ワイヤレス電源が主流にならない限り、IoTの可能性を存分に発揮することはできないだろう。そして、ここでいうワイヤレス電源とは、ただの無線充電の類を指すものではない。本当のワイヤレス電源は、すべてのケーブルや接触が必要ない。遍在性、安全性、範囲の点でWiFiと似たものである。

基本的に、「IoTの拡散」と「IoTを推し進める我々の能力」には矛盾がある。現状、ワイヤレス電力がないゆえに、本来の力を出し切れていない多数の技術が存在するだろう。以下に挙げる5つの分野において、イノベーションが邪魔されていることを示す事実(技術が機能するために必要なもの)を述べてみたい。

1. 家

Q: 家に動力を必要とするデバイスはどれくらいあるでしょう? 電池や電源を必要とするデバイスをすべて数えてください。

自分の家の場合は、130個だった。そのうち90は、セキュリティシステムのセンサーだ。比較までにいうと、かつて子どもであった70年代、そういったデバイスの数はトランジスターラジオと懐中電灯の2つだけであった。あるイノベーターが、「すべての“もの言わぬ”デバイスにコンピューティングを持ち込んだ」ことで今後、いまの130という数字は跳ね上がることになりそうだ。

これは、バッテリーやサージ保護装置テーブルタップを作っている企業にとってはいいニュースだと思えるかもしれない。だが、実のところIoTイノベーターにとってはそうではない。消費者からすれば、500ものデバイスの電源の面倒をみるのは言葉通り「面倒」すぎるのだ。何の労力もかけずにワイヤレスでおこなえるのであれば別の話だが。

2. 工業

近代的な工場では、たった1つのセンサーの電源が落ちるだけで工場全体が落ちる。現在、工場では数千のセンサーをケーブル経由で動かしているが、ここには2つの欠陥がある。

まず、工場で使われるクラスのセンサーは50ドルほど、その配線には1000ドルはかかる。つまり、「センサーの導入および組み換えは非常に高くつく」ということだ。そして次に、ケーブルから電源を取っているセンサーには、予備電源がない。ケーブルが機能しなくなれば、センサーも機能しなくなるということである。これらセンサーは、無線でやりとりすることから「ワイヤレスだ」と思われているが、電源に関してはそうではない。

ワイヤレス電源は導入コストを大幅に削減し、冗長性をもたらしてくれる。それぞれのセンサーの有効範囲内にワイヤレス電源送信器を2つ置けば、1つの送信器が機能しなくなってもセンサーはバックアップに切り替えることができるであろう。送信器のコストは、現在設置されているケーブルを使用する送信機のコストに比べてほんのわずかである。

3. 小売業

今日、多くの店舗の通路はローテクだ。通路を歩く従業員たちは、値札や特売案内の付替を手作業でおこなっている。デジタル値札を使用している数少ない店舗では、バッテリーが死ぬまでの1年間、日に1-2回にだけであれば内容変更できるといった具合だ。(繰り返すが店内の商品は常に動いているため、ケーブルは実用的ではない)

こういった問題は、すべてワイヤレス電源が解決してくれる。IoT値札は必要なだけ何度でも変更することができ、従業員は値札が消えないように電池を替えて回る必要もない。ワイヤレスで電源をとる値札では、小売業者がパーソナライズされた広告表示をおこない、新たな収入源を得ることもできる。

4. ヘルスケア

病院は昔ながらの聴診器や体温計から、IoTの代替品のモバイルに切り替えようとしている。スマート聴診器を使えば、聴覚と勘に頼るよりもずっと多くの情報を得ることができ、データは患者の記録に自動的に残される。ほか携帯用超音波スキャナーは、これまで多くの時間やお金がかかっていた測定を容易にしてくれる。

だが、IoT医療デバイスが故障する可能性を考えると、どうしてもその利用は制限されてしまう。医療団体は、スタッフを十分な装備が整わない状況で医療行為に従事させるリスクを冒すことはできない。ワイヤレス電源は、そういったリスクも取り除いてくれるだろう。

5. ウェアラブル

IoTウェアラブルを作ってやると考える起業家はいるだろう。腕時計、シャツや帽子等は序の口だ。しかし、今日のウェアラブルはすべて、コードを用いた充電が必要である。スマートウォッチ1つを充電するにも必要だという事実はいい一例だ。たとえば、一挙に50台を充電することなど不可能であろう。

ウェアラブルを健康管理のために使う人々にとってはことさらだ。糖尿病患者の多くは血糖値測定のために採血をおこない、注射器を使ってインシュリンの投与をおこなう。これがIoTで血糖値レベルの測定とインシュリンの自動的投与に代われば素晴らしいことだが、いつ切れるか分からない電池に誰が命を預けるだろうか?

ケーブルを無くそう

もしIoTに大量普及のきっかけがあるとすれば、それはWiFiのように「簡単に使えるワイヤレス電源」なしに訪れることはないだろう。

IoTのイノベーションは、最後のケーブルがなくならない限り「絵空事」の域を出ない。現在WiFiが当然のものになっているように、ワイヤレス電源が我々の生活の一部となったとき、IoTはそのポテンシャルを十二分に発揮することができるのだ。

著者はOssiaの設立者 兼 CTOである。

HATEM ZEINE
[原文4]