技術活かした介護を−世界が期待する日本のシニアケアビジネス

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アジア最大規模のシニアケアビジネスフォーラム、Ageing Asia Innovation Forum(AAIF in JAPAN2016)が10月末、都内で開かれた。毎年シンガポールで開かれるこのフォーラムは、世界20か国以上の民間企業・NPOの経営者、行政長官など200名を超える関係者が集まる介護ビジネスにおけるビッグイベントだ。

3度目の日本開催となった今年も、香港、シンガポール、フィンランド、オーストラリア、サウジアラビアなど様々な国の介護事業者が一堂に会し、介護ビジネスの未来について議論が行われた。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2035年には日本の総人口に占める65歳以上の割合が33.4%となり、3人に1人が高齢者になるという。そんな世界一の高齢化社会先進国の取り組みには、世界のシニアケアビジネス関係者の注目が集まるのも至極当然だ。

AAIFはすべて英語で行われる。参加者の多くが海外からの聴講者によって占められ、日本からの参加者が少なかったのは残念であったが、決して得意ではない言語の壁に挑戦しながら日本での取り組みを世界に向けて発信した意義は大きい。海外からの参加者はそんな日本勢に、テクノロジーを使った介護ビジネスに対するノウハウを期待していた。

香港のシニア住宅デベロッパー企業社長は「香港は土地の政策はあっても、介護に関する政策がない。だから、日本の介護政策について大変興味がある。また、是非、日本の技術、特にロボットを使った解決方法を知り、香港に持ち帰りたい」と語った。

会場に集まった海外の介護関係者たちが期待するように、確かに世界の介護ビジネスにおいて、技術やITなどを使ったソリューションは日本がリードしているように見える。ただ、実態はどうか。

この会のチェアパーソンである東北大学特任教授で、団塊・シニアビジネス、高齢社会研究の第一人者である村田裕之氏は言う。

「いまだ、多くの事業者が『介護は人の手でするものだ』という既成概念にとらわれ、技術の導入に対して消極的なことは否めない」

様々な国から集まった介護関係者たちが、日本なら技術を用いた先進的な介護ビジネスを展開しているだろうと抱くイメージほど、全体に広がっていないというのが現状なのかもしれない。

機械や技術、ITを使うことによって、介護業界の生産性は上がる。高齢化が進む日本において、生産性向上は喫緊の課題のひとつだ。それが結果的に、事務・身体的負担量の軽減による作業効率の向上や、腰を痛めて辞めざるを得ない人などの減少による離職率低下、また、それを受けての従業員や利用者の満足度向上につながる。

さらに、機械を導入することによって生産性が上がるということは、同じコストでより多くのサービスを提供できることであり、それがひいては、スタッフや業界の賃金レベルの上昇にも結びつく。

介護の仕事というのは労働集約と捉えられがちだが、そうではない。工夫や技術を使うことによっていくらでも、知的集約、クリエイティブ集約になれるはずである。

技術を積極的に取り入れ、感性と技術を融合させることで新たな価値の創出とケアの質の向上に努めているオリックス・リビングの森川悦明代表取締役社長はこう指摘する。

「『機械を使う』というと、確かに当初は『人の介護技術は必要ないのか』『人をモノ扱いするな』という反応があった。しかし、濡れている体を手で抱えているのは日本だけ。その方がよっぽど危険だ。実際に、使い始めると介護される方の負担が減ることで、介護を受ける方も元気になり、笑顔も増えている。結果、介護従事者の離職率の低下にもつながった」

もちろん、技術だけが介護ビジネスに必要な要素ではない。本来的な介護の仕事は、自立支援や緩和ケア、看取りの援助のように、人間の専門的な力の総和にある。しかし、介護をする人たちが、その本質的な仕事に十分に力を注げるよう、作業効率を上げるための技術はやはり積極的に取り入れていくべきではないか。

慢性的な人手不足、増加する老人福祉・介護事業者の倒産など、シニアビジネスを取り巻く環境を危機的と指摘する声も少なくない。ただ、世界に例を見ない速度で高齢化が進む日本だからこそ、その文字が示すように、「危」を「機」に変えることもできる。社会課題という宝庫に眠る、好機を見過ごしてはならない。