映画『溺れるナイフ』原作者 ジョージ朝倉インタヴュー:「毒にも薬にもなる作品にしたかった」

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11月5日に公開される映画『溺れるナイフ』は、2004年から9年間にわたり『別冊フレンド』(講談社)にて連載された長編コミックが基となっている。ソ渋紊亮意識イ鬟董璽泙忙彌婀の衝動や危うさを描いた原作は累計170万部を超えるベストセラーとなり、主人公と同年代の若者たちを中心に深く愛された。登場人物たちの想いが複雑に絡み合う、痛々しいほどの青春ドラマ。その中に隠された物語の本質について、原作者のジョージ朝倉に話を聞いた。

―まず『溺れるナイフ』の実写映画化というオファーがあった時、どのように思われましたか?

自分が描いた作品の映画化というお話は何度かいただいたことがありますが、ほとんどが途中で無くなったりするものなので、正直、『溺れるナイフ』のお話を最初にいただいた時も、実現までいかないだろうなと思っていました。ただ、今回の場合はイ海慮矯遒捻撚茲鮖りたいイ箸い山戸結希監督たっての要望ということで、最初からちょっと特殊だったんです。通常はまずプロデューサーの方が(原作を)見つけてくれて、そこから監督さんへお話が行って・・・という流れなんですけど、今回は監督ご本人から熱いお手紙をいただいて。聞くとまだ26歳とかで、そんな才気あふれる人がこの原作を愛してくれて撮りたいと言ってくれている、しかもこれが商業映画デビュー作だと。もし本当にこれが実現するなら、原作ファンの方も納得してくれるものになるのではと思いました。それに、ここで映像化をお断りしてしまったら、そこから先の間口が広がらないというか、新しい人に読んでもらうチャンスが無いままになってしまうかもしれないじゃないですか。そう考えると、もしかしてこれはものすごく幸福なチャンスなのではないかと。


(C) ジョージ朝倉/講談社 (C) 2016「溺れるナイフ」製作委員会

―山戸監督からのお手紙ってどんな内容だったんですか?

監督が学生の頃に『溺れるナイフ』を読んで影響を受けたということが、すごく素敵な言葉で書かれていました。以前『平凡ポンチ』という自主制作映画を題材にした漫画を描いて、その流れでナ針泪櫂鵐船淵ぅ琵イ箸い私が選んだ好きな映画をオールナイト上映する会を開いたんですが、実はそこに山戸監督も見に来ていたらしく。さらに、『平凡ポンチ』の監督と脚本を担当してくださった佐藤佐吉さんのゥ汽チナイトイ箸いΕぅ戰鵐箸砲眤を運ばれていて、その時に上映された作品を見て映画を撮り始めたらしいんですね。

―ジョージ朝倉先生の漫画がきっかけだったんですか。

そうなんですよ。漫画家としてデビューして間もない頃、当時お世話になっていた担当編集さんにヅ勅砲僚の子に向けて描いてイ噺世錣譴燭海箸あったんですけど、その時の想定読者というのがイ任癲△い弔こんなところ出ていってやるイ箸、イ任癲∋笋楼磴イ箸、どこかにイ任磅イ鮖っている田舎の女の子たちだったんです。みんなと馴染んでいるふりをして実はおかしなことを考えているような、そんな子たちに引っ掛かればいいなと思って描いていて、山戸監督はまさにそのうちの1人だった。読者の女の子が何かすごいことになって飛び出してきたぞ、という感じでした。

―それは、漫画家冥利に尽きますね。今回のキャスティングに関してはどうでしょうか。最初のオファーがあった時点ですでに決まっていたんですか?

まだはっきり決まってはいなかったけど、小松菜奈さんと菅田将暉さんを含めて何人か候補が挙げられていました。中でも小松さんに関しては、当時CMで田舎に引っ越してきた女の子を演じていて、それが夏芽っぽいとネットで話題になっていたらしいんです。さらにファンの方から送られてきたイ發掘愿れるナイフ』が実写化するとしたらイ箸いΕ瓠璽襪砲眈松さんの画像が貼られていたのを思い出して、私としても小松さんならいいんじゃないかな、と思いました。菅田さんに関しては、もともと子供と一緒に仮面ライダーを見ていたのでイ◆▲侫リップくんだ!イ函幣弌法で、正式にキャスティングが決まってから菅田さんが出演されている作品をいろいろ見てみたら本当に素晴らしい俳優さんで、むしろイいい鵑任垢!?イ箸いΥ兇犬任靴拭

―2人が演じる夏芽とコウはいかがでしたか?

違和感無かったです。ゲ堂蠅呂海鵑覆海箸靴覆い茵イ箸六廚錣覆ったし。どこかで映画は映画と思って見ているところがあるので、原作と比べてどうだとは思わなかったですね。

―まったく別の物語みたいな?

