ブート・ジョロキアの辛さはタバスコの200倍、ハバネロの2倍(10倍説も)(shutterstock.com)

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 「一人前はさび抜きで」と頼まれたので、スーパーの売り場で「さび抜き」の表示を探したが見当たらない。売り切れたのかと思った矢先、どの寿司パックにも小袋のわさびが付いているのに気づいた。

 そうか、いまや「さび好き」のほうが自分の好みでひと手間かける時代なんだな、と納得した次第。なるほど、売れ残り解消策としても合理的だとは思う。が、さび抜き仕様が「主役」という売り場風景は、やはりどうにも腑に落ちず......。

 それで思い出したのが、よくバラエティ番組でお笑い芸人たちが<無茶ぶり>される寿司版のロシアンルーレット。大量のわさび入りを引き、頬張って思わずむせて吐き出す姿が笑いを呼ぶというアレである。

 だが、同じ激辛ネタでも、『The Journal of Emergency Medicine』(オンライン版9月29日)に掲載された海の向こうでは、笑うに笑えない緊急搬送談である。

ギネス認定の激辛世界一の「ブート・ジョロキア」で緊急手術

 事件は、米サンフランシスコで開催された大食い大会で起きた――。

 当日の会場では、ある食材のピューレソースを使ったハンバーガーをどれだけ食べれるかが争われていた。件の食材とは、バングラデシュを主産地とする唐辛子の「ブート・ジョロキア」。

 その猛烈な辛さ度合いは、タバスコの実に200倍、近年おなじみのハバネロの2倍(10倍説も)はあり、その世界一の超激辛ぶりはギネスに登録されたほど(2007年)。

 ブート・ジョロキアの主成分であるカプサイシンの刺激があまりにも強いことから、収穫時も<素手は厳禁でゴーグル&手袋が不可欠>なのだ。

 今回、悲劇の主人公となったのは、コンテスト参加者の地元男性(47歳)。前掲記事によれば、激辛ハンバーガーを1個食べ終えた途端、急激な吐き気と嘔吐に見舞われ、次いで強烈な腹部の激痛と胸部痛に襲われるに及んで完全ダウン。

 最寄りの病院に緊急搬送され、手術を余儀なくされた。CTならびに胸部X線検査の結果、男性の食道周囲に空気が認められ、「特発性食道破裂(Boerhaave症候群)」による「食道穿孔」が示唆されたという。

 この重篤な疾患は、特別な疾患もなく嘔吐による急激な食道内圧の上昇が原因だ。健常な食道壁の全層に渡り、損傷が生じたのだ。

 この患者の場合、挿管が行なわれ、ただちに手術が施されたが、食道には2.5cmもの裂傷が認められた。

 傷の周辺には液体や食物残渣が見つかり、手術当日から13日間は栄養チューブが必要とされた。さらに退院までには、23日間を要したそうだ。
ダイエットや健康面で重宝されても<喘息持ち>は要注意

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校救急医学部のAnn Arens氏らの報告によれば、「これはわれわれが知るかぎり、ブート・ジョロキアの摂取に関連する初の症例報告となる」とコメント。

 「今回のような特発性食道破裂は稀ではあるものの、極めて危険で死亡率が高いのも事実だ」と警鐘を鳴らす。

 さらに「この症例は、辛いものを多量に食べたあとの不快感から始まり、生命にかかわる外科的救急疾患がありうることを思い起こさせるという点でも重要だろう」と述べている。

 唐辛子などに含まれる成分の「カプサイシン」は代謝力アップ(発汗作用や血流効果)で脂肪を燃やしてくれることから、ダイエットや健康面でも重宝されている。

 だが、その刺激が体外に排出されるまで、あらゆる粘膜(気管支や直腸、肛門に至る消化管全体)に影響を及ぼすため、特に喘息持ちの人は要注意である。

過剰なカプサイシンの摂取で胃がん発症率が1.7倍アップ

 ドイツの場合、昨今の激辛グルメ人気を背景に、このカプサイシンの摂取事情を調査し基準量を設けているほどだ(日本では明確な基準がない)。

 また、辛いものを摂りながら「水」を飲むという人も多いが、実は水に溶けない性質のカプサイシンの場合は、ほぼ気休めに過ぎない。むしろ、お薦めは「牛乳」だ。

 普段から過剰にカプサイシンを摂取する人は、胃がん発症率が1.7倍アップとするデータもある。激辛嗜好派は、「薬」が「毒」と化しない程度をわきまえた摂取が賢明だろう。

 舌の付け根の味蕾(みらい)が壊れるほどの過剰な激辛摂取は、味覚障害(より濃いものを求めるなど)につながり、未来の健康を損ねてしまいかねない。
(文=編集部)