「Thinkstock」より

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●生ものだから儲からない?!

 本連載前回記事では、食品製造業の5つの特徴をみてきたが、そのなかでも最も顕著な特徴である「儲かりにくい」理由について、今回は考察していきたい。

 なぜ、食品製造業は儲からないのか。その理由を明確に指摘した研究は見つからないため、今回改めて整理してみる。

 ひとつ参考になるのが、『食品製造業』【編注11】という出版物の次の一節だ(以下は、利益との因果関係を示したものではない)。

「食品製造業では、原材料、半製品、製品などの棚卸資産(在庫。企業が販売目的で一時的に保有している商品・製品、原材料、半製品、仕掛品などの総称)が鉱物などではなく生ものである点で、他の製造業と大きく異なっている」

 生ものである場合、(1)原料の入手時期に季節性がある、(2)生産数量が原料の豊凶の差に依存、(3)保存性が乏しい、(4)腐敗しやすく、品質維持が困難、(5)安全性が求められるなどのデメリットがある反面、加工しやすいというメリットもある。

 デメリットをカバーするために、さまざまな工夫やコストがかかり、それが収益を圧迫するのではないか。

 また、食品製造業では、原材料への依存度が高く、もともと原材料がコスト高になりやすい。さらに工業製品に比べて加工度が低く、商品としての独自性を発揮しにくいことから、簡単に真似されやすいことなども、低収益性に関係しているようだ。

●バイイングパワーの“たかりの構造”

 スーパーなど大規模小売業者が安く大量に仕入れることが可能なバイイングパワー(優位な仕入れ力・購買力)は、消費価格の引き下げなど消費者のメリットもある。しかし、その「優越的地位の濫用」【編注12】によって、取引先に対して不当に不利益を与えることは公正な競争を阻害するおそれがあるとして、独占禁止法によって禁止されている。

 特に大規模小売業者については、特定業種にのみ適用される不公正な取引方法(特殊指定)のひとつとして、「優越的地位の濫用」の規定【編注13】が置かれている。

 ところが、地位濫用の悪習は一向になくなる気配がない。低価格競争が激化すれば、なおさらか。食品産業界(食料品・飲料製造業)唯一の中核的・横断的団体「食品産業センター」の調査【編注14】によれば、地位濫用の主な方法は3つだ。

 ひとつは協賛金負担の要請で、「小売業者間での生き残りをかけた競争が一層激しさを増す中で、大規模小売業者は依然として製造業者に不当な協賛金を要請」「製造業者が得る利益に見合わない協賛金を支払わされている事例は依然多い」(同調査より)。

 全体の約30%が協賛金の要求を受け、うち約33%が「全て」「ほとんど」、約61%が「ケースバイケース」で応じていた。

 金額は「月間売上の1%程度要求される」「カタログ掲載料が売上金額よりも高い、断れば取り扱いが無くなる」(同)。

 種類としてはチラシ協賛金がもっとも多く、新製品導入協力協賛金、新規(改装)オープン協賛金、決算対策協賛金などが続く。小売業態別では、百貨店と大型総合スーパー、生協でチラシ協賛金、食品スーパーとドラックストアで新規(改装)オープン協賛金、コンビニエンスストアとディスカウントストアで新製品導入協力協賛金がそれぞれ多かった。

 2つ目がセンターフィー負担の要請だ。センターフィーは、卸やメーカーが大手スーパーの物流・配送センターへの商品納入時に支払う、センター使用料を指す。

 全体の約50%が「センターフィー負担」と回答し、さらにその約48%が(「コスト削減分【編注15】を上回る負担」と答えた。「売上の10%としており、根拠、契約書なし」「10%を超える。利益も含まれていると感じる」「売上が伸びるわけではないのに経費だけが増える」(同)

 3つ目は、納入業者が自社の従業員を大規模小売業の店舗などに派遣する、従業員派遣の要請だ。全体の約28%で派遣要請があり、特にドラックストアと食品スーパー、ディスカウントストア、大型総合スーパーで多かった。

 要請された業務内容は「棚替え、棚卸し、店舗の清掃、整理等」がもっとも多く、「店舗の新規・改装オープン時などの同業他社製品を含めた陳列・補充作業」が続く。派遣従業員の日当・交通費支給については、「全く出なかった」が特に百貨店で約57%もあった。

 その他の要請としては、「賞味期間が残っているのに、半値以下で販売」など、不当な値引きや特売商品の買い叩きなどがある。

 なお、公正取引委員会の調査【編注16】によれば、「以前は、直接スーパーから商品の要請があったが、今は、卸業者を経由して要請される」ケースも珍しくはなさそうだ。まさに、流通業界のせこいダーティビジネスが花盛り。バイイングパワーの“たかりの構造”の根は深い。
 
●食の偽装を生むワルの温床

 1億2700万人の胃袋を賄う食品製造業は、木製の風呂桶さながらに“たかりの構造” の箍(たが)をはめられながら、低利益に泣き、人手は多く、低収入を分かち合う。食の安心・安全を守る生産基盤(インフラ)としては、余りにも脆弱なのではないか。食の偽装を生むワルの温床になっているのでは、と危惧される。

 次回は、廃棄物処理コストなど食品リサイクルの問題点を探りたい。
(文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト)

【編注11】『第1節 食品製造業とは』新日本有限責任監査法人編「食品製造業」第一法規、2010.11。
【編注12】「優越的地位の濫用」=公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法の考え方ガイドブック」平成27(2015)年11月30日。
【編注13】(「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」平成17(2005)年5月13日公正取引委員会告示第11号。
【編注14】「平成27年度食品産業における取引慣行の実態調査報告書」平成28(2016)年6月。調査は食品メーカー1700社対象で、うち22業種・323社が有効回答。
【編注15】「センター利用による物流費のコスト削減分」と著者解釈。
【編注16】公正取引委員会事務総局「食料品製造業者と卸売業者との取引に関する実態調査報告書」平成23(2011)年10月。