すごく乖離しているという意味ではなく、別次元の作品というような。映画と漫画ではそもそも表現方法が違いますし、原作をそのままなぞってもしょうがないじゃないですか。今回の映画は監督の頭の中にあるァ愿れるナイフ』2時間版イ箸いκ未虜酩覆鮓せてもらえた感じで、それは私の中にある『溺れるナイフ』と違っていて当たり前なんです。


(C) ジョージ朝倉/講談社 (C) 2016「溺れるナイフ」製作委員会

―なるほど。では、その監督の作り出すァ愿れるナイフ』2時間版イ鮓た感想は?

エネルギーがすごかった。漫画では夏芽とコウの衝動みたいなものを描いていたつもりなんですけど、それと画面から滲み出る謎の熱量がとてもフィットしているなと思いました。きっとこの先監督が上手くなればなるほど、今のような熱量は出ないと思うんですよね。そのデ量イ辰日チ討亨イ箸盞劼っているものだと思うので、今撮ってもらえて本当によかったなと思います。ちなみに、出来るなら毎年撮りたいと言ってくださっているので、それが実現するなら3年後くらいにいろいろと得た後の山戸監督が撮ったものも見てみたいですね。

―『溺れるナイフ』を毎年?

そうなんですよ。キャストも変えて、まったく別の切り口でやってみたいと。今年の『溺れるナイフ』は・・・ってワインみたいですよね(笑)。

―ボジョレー的な(笑)。きっと、それだけ原作に多角的な魅力があるということでしょうね。その原作の内容についても少し伺いたいのですが、全17巻というのは、ご自身としても最長になりますよね。

そうですね。

―最初から長編作品になることは決まっていたんですか?

巻数をはっきり決めていたわけではないのですが、長くしようとは思っていました。登場人物が小学生の頃からある程度大きくなるまでの成長過程と、自意識が壊れてそれが再生していくまでの過程を長いスパンでしっかり描いていきたいと思ったんです。それで、当初12〜13巻くらいで考えていたんですけど、描いてみてイΔ錙∩漢各らないじゃん!イ辰董最初の3巻分くらいが1巻に収まる予定だったのが、見通しが甘かったようで(笑)。

―連載期間で言うと9年間、夏芽たちが12歳の時点から進行のスピードも含めリアルタイムで展開している感じがして、同じ年代の読者が一緒に成長していく感覚になれたのではないかと思います。ただ、夏芽とコウって何ていうか完全で完璧な2人じゃないですか。スペックがファンタジー設定というか。読者の共感を得るには結構難しい存在だったと思うんですけど、敢えてこの2人をメインに据えたというのは何か狙いがあったのでしょうか。

私、特殊というか極端な男の子や女の子を描くのがすごく好きで、自分でも得意な方だと思うんですね。で、この作品は時間をかけて成長を長く描いていこうと決めていたので、それならば他にはないテ段未2人イ鯢舛海Δ隼廚辰燭鵑任后子供の頃って、自分は何でも出来るという全能感があるじゃないですか。普通それは大人になっていく過程で壊されていくものなんだけど、ちゃんとそれを裏打ちする特別なものを持っている子たちは、全能感をある程度維持したまま大人になっていくのかなぁと思って。そして、それがある時どうでもいい奴のどうでもいい理由によって急にぶち壊されてしまったとしたら一体どうなってしまうんだろう・・・と考えながら出来上がったのが夏芽でした。


(C) ジョージ朝倉/講談社 (C) 2016「溺れるナイフ」製作委員会

―最近の少女漫画ではコンプレックスを抱えた平凡な女子がイケメン男子と恋に落ちる、みたいなパターンが定説化しているじゃないですか。夏芽はあきらかに平凡ではないですよね。

女性が読者の場合、特別な女の子って正直引かれますよね(笑)イい厩イないなイ隼廚辰討い詁票圓盞觜修い襪鵑世蹐Δ覆箸六廚い泙后

―そこでカナの存在が意味を成すというか、彼女はテ段未2人イ貌瓦譴鯤く傍観者ですから、ある意味読者の目線に一番近い。そういう意図で描かれているのかなと思って読んでいました。

でもゥナちゃん嫌い!イ辰討い人も多いんですよ。私はすごく好きなんですけど。きっと誰かにまるごと共感できなくても、夏芽のこの部分は共感出来る、カナちゃんのこの部分は共感出来るといったように、それぞれの一部分に対して親近感を持ってくれているんだと思います。その代わりというわけではないけど、意外とあったのがセ笋旅イな人はコウちゃんそのものです!イ箸、イΔ舛離ラスにまるっきりコウちゃんがいます!イ辰討いα換颪らのコウちゃんいます報告(笑)。こんな人現実にはいないだろうと思って描いてたけど、結構インフレしてましたね(笑)。

