シーズン9人目の優勝者は、やはり、皆が予想していたとおりアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)だった。

 ウェットコンディションで行なわれた第17戦のマレーシアGP決勝レースで、ポールポジションからスタートしたドヴィツィオーゾは、レース序盤からトップグループの3番手につけて周回を重ねた。半ばを過ぎたころに2番手に上がり、ラスト5周でトップに立つと、以後は後ろのバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)を一気に引き離してリードを築き、トップでチェッカーを受けた。

「とても厳しいレースだった。外から見るかぎりではレースをコントロールしているように見えたかもしれないけれども、実際にはそうじゃなかった。レース序盤に水量が多いときは(チームメイトの)イアンノーネやバレンティーノがとても速かった。あきらめずにミスをしないように心がけ、がんばってついていったから、終盤に好機を捕まえることができた」と、ドヴィツィオーゾは19周の戦いを振り返った。

 ドヴィツィオーゾの最高峰クラス優勝は、2009年のドニントン・パーク(イギリスGP)以来、これが2回目。2013年にドゥカティへ移籍してからの4年間では、さまざまな労苦も強いられてきたが、この優勝でようやくその努力も報いられたことになる。2位で終えたロッシや3位のホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が、表彰式やその後の記者会見でドヴィツィオーゾの優勝を心から祝福していた姿にも、その人柄がよく反映されている。

「自分の特徴は、最初のレースから速いとか、1周目からずば抜けているというタイプじゃなくて、一歩一歩確実に行くスタイル」

 そんなふうに自己分析するとおり、その沈着冷静な性格や分析的な視点は、この人ならではの武器である。今年のシーズン半ばに8人の異なる選手が次々と優勝を飾っていたときに、9人目の優勝者としてドヴィツィオーゾの名前を皆が揃って挙げたのは当然のことだ。

 だが、そのときにも本人は、「皆が自分の名前を挙げてくれるのはうれしいけど、プレッシャーもあるよね。ファクトリーライダーだから自分の名前が挙がるのは当然かもしれないけど、いつも近いところまで行きながら勝てない。もちろん、勝つためにいつもがんばってるけど、そうそう思いどおりにはいかないよ」と、落ち着いた口調で受け流した。

 今回の優勝により、ようやく皆の指名に結果で応えたわけだが、それに対する自分自身の受け止め方は、やはり彼ならではの冷静なものだった。

「実際のところは、今回の勝利はメディア(の注目)よりも自分にとって重要なことなんだ。ライダーは全員が勝ちたいと思っているし、皆がその喜びを味わいたいと思っている。僕たちはシーズンをよく戦っていくためのベースもあった。(チームメイトのイアンノーネが優勝した)オーストリアでは勝てると思っていたし、勝てるバイクに仕上がっていたけれども、リアタイヤの選択を間違えてすごく悔しかった。でも、シーズン終盤にこうやって勝つことができて、本当によかった」

 今がシーズン最高の幸福の瞬間であることは間違いない。だが、今年は特にシーズン前半に、さまざまな不運に見舞われることも多かった。ここに至るまでの間に、もっともつらく厳しかったのはいつだったのか、と訊ねてみた。

「第2戦目から3戦連続で、自分の過失ではないのにノーポイントだったときだね。あの3戦では、少なくとも2戦で表彰台を獲得できていたと思う」

 開幕戦のカタールGPでは2位表彰台を獲得したが、次のアルゼンチンGPでは、最終コーナーの最終ラップにチームメイトのアンドレア・イアンノーネに接触されて転倒。あと数百メートルのところで表彰台を逸した。翌週のアメリカズGPでは、表彰台争いのバトルを繰り広げていた最中の1コーナーで、これもイン側から当たられて転倒。第4戦のスペインGPではウォーターポンプが破損してリタイア。そんな状況でも常に冷静さを保ち続けていた彼の姿勢は、自分の力ではどうしようもない運や巡り合わせの悪さを余計に際立たせた。

「あの3戦で失ったポイントは大量だし、チャンピオンシップを考えるとシーズン序盤にポイントを稼げているのといないのとでは、状況はだいぶ違う。だから、あれはかなり厳しかった。チャンピオン争いをしていくことが重要なのだから、ドゥカティの今年の進歩はうれしいけれども、まだ十分じゃない、自分たちにはもっと改善できる余地がある。本当にチャンピオンを狙うためにはさらにその先が必要だし、僕はそこに到達したいんだよ」

 序盤の3戦でポイントを取り逃していなければ、今年のドヴィツィオーゾはおそらくロッシ、ロレンソの両名と激しいランキング2位争いを繰り広げていただろう。だが、そこからチャンピオンのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)までは、さらに少しの差があるのもまた、事実だ。

 その差を埋めていくために、ドヴィツィオーゾの指摘する「改善できる余地」の作業を、この冬の間にどれだけ進めることができるのか――。それが、来シーズンのカギを握る。今回の第17戦で彼らが達成した優勝は、その大きな励みと糧になることだろう。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira