり前のことなのだろう。しかし、中国の薬の説明書きの分かりにくさや消費者への配慮のなさにすっかり馴染んでいる者からすれば、これはちょっとした感動である。

 安全であり、かつよく作り込まれている日本製の薬は、中国人、特に幼い子供を持つ若い中国人既婚者層に大きな支持を得ている。上海に住む筆者の親戚も、彼らの子供が生まれる前、来日する父親にリストを渡し日本の薬を大量に買わせていた。

中国でも製薬業界、監督官庁の黒い関係が

 中国には現在4千余りの医薬品メーカーが存在し、風邪薬だけでも何百社という医薬品メーカーが生産している。このため風邪薬の大手10社のシェアを合計しても、市場全体の20%程度にしかならない。

 中小製薬メーカーはもちろん、大手メーカーであっても生産工程や原材料の品質などは、やはり主要先進国と比べ当然見劣りする。また、政府による医薬品の審査も、お世辞にも厳格とは言えない。

 中国の薬を手にとってみると大抵は聞いたことのない会社が作っており、しかもそれは十分とは言い難い審査を経て販売されているものだ。

 これに対して日本の場合、風邪薬の種類はいくつもあるが、大体どれもよく知られた大手製薬会社が生産したものであり安心感がある。最近は色々と問題も発覚している日本の医薬品行政だが、それでも中国と比べれば医薬品の審査は遥かに厳格と言える。市販されているものは全て政府による審査を経たものだ。

 中国メディアの「健康資訊」は、<日本のサプリメントの成分表示からも消費者の立場に立った姿勢が如実に現れて>と記事で指摘している。

 また、薬の効果は、有効成分だけではなく補助成分によっても影響を受ける。つまり、補助成分の差によってピーク血中薬物濃度やピーク時間(最高血中薬物濃度に到達する時間)やAUC(血中濃度-時間曲線下面積)は影響を受ける。さらには保管条件や保管期間によっても成分は変化し、効果は変わってくる。

 中国での薬剤審査では、有効成分の含有量のみに着目され、補助成分についてはあまり重視されない。つまり、ピーク血中薬物濃度やピーク時間といったものへの着目は不十分だ。保管方法や保管期間も行政による監督や現場での管理が十分とは言えないものが多い。

 製薬メーカーは、受託臨床試験機関(CRO)に薬の臨床試験を委託することがあるが、中国では業務実体の無いCROが存在することもメディアにより明らかにされている。

 中国おける製薬メーカー、臨床試験機関、監督官庁の関係の黒さは日本の比ではない。政官財一体となって上げた不当な利益は、薬の価格と信頼性に跳ね返り消費者が割を食う形になっている。

 こうして現状を見ると、中国の製薬業界関係者は医薬品の品質を確保する誠意をどれだけ持てるのだろうかという疑問さえ浮かんでくる。

 共産主義の中国では今、社会のいたる所で信頼が失われる事態が発生している。製薬業界もその例外ではない。だからこそ中国人は資本主義を掲げる先進国の製品に手に入れたがる。

 特に薬は、自分の体に直接入れるものだ。安全性に対する信頼が重要となってくる。だからこそ、中国人は日本で家庭用常備薬を「爆買い」するのだ。
(文=張本真)

張本真(はりもと・まこと)
ジャーナリスト。1963年中国黄山生まれ。中国南京大学卒業。1999年東京大学大学院卒業。2001年友人と『大紀元時報』日本版を共同創設。大紀元記者&編集者として活動する傍ら、新聞、インターネット、テレビ、雑誌等のインタビュー、複数のオピニオン雑誌などで日中文化比較、日中関係等についての発言を続けている。