―好きな人って、恋愛フィルターが掛かって超人並みに見えるものじゃないですか。夏芽たちもコウを必要以上に神格化して見ているところがありましたけど、それと同じ現象が全国で起きていたのかも。

私としては、夏芽とコウの関係性って恋愛とは別の感情だと思っているんですよ。他にはない運命の相手というか。恋を知らなかった夏芽はコウと出会ってビビビッときて、これは恋愛なんだと思い込んでいるけど、コウがそういう認識でいるのかは微妙なところで、どちらかというと私と同じような思考で行動させていったところがあるんですよね。で、そこに大友くんが恋愛の対象として現れて、夏芽としては一応コウとも恋愛のつもりだったから、2人の間で揺れてしまう。その心情を描くためには大友がコウよりも魅力的じゃないといけなかったので、嫌な言い方をすると大友にいい人要素やカッコいい要素をたくさん入れたんです。だから、もしかしたら大友の方がファンタジーなのではないかと。実際に、連載中はヂ舁Г伐堂蠅鬚っつけてください!イ箸いΔ手紙をたくさんいただきました。

―確かにあの辺りはコウちゃんより、大友の方が魅力的に感じました。

途中からコウちゃんは完全なるダメンズになっていましたからね。もう、やさぐれたバンドマンのような(笑)。


(C) ジョージ朝倉/講談社 (C) 2016「溺れるナイフ」製作委員会

―あははは(笑)。そのコウちゃんがやさぐれるきっかけとなった事件は、物語上もっとも重要なシーンとして映画でも描かれていますが、ずっとこの物語のヒーローとして見ていた人物の立ち位置が急に地に落ちてしまう瞬間で最初に読んだ時は結構衝撃的でした。信じていたものに裏切られたような感覚があって、これも先ほどのキャラ設定同様、少女漫画神話の破壊だなと(笑)。

少女漫画の定説を壊してやろうとは思っていなかったけど、2人の完璧な関係性と自意識の再生を描くには幻想を一度ぶち壊す必要があったんです。でも、コウ自体は何も変わっていないんですよ。

―変わっていないというのは?

映画には出てこないキャラクターで桜司くんという男の子がいるんですが、彼はコウと境遇が似ていて立ち位置がすごく近いんです。で、そんな彼がコウのことをゼ分を映す鏡なんだなイ辰童世Ε掘璽鵑あって、多分それは夏芽にとってもそうなんですよね。コウという鏡に自分の理想を映し出して、それが一回割れちゃったことによって初めて本来のコウを見直すというか。結局、落ちて再生したのは夏芽であって、コウは落ちっぱなしでいいと思っていたし、むしろ私の中では落ちているということもなく、もともとそういう子だったという。

―実は周りが勝手に築いたイメージの中に成り立っていた?

そんな感じかな。コウがあの土地にずっと残るというのは初めから決めていたので、落ちたなら落ちたイメージのままでいいし、最後まで再生しなくてよかった。取り敢えず夏芽が再生すれば物語は完結すると思って描いていました。主人公はあくまで夏芽なんです。

―うーん、なるほど。コウの存在にはどこか謎な部分があったんですけど、そのような意図があったんですね。『溺れるナイフ』はいろんな意味で一度読んだら忘れられない作品だと思うのですが、ジョージ朝倉先生としては、この物語を読者にどのように受け取ってもらいたいですか?

少女漫画がいっぱいある中で、読んだ人にしっかり痕を残せる作品でありたいです。昔、私が大好きな脚本家の方がテ任砲睫瑤砲發覆蕕覆い發里鮑遒辰燭辰討靴腓Δないイ噺世辰討い董△△)榲にそうだなと思ったんですよ。この漫画も、読んだ人にとって毒か薬か、もしくは毒であり薬でもある存在になって欲しいと思って描いていたので、好きでも嫌いでも忘れられない箇所があってくれたら嬉しいです。


(C) ジョージ朝倉/講談社 (C) 2016「溺れるナイフ」製作委員会

GEORGE ASAKURA
ジョージ朝倉 5月11日、東京都生まれ。漫画家。女性。1995年、『別冊フレンド』(講談社)掲載の『パンキー・ケーキ・ジャンキー』でデビュー。2005年、『恋文日和』で講談社漫画賞少女部門を受賞。同作は2004年に映画化、2014年にドラマ化された。また、2008年には『平凡ポンチ』、2015年には『ピース オブ ケイク』も映画化されている。現在は『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『ダンス・ダンス・ダンスール』を連載中。
https://twitter.com/george39asakura

『溺れるナイフ』
監督/山戸結希
出演/小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅(ジャニーズWEST)、上白石萌音、志磨遼平(ドレスコーズ)
11月5日(土)よりTOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー
http://gaga.ne.jp/oboreruknife/